WEB・モバイル2008.10.01

技術と人を結びつけるところには デザインが必要です。

東京
ソシオメディア株式会社 代表取締役社長 篠原稔和氏
 
ソシオメディア株式会社は、ユーザーインターフェイス(UI)設計やプロトタイプ開発、ユーザビリティ評価、デザインガイドライン策定支援などを専門に行う、デザイン・コンサルティングファーム。Webの世界では、日増しにデザインとデザイナーの存在が重要になっています。ユーザーエクスペリエンスやインタラクションデザインなどに代表されるように、サイトがユーザーオリエンテッドなものであるには、その入り口であるインターフェイスにおけるデザインに、ロジック、感性ともに高いレベルが求められます。 同社は、言うなれば、そのような最先端のノウハウを、分野を、Webも含めた広範なコンピュータシステム、業務システムにまで広げてコンサルティングしている専門家集団です。 彼らはいったい何者?――という疑問に、理論家であり実践者でもある同社代表の篠原稔和さんの…言葉を借りて説明するなら「ユーザビリティエンジニアやインタラクションデザイナーとして、顧客の抱える問題を解決し、解決の維持に必要なノウハウまでを提供する」人々となるでしょうか。 篠原さんは「わかりやすくする」ことへの情熱でいっぱいの方、聞くに値するお話が数多く聞けました。みなさん、勉強するつもりで読んでください!

Webや情報システムは、個人だけでなく 社会にも活用されるべき重要なツール。

篠原さんはどのような方で、御社はどのような経緯で誕生したのですか?

私は過去に3つの職業を経験しています。まず最初は、大学を卒業して入社した商社で携わったオフィス環境や情報環境の設計。オフィスの空間や情報環境に関わる仕事でしたが、ちょうどOA(オフィスオートメーション)が隆盛していた頃で、必然的に情報システムの提案なども求められていました。 そのような中でコンピュータをつなげることに興味を持ち、時まさしく「オブジェクト指向」という技術革新があった時代で、その標準化団体をサポートする仕事に従事して、標準化の活動を知りました。 そしてまた、次に生まれたインターネットという新しい技術に心を奪われ(笑)、Webの企画制作会社に参画しました。

そして、2001年にソシオメディア株式会社を設立。Webの企画制作からUIのコンサルティングへと発展した経緯は?

これもまた、ある意味必然の流れがあります。制作者の立場から、「使いやすいサイトとは?」と勉強を進めると、当時、特に欧米に素晴らしいサイトが数多かった。調べてみると、欧米のサイトの裏側には図書館情報学に端を発する「情報アーキテクチャ」やユーザーの行動観察や分析といった「ユーザビリティ」など、さまざまなノウハウや技術、知識が集まっていることがわかりました。 日本のWebをもっと良くしたいの一心で関連文献・資料の翻訳や調査を手がけるうち、これは事業として立ち上げる価値があると考えるようになりました。昨今のキーワードでいうところの「ユーザビリティからソーシャビリティへ」という考え方が頭に浮かんだ時点で、決心が固まりました。Webや情報システムは、個人だけでなく社会にとって重要なツールであり、それを活用するための活動には意義があると思えたからです。

御社の事業の柱は?

●コンサルティング、●ソフトウェアの開発・ローカライズ、●メディア(雑誌やイベントを通して、UI に関わる情報を発信)が、3つの大きな柱になっています。創業当初のコンサルティング内容は、Webサイトに特化してユーザビリティ評価やデザインガイドライン策定支援に関わるサービスを提供していましたが、現在は業務システムに関するものが7~8割になっています。これは、Webデザインに関するノウハウが、特にUI に関わる知見が、企業の業務システムにも適用されるほどの普遍性を持ち始めたことによる現象と受け止めています。 ソフトウェアの開発・ローカライズは、当社としては2番目に手がけた分野です。WebアプリケーションやUI に関わる支援ソフトウェアをユーザビリティ工学や情報デザインに基づくUI 設計のノウハウを応用して、開発・ローカライズする業務です。 3つ目のメディアは、もっとも新しい分野。当社に蓄積された知識やノウハウを発信し、広く、多くの方に共有していただくことを目的にイベント開催や雑誌企画などを手がけています。

イベント『DESIGN IT! Conference/Forum 』があり、この6月には雑誌『DESIGN IT! magazine』も創刊された。

イベントを手がけてみて感じたのは、Webデザイナーやエンジニアのみなさんの勉強熱心さが私の想像を超えていたことでした。イベントの内容をわかりやすく解説することを目指して、創刊したのが『DESIGN IT! magazine』です。「ユーザーインターフェイス(UI)に特化したテーマの雑誌」という、かなり意欲的なチャレンジをしています。デザイン主導でITを設計するとはいかなることか?など、ITにおけるデザインの重要性、可能性を追いかけていこうと考えています。

いかに便利なものでも、 「やっかいで高度」では普及しない。

篠原さんが、このような事業を手がけられる意欲の源はどこにあるのですか?

一言で言えば、「わかりやすくしたい」でしょうか。WebをはじめとするIT (情報技術)は、日々進化し、高度化しています。それはそれで、もちろん歓迎すべきことですが、一方、あまりに高度化してしまったがゆえに、Webサイトや情報システムをもつ企業などが「使いたい」や「活用したい」というニーズから遠ざかることも生じます。つまりは、ハードルが高くなってしまう。いかに便利なものでも、「やっかいで高度」では普及しませんから。

クライアントである企業へのコンサルティングも、デザイナーたちへの情報提供も、意義は大きいし、同時に楽しい。少なくとも、篠原さんとお話ししていると、かなり「楽しんで」いるのがわかりますが(笑)。

それは、確かにありますね。職業の変遷も、それがゆえというのはお察しの通りです。面白いことには、興味が尽きません(笑)。もちろん会社を成長させたい、事業として成功させたい、という意欲もありますが、「わかりやすくしたい」という欲求の方がより勝っているかもしれません。 事実、企業さんの内部にユーザビリティやユーザーインターフェイスの専門家が徐々に育っていて、いつかは当社のコンサルティングのニーズがなくなって当たり前のことになるかもしれないとも感じていますから(笑)。

発信するだけでなく、使っていただける Webサイトを目指しました。

話は変わりますが、御社のWebサイトは、なんの設定も必要なく自動的に、該当ページのテキスト情報がA4用紙にきっちりと納まってプリントアウトできました。素晴らしいですね。

そういうところに気づいていただけるの、嬉しいですね(笑)。こういう配慮ができているWebサイトは、まだ少ないですからね。さぞや特別なプログラムがあるのだろうとお思いかもしれませんが、これこそまさに、デザインの段階でちょっとした配慮があればできることなのです。こういう最適化もありますと、提示しているつもりです。当社が世に伝えたいユーザビリティやUI への配慮とは、たとえばそういうことなのです。

御社Webサイトは、他にも、用語解説やUIデザインパターンが公開されていて、親切というか太っ腹な会社だなと思わされます。

ありがとうございます。発信するだけでなく、使っていただけるWebを目指しました。デザイナーやエンジニアのみなさんとノウハウを共有すること、この領域に興味のある方に知識を得ていただけることに大きな意義を感じています。

技術と人を結びつけるところには、 デザインが必要です。

ところで、「ユーザビリティって、何?」と質問されたら、どうお答えになりますか。

「Webサイトや情報システムなどを使うさまざな状況や人々・環境に配慮することが、ユーザビリティでありアクセシビリティである」という答えになります。 特にアクセシビリティは、高齢者や身体にハンデキャップのある方、さまざまな環境に配慮することが重要であり、法制化もされている考え方です。つまり、Webやシステムの入り口にどんなデザインを施すかは、趣味や嗜好の問題ではないのです。システムの裏側に置かれた膨大なデータ資産やサービス資産をいかに生かすかの重要な鍵を握っていると言ってもいい。そしてそれは、デザインする方のみならず、Webやシステムを所有する人にも求められる認識です。

なるほど、デザイナーが知っていればいいなんて高をくくってはいけないと。

もう、「must」と言っていいでしょう。ですから、当社のコンサルティングにおいても、企業の担当者さん、ひいてはトップの方の意識改革にも心を砕いています。システムの評価を受注した際には、評価業務とセットで、システムを維持するために必要な事項のデザインガイドラインの作成も提供することがあるのもそのためです。

そこまでするのか!という驚きがあります。まるで、CI(コーポレートアイデンテティ)ですね。

その通りだと、思います。事実私たちは、 CIから多くを学んで、参考にさせていただいています。CI同様、突き詰めればトップの理解がなければ、持続できないことですから。

では最後に、ユーザビリティやUIの今後についてお聞かせください。

技術と人を結びつけるところには、デザインが必要です。生まれて日の浅い情報システム、Webの分野には、まだまだ多くのデザインのニーズが眠っている。それを掘り起こし、解決し、提供するためのキーワードのひとつがユーザビリティだと思います。 標準はどこか、ベストはどこかと考えながら、勉強しながら取り組まなければならない分野ですが、大変な分、大きななやりがいもある。それを推し進める原動力は、ひとえにデザイナーやエンジニアのみなさんの元気なパワーにかかっています。目に見えるところはもちろん、見えないところにも求められるデザインの役割に面白さを感じる多くの方々と一緒に歩んでいけたらとても幸せなことだと考えています。

DESIGN IT! magazine

「DESIGN IT! magazine」は、ビジネスを革新し、よりよい社会を実現するために「情報技術(IT)」とITを取り巻く「情報環境」とをデザインしていく、あらたな潮流を作るための媒体、すなわち「デザインからIT を考えるビジネスマガジン」です。ウェブサイトや業務システムのUI(ユーザーインタフェース)のデザインの事例や考え方はもとより、国内外の役立つ情報とノウハウを伝えています。また、DESIGN IT! の共通テーマである「ストラテジー(S)、デザインマネジメント(DM)、ユーザビリティ(U)、インタラクション(Ix)、情報アーキテクチャ(IA)、コンテンツマネジメント(CM)」を機軸に据えながら、最新の実践例や実務情報を交えて紹介しています。

取材日:2008年10月

ソシオメディア株式会社(英文表記 Sociomedia, Inc. )

  • 代表取締役社長:篠原稔和
  • 業務内容:
    • コンピュータシステムに関するコンサルタント業
    • コンピュータネットワークシステムの研究業務
    • コンピュータネットワークシステムの設計および開発業務
    • コンピュータインターフェースの設計と開発業務
    • 書籍の企画、翻訳、出版
    • セミナー、講演会における講師派遣
    • 前各号に付帯する一切の業務
    • 設立:2001年3月
    • 資本金:4,250万円
    • 所在地:〒162-0842 東京都新宿区市谷砂土原町3-4-2 市ヶ谷グリーンプラザ032号(受付は 022号)
    • TEL:03-5206-6787
    • FAX:03-5206-6823
    • URL:https://www.sociomedia.co.jp/
    • 問い合わせメール:上記HP「問い合わせ」ボタンより
続きを読む
TOP