本気の「でたらめ」が価値を生む。タローマンの生みの親が語る、クリエイターの本質とは?
言わずと知れた、日本を代表する芸術家・岡本太郎。彼が手掛けた作品と発した言葉をモチーフに制作されたのが、「TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇」です。「太陽の塔」が特撮ヒーローに、「縄文人」や「明日の神話」など岡本太郎の代表作が奇獣になって登場するユニークな作品は、放送されるや否やXのトレンドに入るなど、話題沸騰。そして同作が、『大長編 タローマン 万博大爆発』として映画化されると発表になると、再びファンたちの熱い声が噴出しました。
同作の監督・脚本を務めているのは、広告制作や映像作家として活躍する藤井亮さん。細部まで作り込まれた“でたらめな映像”が、藤井さんが手掛ける作品の特徴です。藤井さんが考える“でたらめ”とは何なのか? 映画の見どころとあわせて、お話をうかがいました。
“でたらめなもの”を作るには、思考をパターン化させないこと

藤井さんは、武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科を卒業されていますが、いつからクリエイターになろうと考えていたのですか?
僕は、クリエイターなんて言葉を誰も知らないような愛知県の田舎に生まれました。幼い頃からものを作ることが好きでしたが、「美大に行く」と言ったら笑われるような環境でしたから、普通に勉強をして地元の進学校に進みました。けれど、初めての定期テストで300人中290番くらいの成績を取ってしまって。「こんな片田舎の高校ですら、自分よりも勉強ができる人がたくさんいる。自分はどこで勝負をすればいいんだろう?」と考えたのです。
その時に思い浮かんだのが、絵を描くこと。それで、思い切って美大へ行くことにしました。親や先生に「将来、食っていけないぞ」と言われ、「デザインなら仕事になるかも」と選んだのが、武蔵野美術大学・視覚伝達デザイン科です。大学の授業で5分ほどのショートフィルムを作る課題があり、馬鹿馬鹿しいコントのような作品を作ったら、それがみんなにウケて。すっかり映像作りにハマって、デザイン科なのに映像ばかり作る日々が始まりました。
藤井さんは、自身を「でたらめなものを作る人間」とおっしゃっていて、奇想天外な作品を数々と手掛けています。藤井さんが考える「でたらめ」とは、どのようなものなのでしょうか?
“でたらめとは、こういうものです”と答えがあったら、それはもはや、でたらめではない。だから説明が難しいですね。でも、わかりやすく言えば、パターンやルールなどから逸脱したもののことだと思います。“いい加減”とか“雑”といったイメージが湧くかもしれませんが、それとはまったく違います。でたらめこそ、真面目にやらなければいけません。
タローマンの作品を撮る際も、スタッフが“適当”とか“楽をする”という意味で「でたらめにやっちゃおう」と言ったら、すかさず「それは違うよ」と訂正していました。でたらめを本気でやるからこそ、生まれてくる価値があると思う。難しくもあり、おもしろい部分でもありますね。
でたらめなものを作るために、日々のインプットで気を付けていることはありますか?
最近はSNSでも何でも、自分の趣味嗜好に合ったオススメばかりが目に入りますよね。そればかり見ていると、思考がパターン化してしまう気がして、なるべく自分の興味とはかけ離れたものに触れるようにしています。興味のない本、いつもは通らない道、接点のないテーマなどを意識的に選ぶ。そうやって、自分に入ってくる情報を意図的にずらしています。
僕には3歳と6歳の子どもがいるのですが、新幹線を見に行くとか、子どものおかげでまったく知らなかった世界を知ることができておもしろいですね。しかも子どもは、すぐにほかのものに目移りするので、刺激をたくさん受けています。
想定以上の人気者に!タローマンが大きなスクリーンで大暴れ

8月22日に『大長編 タローマン 万博大爆発』が公開されます。もともと、タローマンはどのように生まれたのですか?
2022年に岡本太郎の大規模な回顧展が行われることになり、NHKから「彼の言葉や作品を伝える番組を作りたい」と、相談をもち掛けられたのがきっかけです。ドラマやドキュメンタリーなど岡本太郎を取り上げた名作はすでに数多くあって、「そんな中で、一体何をしたらおもしろいだろうか?」と考えました。
僕には太陽の塔が、目からビームを出して街を焼き払う怪獣のように見えたんです。それで、「岡本太郎が作った作品の巨大さやべらぼうさを、そのまま怪獣にして映像化したらおもしろいはず」と、提案をしました。
放送後は、Xでトレンド1位を獲得するほどの話題になりました。ここまでの反響を想定しましたか?
まったくしていませんでした。NHK Eテレで深夜に放送するたった5分の番組ですから、「一部の人がおもしろがる、カルト番組になったらいいな」くらいの気持ちで作っていました。こんなにも老若男女に人気が出るとは思いませんでしたね。さっきも、映画のキャンペーンのために渋谷でイベントをしてきたのですが、タローマンを見に数百人もの列ができて、上野のパンダを見るようにタローマンの前を通り過ぎていって。ここまでの熱い反応は、僕が手掛けた作品の中でナンバーワンですね。
どういった点が、多くの人にウケているのだと思いますか?
もの作りに携わっている人には、「岡本太郎の強い言葉に勇気をもらう」と言われますし、昭和の特撮好きには懐かしさが魅力なのだと思います。丁寧に作品や彼の言葉を紹介しているので、美術番組として見てもおもしろいはずです。
子どものファンも多いんですよ。子どもたちからは「タローマン、でたらめをやってくれてありがとう」という手紙が届くこともあります。自分が普段できないでたらめなことを、思い切りやってくれる存在としてのありがたみや、親近感のようなものを感じてくれているのかもしれません。イベントにも、親子連れがたくさん来てくれました。
5分番組から、105分の大長編にスケールアップしましたが、見どころはどのようなところでしょうか?
たった5分でも、「胸やけがする、お腹いっぱいの番組」と言われていたのですが、そのテンションのまま、105分にしたらどうなるだろうと思って作りました。でたらめの洪水を浴びて、観終わった後グッタリするような作品にしたいなと。なんにせよでたらめなので、誰にでも見やすい映画だと思います。NHKで放送したタローマンを見ていなくてもわかる内容になっていますから、このタイミングでぜひタローマンに出会ってほしいですね。
しんどい、でも楽しい。それこそがクリエイターの世界

藤井さんにとって、岡本太郎とはどのような存在ですか? テレビにも映画にも、彼の言葉が散りばめられていますが、その中で好きな言葉は?
子どもの頃は、「ちょっと変なことをしているおじさん」という印象でした。でも、詳しく調べていくと、さまざまな論文を書いていたり、フランス語が堪能だったり、縄文土器の美術価値を再建していたりと、実はインテリな人だとわかりました。きちんとしている人が、あえて奇抜なことをしている。それが興味をひかれます。僕自身、ふざけたものを作っていながらも根が真面目なので、勝手に親近感を抱いていますね。
好きな言葉は多いですが、一番はやはり「でたらめをやってごらん」でしょうか。でたらめをやるって、簡単そうに見えて実はすごく難しい。誰でもできると思われがちですが、どうしてもどこかで見たことがあるもの、何かに似ていることをやってしまうんです。だからこそ、クリエイターとして心に残る言葉ですね。
読者である若手クリエイターの皆さんに、メッセージをお願いします。
僕自身、何かを作っている間はずっとしんどい。だから、簡単に「頑張ってください」と背中を押せません。もし自分の子どもがクリエイターになりたいと言い出したら、いかに大変なのかを延々と説明しようと思うくらいです。僕はもの作りが好きなので、楽しさはもちろんあるのですが、「楽しい」と「楽(ラク)」は、漢字が一緒でもまったく違うというか……。今回の映画作りでも、僕の仕事を時給換算したら、きっと100円を切るんじゃないかと思うんですよね。それくらい突き詰めて取り組んでいます。
妥協せずにとことん突き詰める理由は、「自分がやりたいから」。締め切りが近いとか、予算が足りないとか、クライアントの意向とか、やらない理由はいくらでも挙げられますが、やらないと良いものは作れません。ラクで、儲かって、キラキラしたところで働きたいのであれば、ほどほどのクリエイティブをすればいい。だけど僕の知っている限り、一流のクリエイターはみんな大変そうです。ラクではない方の楽しさを求めて、もがいている。しんどいけれど楽しい世界ですから、そこに喜びを感じられる人には、ぜひオススメしたいですね。
取材日:2025年7月28日 ライター:佐藤 葉月 スチール:あらい だいすけ 動画撮影:指田 泰地 動画編集:鈴木 夏美
『大長編 タローマン 万博大爆発』

©2025『大長編 タローマン 万博大爆発』製作委員会
8月22日(金)全国公開
出演
タローマン
太陽の塔 地底の太陽 水差し男爵 縄文人 明日の神話
解説:山口一郎(サカナクション)
監督・脚本:藤井 亮
企画・プロデュース:竹迫雄也
プロデューサー:加藤満喜 桝本孝浩 倉森京子 柳本喜久晴
佐野晴香
撮影:藤本雅也 照明:東岡允 美術:伊藤祐太 録音:辻元良
衣裳・ヘアメイク:浅井可菜 編集:奥本宏幸
VFX:安田勇真 妻谷颯真
ポスプロコーディネーター:のびしろラボ
音楽:林彰人 監督補:佐野晴香 制作担当:富田綾子
宣伝プロデューサー:山澤立樹
製作:『大長編 タローマン 万博大爆発』製作委員会
制作プロダクション:NHKエデュケーショナル 豪勢スタジオ
配給:アスミック・エース
協力:公益財団法人岡本太郎記念現代芸術振興財団
協賛:キタンクラブ 三井住友海上 アルインコ 日本建設工業
©2025『大長編 タローマン 万博大爆発』製作委員会
ストーリー
時は1970年。
万博開催に日本がわきたっていたその時、2025年の未来から
万博を消滅させるためにやってきた恐ろしい奇獣が襲いかかる!
でたらめな奇獣に対抗するには、でたらめな力が必要。
しかし、未来の世界は秩序と常識に満ち溢れ、
でたらめな力は絶滅寸前になっていた。
CBG(地球防衛軍)は万博を守るため、
タローマンと共に未来へと向かう!
細部まで作り込まれた"でたらめでくだらない映像"で数々の話題作、受賞作を生み出してきた。今作でも、監督・脚本だけでなく、アニメーションやキャラクターデザイン、背景制作など多くのパートを担い、独自の世界を構築している。






