映像2023.10.25

“六人の女”が竹野内豊、山田孝之を監禁!?自然との共生を描いたファンタジックな物語

Vol.56
『唄う六人の女』 監督
Yoshimasa Ishibashi
石橋 義正
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2023年10月27日公開の映画『唄う六人の女』は、ダブル主演に竹野内豊と山田孝之を迎えた、奇妙なサスペンススリラー。水川あさみ、アオイヤマダら個性豊かな女優陣が、言葉を話さない謎の“六人の女”を演じる。人里離れた深い森の中で巻き起こる、2人の男と、6人の女が繰り広げる攻防の裏に、どのような過去や事実が潜んでいるのか……?

満を持して、前作から約10年ぶりとなる長編映画を世に放つ石橋義正監督に、作品への想いや表現者としてのこだわりなどについて、うかがいました。

沸き上がった疑問と、森で感じたエネルギーを脚本に投影

久しぶりに長編映画のメガホンをとったわけですが、『唄う六人の女』はどのような背景から生まれた作品なのでしょうか?

本作のテーマは、「共生進化」です。前作の『ミロクローゼ』(2011年)を発表してからずっと、また映画を作りたいと思い続けていて。ある時ふと湧いてきた疑問がありました。それは、「あらゆる生きものの中で人間だけが、自然のサークルからはみ出して自然を破壊する存在になっている。にもかかわらず、人間はなぜ生まれてきたのだろう? きっと、何か理由があるはずだ」ということです。

疑問を抱くうちに、自然に対して大きな興味をもつようになって、国内のさまざまな森に入り、豊かな自然を体感する経験を重ねていきました。そこで感じたことも含め、テーマとして次の映画にぶつけてみようと思ったのです。

石橋監督は、脚本も手掛けています。テーマをもとにどのように物語を紡いでいったのでしょうか?

今回は、脚本家の大谷洋介さんとの共作です。骨子を書いてお見せしたところ、大谷さんから、「人間と自然」というテーマだけではなく、「親と子」の関係性などいくつものテーマを重層的に盛り込んだ方がいいとアドバイスをいただきました。複雑さが加わって、よりリアリティのある物語になるのではないかと。そうして、2人でアイデアのキャッチボールを繰り返しながら、練りあげていったのです。私自身がいろいろな森に入って五感で感じたことも、脚本に反映されています。

撮影は、京都府南丹市にある森の中で実施したそうですね。壮大な風景が作品の重要なピースの一つだと思います。ここを撮影場所に選んだ理由は何ですか?

撮影場所は、京都大学が管理している研究林です。脚本ができあがる頃にガイドの方と足を運びました。新緑があふれる5月頃で、ちょうど雨が降っていて、言葉にできない美しさを感じたのです。生命の存在感のようなものを強く覚えて、ここで撮れたら、(自然が)作品に力を与えてくれるのではないかと思いました。

研究林ですから簡単には撮影許可が下りません。そこで、自然とともに生きていくことをテーマにした作品であることを丁寧に説明した結果、自然を傷つけないためのさまざまな条件をクリアして、許可をいただきました。きっと、違うテーマの作品ならNGだったと思います。

石橋監督が感じた森の美しさを最大限、表現するために、どのような工夫をしましたか?

私が森に入って体感した感動を、スタッフやキャストの皆さんにも同じように感じてもらうことで、それぞれの役割を通して体現してもらえるのではないかと思って、撮影前に一度、森を体感する機会を設けました。皆、私と同じく感動していました。こうして感動を共有したことによって、この森で撮る意味が制作チームの中で明確になったような気がします。

「アート性」と「客観性」を、絶妙なバランスで両立させる

石橋監督は、舞台やテレビCM、人形を使ったアニメーション作品など、さまざまなクリエイティブを手掛けています。その中でも、長編映画はご自身にとってどのような位置づけなのでしょうか?

シンプルにいうと、「死ぬまでやり続けたいこと」です。子どもの頃から映画監督になりたいと思っていましたので、今夢が叶っているのは幸運なことですね。私のいろいろな活動の中でも、映画監督は特別なものです。とは言え、どの媒体であってもクリエイターとして作品をつくるという点では同じです。だからこそ、映画をつくるときも、オリジナル脚本でないのであれば意味がないと思っています。

展覧会に出す作品などと比べて、映画は間口が広い媒体ですから、できるだけわかりやすい表現を取り入れなければいけません。一方通行の表現にならないよう、脚本の段階でプロデューサー陣に客観的なフィードバックをいただきました。いただいた声を反映しつつも、同時に「どうしてもこのシーンは入れたい」というこだわりも追求しました。

具体的に石橋監督がこだわったシーンとは、どのようなところなのでしょうか?

たとえば、冒頭で水川あさみさん演じる“刺す女”がセミを食べるシーンや、アオイヤマダさん演じる“濡れる女”が酒を飲んで酔っ払うシーン。これらはストーリーには直接関係しませんが、映像作家としてぜひとも入れたい表現でした。不必要なものをあえて入れることが、私はアートだと思うのです。必要なもの、わかりやすいものばかりを表現しても、アートにはなりません。見る人が自分なりの想像力を広げられることを、私の作品では大切にしたい。映画制作においては、不必要なものを含めつつ、多くの人に届けるための意見も取り入れる。そのバランスを、今回は非常に大切にしました。

石橋監督にとって、表現することは、どのような意味を持ちますか?

私には、これしかできません。私から表現することを取ってしまったら、何も残らないと思います。表現とは自分ができることで、好きなことで、人生にとって欠かせないことですね。幼い頃から持っていた、ものを作ることへの興味が尽きないから続けているのだと思います。何か一つ作り終えるとへとへとになるのですが、また作りたいものが出てきて、「しんどいんだろうな……」とわかっていながら、またやり始めてしまうのです。

予定調和ではつまらない。常に新しいものに手を伸ばす

石橋監督がクリエイターとして、日々大切にしていることは何ですか?

常に何かしらのチャレンジをすることです。今までやっていないこと、誰もやっていないことを積極的に取り入れる。うまくいくかどうかわからないことの方が、やっていておもしろいですから。

そういった意味で本作は、私が抱いた疑問をテーマにして映画化すること自体がチャレンジでした。正直、無茶かもしれないなと思っていました。“六人の女”たちが一切しゃべらない設定というのも、なかなかチャレンジングな表現ですね。“六人の女”を演じた皆さんには、セリフがないだけでなく、表情もほとんど作らず、瞬きも一切しないでほしいとお願いしました。表情を変えずに感情表現をしないといけないのは、大変なことですよね。

ただ、表情がないからこそ、見る人は登場人物が言いたいことを想像せざるを得ません。それによって、セリフで伝えるよりももっと強いメッセージを受け取る人もいるでしょう。それは、映画でしかできない手法ではないでしょうか。

“六人の女”の中でも、水川あさみさん、アオイヤマダさんの存在感が際立っていました。お2人の印象はいかがでしたか?

水川あさみさんがすごいなと思ったのは、無表情の中にほんの少し、「うれしそう」「悲しそう」などの感情が見えること。さすがだなと思いました。アオイヤマダさんの水中での演技も圧巻でした。衣装を着けた状態で長時間水に潜ってパフォーマンスをしなければいけない大変なシーンで、あまりにも素晴らしくて撮り終えた瞬間、涙が出てきました。スタッフからも自然と拍手が起こっていましたよ。

主演の竹野内豊さん、山田孝之さんはいかがでしたか?

竹野内さん演じる萱島(かやしま)は、優しくてちょっぴりユーモアのあるところが、竹野内さんにぴったり当てはまるキャラクターだと思います。アクションや水中での潜水など、体当たりのシーンが多かったのですが、見事に演じてくださいました。

山田さんは、前作でご一緒したときから、絶対的な信頼を置いている役者さんです。ファンタジックで荒唐無稽なストーリーですから、どこかでリアリティを持たせる必要があり、それを山田さんが担ってくださいました。彼の存在感にリアリティがあるからこそ、見る人は素直にストーリーを受け入れられると思います。主演をお二人にお願いできて、本当に良かったです。

今できなくても、いつかきっと実現すると信じて行動を

ものづくりのアイデアは、どこから生まれてきますか? 次の作品についての構想はもうあるのでしょうか?

実は今朝、新しい構想が見えました。誰かと話をしているときに、「やってみたいな」というものに出会うことが多いような気がします。具現化したときにおもしろいかどうかは置いておいて、やりたいことは常にありますね。

今興味があるのは、作り手と受け手の距離が近い表現方法。たとえば料理人。その場で料理をして、目の前でお客様に食べてもらいます。それは作り手と受け手が非常に近しい、一つの表現だと思うのです。そのくらい近くで受け手に届けられるような、表現方法を模索しています。

最後に、クリエイティブな現場で頑張っているクリエイターの皆さんへ、メッセージをいただけますか?

やりたいと思ったことが、すぐにうまくいくとは限りません。うまくいかないことがほとんどだと言ってもいいでしょう。私自身、以前からやりたいと思っているけれど、まだできていないことは数多くあります。反対に、叶ったことも多いのです。あきらめずにいたら、10年先、20年先かもしれないけれど、いつかはできると信じることが大切です。

私は大学で教鞭をとっていて、学生たちにはよく「今すぐには実現しないアイデアでも、ずっと持ち続けてほしい」と伝えています。この先の人生で出会う人との縁で形になることもある。肝心なのは、実現するために自分がどれだけ行動するか。胸に秘めておくだけではなく、行動を起こし続けることで、花開くときが来ると思います。

取材日:2023年9月18日  ライター:佐藤 葉月 ムービー 撮影:新川 瞬 編集:指田 泰地

『唄う六⼈の⼥』

©2023「唄う六⼈の⼥」製作委員会

10 ⽉27 ⽇(⾦)、TOHO シネマズ⽇⽐⾕他、全国ロードショー

出演:
⽵野内豊 ⼭⽥孝之
⽔川あさみ アオイヤマダ ⼤⻄信満 植⽊祥平 下京慶⼦ 鈴⽊聖奈 津⽥寛治 ⽩川和⼦
⽵中直⼈

監督・脚本・編集:⽯橋義正
脚本:⼤⾕洋介
⾳楽:加藤 賢⼆ 坂本 秀⼀
制作プロダクション:クープ コンチネンタルサーカスピクチャーズ
制作協⼒:and pictures
配給:ナカチカピクチャーズ/パルコ
©2023「唄う六⼈の⼥」製作委員会

https://www.instagram.com/utau.onna6/
X(Twitter):@utau_onna6

 

ストーリー

ある日突然、40年以上も会っていない父親の訃報が入り、父が遺した山を売るために生家に戻った萱島(竹野内豊)と、その土地を買いに来た開発業者の下請けの宇和島 (山田孝之) 。契約の手続きを終え、人里離れた山道を車で帰っている途中に、二人は事故に遭い気を失ってしまう……。目を覚ますと、男たちは体を縄で縛られ身動きができない。そんな彼らの前に現われたのは、この森に暮らす美しい六人の女たち。何を聞いても一切答えのない彼女たちは、彼らの前で奇妙な振る舞いを続ける。異様な地に迷い込んでしまった男たちは、この場所からの脱走を図るが……。

プロフィール
『唄う六人の女』 監督
石橋 義正
銅駝美術工芸高校日本画科を卒業。京都市立芸術大学大学院造形構想に在学中、英国王立芸術大学映画科に交換留学。2000年より映像制作会社・石橋プロダクションを設立し、映画、テレビ番組などを製作・監督。同時に映像&パフォーマンスグループ「キュピキュピ」を主宰し、国内外の美術館や劇場などでインスタレーションや舞台作品を発表。映像メディアを軸としたボーダレスな活動を行う。主な作品に、映画『ミロクローゼ(2011年)』、テレビ東京系『オー!マイキー(2002年~)』ほか。京都市立芸術大学美術科教授。

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