アニメ業界に革新! 中央と地方、海外をデジタルで繋ぐ業界の先駆者

東京
株式会社 旭プロダクション 制作本部長 兼 第2制作部長 遠藤 修一 氏、制作本部 作画スタジオ 課長 古家 弘康 氏
東京、関町に本社のある株式会社旭プロダクションは、宮城県白石市(しろいしし)にオールデジタルのスタジオを持ち、紙と鉛筆で描かれてきたアニメーションの作画作業にいち早くデジタル化を採り入れた業界の先駆的な存在です。その挑戦には、日本屈指の撮影会社として、撮影部門でのデジタル化の成功体験が影響しているようです。 デジタルを活用し全国のクリエイターをつなぎ地方クリエイターの力を活用するという業界の未来を見据えての戦略とアニメ業界への思いを制作本部長の遠藤 修一(えんどう しゅういち)さんと課長の古家 弘康(ふるや ひろやす)さんに伺いました。

昭和48年創業、日本屈指の撮影会社 業界に先駆けてデジタル化

元々、旭プロダクションさまは、撮影会社からスタートされたということですが。

撮影会社としてスタートした歴史を物語る本社のエントランスに飾られたカメラ。

撮影会社としてスタートした歴史を物語る本社のエントランスに飾られたカメラ。

 

遠藤さん:はい、昭和48年に撮影会社としてスタートして、今年、44期目になります。創業時は、テレビCMの制作やアニメーション番組の撮影、アニメーションの合成技術などを提供していました。 撮影は、弊社の事業の柱で、日本屈指の撮影会社であると自負しております。

アニメーションの制作部門ができたのは、いつ頃だったのですか?

遠藤さん:『鉄人28号』の特殊効果を担当した2004年頃です。 宮城県に白石スタジオが出来る前は、東京本社ですべてを行っていました。東京では、今も、アナログ(紙と鉛筆)で制作しています。 今から6年程前の平成22年、震災の前の年、デジタル作画専門のスタジオを地方で作ろうという話になり白石スタジオを設立しました。

スタジオを宮城県白石市に作ろうと考えられた経緯を教えてください。

古家さん:まず、経営戦略の1つとして、デジタルを導入するにあたりオールデジタルのスタジオを地方に設立しようという構想があり、地方で場所を探していたところ、白石市が手を上げてくださったのが経緯になります。

遠藤さん:白石市の協力体制があった上でのスタジオ設立で、当初は、行政のお仕事をいただき、震災後は、緊急雇用対策の受け皿になったり、行政との繋がりがかなり強い形での運営でした。立ち上げた当初はデジタルのクリエーターも育っていませんでしたので、地方活性化に重きを置いていました。

古家さん:試行錯誤を繰り返し、現在では、東京と同じ機能を持つ小さな本社のような存在です。白石は、業界に先駆けてオールデジタル化したスタジオです。

アナログからデジタルへ 試行錯誤の日々

宮城県白石市のスタジオは、オールデジタル

宮城県白石市のスタジオは、オールデジタル

デジタル化を進める過程で一番苦労したことは何ですか?

遠藤さん:デジタル化するとすぐに効率化、省力化が出来ると考えがちですが、作画作業がアナログからデジタルに変わる中で、一気に理想通りに変わるのではなく、色々なコンセンサスをとって、徐々にデジタル化が進んでいくという期間があり、そこでは様々な能力が必要になったり、費用がかかります。

つまり、アナログとデジタルが混在する期間があり、100パーセントアナログで制作する以上に効率が悪いんです。先行してデジタル化を進めるためには、そういった過程も乗り越えていなければなりません。

また、クリエーターの考え方の問題もあります。人によっては、デジタルに対して拒否感と言ったら言い過ぎかもしれませんが、アナログで制作することにこだわりがあって、なかなかデジタルへ移行出来ないという方が、一流のクリエーターの方の中にもいらっしゃいます。お仕事をお願いしようと思っても、その方がデジタルについて親和性を感じてくださっていないと苦労することも多いです。過渡期には、一時的に負担が重くなってしまうことも度々あるのが現状です。

古家さん:完全にデジタル化すれば、制作負担が大幅に軽減できると思っています。

撮影部門が、アナログからデジタルに移行した時も、移行は大変でしたか?

古家さん:撮影が、アナログからデジタルになった時は、セル時代にくらべて制作工程の効率が劇的にあがりました。 それだけでなく、セル時代と違って絵を何枚重ねても劣化しないので、演出の幅が広がりました。 会社的にも全てがデジタルの方が良いと実感出来たのです。

撮影のデジタル化での成功体験が、アニメ制作のデジタル化への挑戦につながったということでしょうか?

古家さん:はい、撮影についてはいい結果に恵まれました。しかし、デジタル作画については、必ずしもそうではありませんでした。 会社としては生産性の効率を上げたかったのですが、クリエイティブについて、目に見える劇的な変化があったわけではないので、現場のクリエイターにとっては、デジタル化することが負担になることもありました。

御社が業界に先駆けて、デジタル化しようとお考えなのは、なぜですか?

遠藤さん:いずれは完全にデジタル化されるであろうことは明白なので、ならば他社に先行してやっていこうということです。更に、20代の今の若い人達は、デジタルに対する抵抗感が薄く、タブレットで絵を描くことに抵抗がありません。次世代を担っていく彼らに合わせて考えるのが、賢明であると考えました。

中央と地方、海外の拠点を繋ぐ 制作体系でのサプライチェーン

海外にもスタジオがあるそうですね?

株式会社 旭プロダクション

遠藤さん:中国に、動画仕上げが中心の旭陽動画(無錫旭陽動画制作有限公司)という子会社をつくりました。

古家さん:東京で素材をスキャニングして取り込んだデータを中国でプリントアウトして、現地の人間が動画や二原(第二原画※1)といった作業を行っています。

遠藤さん:今後は、デジタル作画を中国でもはじめる計画です。

※1 レイアウト、レイアウト修正、第一原画、修正をもとに原画を清書すること 。

東京と地方、海外の拠点、それぞれの役割と連携については、どのようにお考えですか?

遠藤さん:中央集中型で、全ての機能を中央に置いてオペレーションしていくことはコストの面で問題があります。中央と地方、海外が連携しながら、それぞれの役割の中でいかに効率化していくかを考える必要があります。そういった考えの下、東京本社は、東京でなければ務まらない仕事、いわゆるプロデュースとディレクションや営業といった機能をこれまで以上に強化、拡大していく必要があります。逆に、オペレーション機能に関してはデジタル化によって効率化し、場所を選ばないというメリットが出てきたときに、白石スタジオをオペレーションのハブとして、ヘッドクォーター的な役割を担わせ、そこから海外でのパーツ制作に繋げていくことになります。こうして会社全体の最適化を図り制作体系においてのサプライチェーン ※2 を考えております。

※2 原料の段階から製品やサービスが消費者の手に届くまでの全プロセスの繋がり。

制作体系でのサプライチェーン?

株式会社 旭プロダクション

遠藤さん:いわゆる流通の用語で使うSCM(サプライチェーンマネージメント)を制作の世界にあてはめてやっていった方がいい、それを可能にするのがデジタルではないかと考えています。ある意味、机上の理論では、すぐに実現できるシステムになる様な気がするのですが、まあ、実際はそう簡単にはいかないのが現状です。それは、ジャパンアニメが、アナログの歴史とともに長く支持されてきたこと、紙に描いてきたクリエーターの努力の積み重ねこそが、今のジャパンアニメの人気に通じているからで、それを一気にデジタルに移行できるかというとそれはまた別問題で、難しい。ただそれでも今までと変わらずアナログ体制にしがみつくのではなく、少しずつデジタル化を進めて、今まで以上に効率を向上させるかわりに、本来のクリエイティブの部分にもっと時間を使うことが出来れば、オペレーションで効率化した部分をクリエイティブに注力することが出来れば、今まで以上にクオリティの高い作品が出てくるんじゃないかと思うんです。

地方のクリエイターに新しいワークスタイルを提案

株式会社 旭プロダクション

では、今後も、国内外に拠点展開していく予定ですか?

遠藤さん: リアルな拠点として地方スタジオを設けるには、実際そこを用地買収したり、人を集めたりという事に相当コストがかかります。また、デジタル化が進む中、リアルなスタジオを作ることに意味があるのだろうかという疑問もあります。 今後、1、2箇所は、新たなスタジオが出来るかもしれませんが、白石スタジオと地方のクリエイターをデジタルで繋ぎ、地方のクリエイターの力を活用をしていきたいと考えています。

古家さん:可能性は未知数ですが、小規模からでも実現していければと思います。 そのためには、私達、旭プロダクションとしての考えというものを、まず分かっていただき、制作物を渡すだけではなく、何らかの形で私達の制作体制と理念を共有する方と一緒に仕事をしたいと思います。

遠藤さん:まあ全てネット上のコミュニケーションで完結出来るわけではないので、そこが重要ですね。

では、一緒に働く方には、具体的に、どういった事を求めますか?

遠藤さん:弊社の経営理念「クオリティの高いアニメーションで人々に感動を与えて幸せにする」に共感してくださるクリエイターの方と一緒に仕事をしていきたいなと思います。 チャレンジ精神があるとか、新しい作品を作りたいという気概のある方。そういうモチベーションの高い方と一緒に仕事をしたいなと思いますね。

古家さん:プロダクションとして、弊社は撮影では一流ですが、制作としてはまだまだ大手に及ばないので、一緒に同じ階段を上って行ける人。こういう作品を作りたいんだ。こういう旭プロダクションのブランドを作りたいんだという人だと、私達も一緒に仕事をしていて楽しいですからね。あとはもう社会人の自覚と、同じプロジェクトでやっているということを意識しているかどうかですね。

遠藤さん:そうですね。チームワークを考えていただかないと駄目ですね。それとまあプロ意識ですね。

実現すれば、地方のクリエイターに新しいワークスタイルを提案することができますね。

遠藤さん:そうですね。例えば、関西地区のクリエイターに動画の部分をやってもらって、それを白石の方で受け取って最終工程にもって行くとか。幸か不幸かアニメ業界は、かなり分業化されていまして、そのパーツごとに発注できるので、そこで見合った工程があれば発注したいですね。

古家さん:そこで問われてくるのがクリエイターのモラルです。東京だとまだ顔が見えるので、相手に対する意識が出てきますが、それが地方になって希薄になり、更にデジタルになって顔が見えなくなってくると、更に希薄になる。そこはある意味デジタルの持つデメリットになります。

自分たちの作品を創って、自分たちで発信し、事業化していく 「第2創業期」

ネットを使って全国のクリエーターと作品を作っていくとは、すごい構想ですね。

(左)制作本部長 兼 第2制作部長 遠藤 修一 氏、(右)制作本部 作画スタジオ 課長 古家 弘康 氏

(左)制作本部長 兼 第2制作部長 遠藤 修一 氏、(右)制作本部 作画スタジオ 課長 古家 弘康 氏

 

遠藤さん:アニメ制作会社は、従来、受託制作の仕事をやってきましたが、「第2創業期」を迎えた弊社では、今までの受け一辺倒の仕事ではなく、自分たちで作りたい物を作って、自分達で発信し、事業化していくというスタンスに切り替えていくことを目指しています。そういった考えがベースとなって、制作のデジタル化があります。デジタル化というとどうしても、効率化とか省力化にスポットが当たりがちですが、逆に言えばこれからはデジタルのみの表現とか、デジタルのクオリティの高さでの勝負を目指していかなければならないので、デジタルで今までに無い表現で仕上げていくことを目標にしていきたいと考えています。

古家さん:弊社のプロダクションは撮影もあれば、CGもある、作画もある、制作体制もある。この4本の柱をデジタルという横軸で1本指すことで、他社に負けない制作体制になると思います。

10年後の旭プロダクションはどうなっていますか?

遠藤さん:プロダクション機能を持つ強みを活かしグローバルに展開する世界的な企業、グローバル・アニメスタジオを目指したいと考えています。世界中から発注や事業開発の話を受けたり、日本で開発したコンテンツを世界に発信したり、10年後は、そんな企業になっていたいと思います。 また、「アニメーション制作を通じ、人々に夢と希望を与え、愛される企業を目指します。」という理念の通り、関わった全ての人、お客様だけでなく、我々と一緒に仕事をするクリエイターや旭プロダクションの社員も含めて、皆がハッピーになる様な会社になっていればいいなと思いますね。

取材日: 2016年8月9日 取材: クリエイターズステーション編集部

株式会社 旭プロダクション

  • 代表者名 : 代表取締役社長 山浦 宗春
  • 設立年月 : 1973年6月
  • 資本金 : 6,160万円
  • 事業内容 : アニメーション、CGI等各種映像の企画・制作・撮影 CF、TV番組、映画、企業PR、Web等の企画・制作
  • 所在地 : (本社) 東京都練馬区関町北二丁目2番10号 (第一制作部)東京都練馬区関町北一丁目23番10号 井口ビル4階 (第二制作部)東京都練馬区関町北二丁目27番5号 赤城ビル2階 (作画スタジオ)東京都練馬区関町北二丁目27番5号 赤城ビル1階 (白石スタジオ)宮城県白石市字亘理町37-3 白石市情報センター/アテネ内
  • URL : http://asahi-pro.co.jp/
  • お問い合わせ先 : 上記HP内の「お問い合わせ」より
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