情報は発信するというより現場で吸い上げる ペット業界を生き抜く雑誌の在り方とは

福岡
株式会社犬吉猫吉ネットワーク 取締役編集長 木下文吾氏
地元のペット好きなら知らない人はいない雑誌、「犬吉猫吉」が今年創刊20周年を迎えます。ペットの世界に特化した雑誌制作のやりがいや面白みについて同誌の木下文吾編集長にお話を伺いました。

創刊20年。地元ペットオーナー必携の老舗雑誌

雑誌「犬吉猫吉」

雑誌「犬吉猫吉」

「犬吉猫吉」といえば、いまや地元ペット好きの間で知らない人はいないほどの雑誌ですが、創刊のきっかけを教えてください

いや、まだそこまでは(笑)。媒体自体は長いですよ。創刊が1994年なので、もう20年になります。もともと福岡の人材派遣会社が出版していた求人誌と印刷会社との共同でペット雑誌を作ることになった、というのが始まりです。その当時、ペット雑誌はあったんですが、「地域・地元」と「ペット」を繋ぐ雑誌はなかったんですよね。発案した印刷会社にペット好きな方がいらして、そこでスタートした、といういきさつなんです。 創刊当時は「猫吉犬吉」で猫メインだったんですよね。季刊誌でスタートして、隔月、月刊と変遷しているんですが、月刊になった2002年に犬吉猫吉ネットワークという法人を設立し、現在の形となりました。

当時は「ペット共生マンション」がブームで、不動産会社の全面出資で本社を東京に移転したりもしました。もともと当社では九州版しか作っていないんですが、発行を希望される企業が他県にもあって。コンテンツやノウハウを提供したりサポートさせていただいて、各地の印刷会社が作った首都圏版、関西版、東海版も出ていたんですよ。

「犬吉猫吉」のコンセプトについて聞かせてください

「犬吉猫吉」は地域密着の媒体で、九州に住むペットオーナーさんたちの情報交換の場としての機能や、“コミュニティ形成”が一番の存在意義だととらえています。 そもそも、ペットの世界で地域密着ということを考えると、新しい情報などはそう毎月出るものではなくて…。雑誌の人気コーナーでもある写真投稿や、「お散歩ウォッチング」という撮影会イベントが雑誌の核ですね。それこそ、ファッション雑誌の街頭撮影イベントみたいなものです。名前の通り、お散歩中のワンちゃんを写真に撮らせてもらうというスタートだったんですけど。あれよあれよという間にお客さんが増えちゃって、今では日時と会場をお知らせして、例えばテーマパークなどで撮影会イベントを開催しています。

そういう場で、例えばダックスフントのオーナーさん同士で情報交換するなど、さまざまなコミュニティが形成されています。

「犬吉猫吉」をきっかけに繋がったオーナーやコミュニティも多いでしょうね

多いと思いますね。現在、年に50回近くイベントをやっているんですよ。最初は一ヶ月に1回程度だったんですが、今では春だと月に5、6回やっています。参加者の皆さんも、このイベントを毎週の楽しみにしてくださって。例えばこれ(最新号のイベントページを指しながら)は、吉野ヶ里での撮影会なんですけど。イベントに参加しつつ、ワンちゃんたちと一緒に観光地を散策したり、ワンちゃんとのお出かけの動機付けにもなっているようですね。

年間でどのくらい動員しているんですか?

年間でいうとのべ2万人くらいになると思います。雑誌にもイベント参加ワンちゃんの写真を掲載するんですが、参加回数によっては「○○回参加達成」といった風に写真にキャプションがつきます。例えばこの方、今回200回目の参加で表彰されたワンちゃんですね。(雑誌を見てみると100回以上の参加者があちこちに) あと、エントリーナンバーのついている写真はモデル希望。読者投票で雑誌の表紙を飾ったりもします。

「犬吉猫吉」からデビューしたペットタレントもいるのではないですか?

そうですね。雑誌からCM等に紹介した方も何組もいますよ。そういう紹介があるとオーナーさんたちは凄く喜んでくれますね。テレビでペットの特集やるから取材させてくれ、なんていう依頼がくると本当に喜んで出演してくれます。

雑誌だけじゃなく、ネットでの展開も広がっているようですが

そうですね。いま雑誌だけじゃなくて、フリーペーパーもある、イベントもある、WEBの方ではSNS的にコミュニティ形成が広がっている、雑誌の特集で紹介した商品を買える通販もある、っていう。少ない人数でやっていますので、私自身ほぼ全てに直接携わっています。イベントの際に抽選会をやって、「1等です!おめでとうございます!」なんてアナウンスも私がやっていますよ(笑)。

口コミの強い業界で、日本一読者と密接な関わりを持つ媒体へ

「犬吉猫吉」の魅力について教えてください

全国的にも、これだけ読者と近い編集部というのは他にないと思います。月に何回も顔を合わせて、誌面に対するダメ出しをいただくこともしょっちゅう(笑)。 うちの雑誌は近所のペットさんやそのオーナーさんが主役の媒体なので、いかにこの方たちから情報をいただいて面白い情報を紹介したり、またこの方たちが主役になれるイベントを企画しながら作っていくことが肝になるんですよ。

地域密着よりも濃い、地域住民密着という感じですね。そういったコミュニケーションの中から生まれたような企画もあるんじゃないですか?

それこそ、メーカーさんが消臭剤やペットのおやつなどを作っていて、私たちのイベントに参加していただいているオーナーさんと「どんな商品がいいか」などという座談会を開いたりして。例えば消臭剤だったら、「普段家で使うように考えられているかもしれないけど、実際は車で使うことが圧倒的に多い」なんていうオーナーの意見がきっかけで、車用の消臭剤の開発が始まったり。他にもペットのおやつでメジャーな素材は鳥なんですが、最近ではアレルギーが強いから馬のほうが…という意見から馬素材のおやつ開発が始まったり。

「撮影会」というイベントがメインになるんですが、そこでできたコミュニティから提供いただいた情報を企業の商品開発に役立てたり、そういうことが定期的に出来ている媒体は、全国を見てもほぼ無いですね。

「犬吉猫吉」の影響で、九州のペット文化は他県と比べて豊かになっているんじゃないですか?

うーん(笑)。とある東京のメーカーさんが九州でドックフードのPRをしたいということで、一時期うちの撮影会に参加されていたんです。とても驚いていましたね。「熱心な飼い主が多い」というのと「そういった飼い主が定期的に集まるイベントを見たことがない」という点で、とても高く評価していただきました。

ペットって口コミの世界なんです。情報はメディアで発信するというよりは、例えばうちがやっているイベントなどでオーナーさん同士が情報交換する中で「どこそこのドッグランができたよ」なんていう口コミから、じわっと広がっていく。 「犬吉猫吉」としては、飼い主のマナーやしつけなどに関しても発信していきたいとは思っています。デリケートな部分を含む問題なので、様々な配慮が必要になってくる難しい題材だとは思いますが。

読者のちょっとした反応が最大の喜び 良いものを作るためのこだわりと「客観的な視点」を

「犬吉猫吉」を作るうえでのやりがいについて教えてください

九州という地域にこだわったメディアの作りをしているので、読者の反応を実感しやすいです。「犬吉猫吉」を見てこの店を知って行ってみました、とか、イベントに参加して友達ができた、とか。そんなちょっとした読者の喜びを知ることが一番ですかね。

いまやっぱり出版業界は厳しい状況なので、有料媒体という壁があってですね。フリーペーパーに力を入れないといけないのか、といった考えもあるんですけど。 ペットを飼っていて「犬吉猫吉」も購読している、という人たちはパーセンテージにすると極々低いものです。そのパーセンテージを上げるために「雑誌」以外のポジションも模索していますよ。読者層についても、今からペットを飼おうとする人にも見てもらいたい。課題が山積みですね(笑)。

最後に、これを見ているクリエイターさんたちへメッセージをお願いします。

制作側の喜びって読者の反応とか、本当にちょっとしたところなんです。「雑誌で紹介されたカフェに行ってみました、本当にいい所でした」なんていう、ほんのちょっとした読者の反応が本当に嬉しい。今の私は経営側に回っちゃって、その辺が少し薄くなっちゃってしまっているところもあります。でも逆に、営業活動をすることで「客観的な視点」の大切さに気付きもしました。こだわりを持って仕事をするクリエイターさんって非常に多いですよね。でも、どういう読者の方に、どのように見てもらうことが最善かということを客観的に見ることのできる能力も絶対に必要だと思います。制作する媒体や広告、記事が、どういうお客さんに向けてどういう見え方をするのかという青写真がしっかりないとちゃんとしたものは作れないと思います。

編集やデザイナーの方々の良いものを作ろうとするこだわりは大切ですが、営業サイドの客観的な視点も大切。どちらにも配慮できる視野は是非持っていて欲しいです。双方の現場をうまく取りまとめるのが現在の私の仕事ですね。

取材日:2014年2月17日

株式会社犬吉猫吉ネットワーク

  • 代表取締役社長:藤井 太一
  • 設立年月:2002年4月1日
  • 資本金:1億円
  • 事業内容:
    • 出版事業
    • コンサル事業
    • WEB事業
  • TEL:092-534-2112
  • FAX:092-534-2113
  • 所在地:〒810-0022 福岡県福岡市中央区薬院3丁目11-33 薬院eビル1F
  • URL:http://www.kichi-kichi.com/
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