“できない”を共創で力に変える。挑戦し続ける沖縄発ベンチャーの軌跡と次世代ビジョン
セキュリティ分野からスタートし、今ではソフトウェア開発や通信、官公庁向けコンサルティングまで事業領域を広げている沖縄のジャパンインテグレーション株式会社。確かな技術力と柔軟な発想力で、県外企業との取引を多数展開し、近年はグローバル人材の採用や海外展開にも意欲的に取り組んでいます。力強く歩み続ける同社の取締役・与那覇 将直(よなは まさなお)さんにお話を伺いました。
セキュリティから通信サービスまで、幅広い事業を展開
御社の設立の経緯について教えてください。
ジャパンインテグレーションは東京に本社を構えている情報セキュリティを専門に扱っているサイバートラスト株式会社、ならびにベンチャーキャピタルである株式会社インスパイア・インベストメントに加え、沖縄のソフトウェア会社である有限会社アラタ(以下、アラタ)を含めた3社で2013年10月31日に立ち上げた会社です。
沖縄に設立した理由は何だったのでしょうか?
もともとは、サイバートラスト株式会社(以下、サイバートラスト)が進めておりましたセキュリティ事業に関わるSSL(Webサイトとブラウザ間の通信を暗号化し、データの安全性を確保するための電子証明書)の発行審査業務を、災害対策の一環として東京から分散しようという背景がありました。沖縄は地震リスクが低く、災害も少ない地域とされているため、BCP(自然災害やテロなどの緊急事態が発生した場合に、事業の継続や早期復旧を図るための計画)対策の候補として適しています。
また、ソフトウェア開発として実績を培ってきたアラタが沖縄に拠点を持っていたこともあり、SSL証明書に限らず、情報セキュリティに特化したIT事業の展開を図るべく、沖縄を拠点に設立されました。
現在の事業内容について、詳しく教えてください。
設立当初はサイバートラストの影響もあって、セキュリティ分野を中心とした事業展開を図っており、現在でも弊社のホームページを見ると「セキュリティ」というキーワードが目立つかと思います。
一方で、出資会社の一つであるアラタは官公庁や教育分野を含め、多くのIT導入実績ならびにソフトウェア開発を行ってきたノウハウを持っていることから、そのノウハウを活かした「官公庁向けコンサルティング」や「ソフトウェア開発事業」を平行して進めていき、現在では弊社の主要業務を担う事業にまで成長しました。
他にも、2022年からは通信事業も開始し、こちらでは総務省が定めた「地域BWA(Broadband Wireless Access)」と呼ばれる制度を利用した無線インターネットサービスを提供しています。光回線の導入と比べて、無線インターネットであれば手軽にインターネットを使っていただけるようになることから、地域の公共サービスの向上やデジタルデバイドの解消などを目的にスタートした通信サービスです。
このように事業を展開するなかで、現在の弊社の主な事業ドメインは「官公庁向けコンサルティング」、「ソフトウェア開発」、「情報セキュリティ」、「通信サービス」の四つになりました。
今までの事例で印象的なものを教えてください。
例えば、官公庁向けコンサルティングについていうと、コロナ禍より前の2017年頃に内閣府と協力して、沖縄でコワーキングスペース事業を立ち上げました。リゾートホテルの一角にコワーキングスペースを設けて、バケーションとして訪れた土地で仕事もできる環境を用意することで、滞在期間を延ばし、地元での飲食等をはじめとした消費活動の機会を増やすことで経済効果を図ったワーケーション促進など、地域経済の課題解決にも貢献しています。
ほかにも、ソフトウェア開発事業については手掛ける業種を特に限定せず、医療や流通など、多様な分野にチャレンジしています。現状、ソフトウェア開発の取引先のうち9割は県外の取引先様となります。またWebシステムの開発をはじめ、スマートフォンアプリの開発なども行っております。
沖縄で唯一「地域BWA」を普及する企業に
通信サービス事業について「地域BWA」というものを提供しているとのことですが、あまり聞きなれない言葉ですね。
そうですよね。例えば大手キャリアが提供している「全国BWA」と呼ばれる通信サービスがありますが、それに対して、地域の事業者が使えるように設けられた制度が「地域BWA」です。
全国での地域BWAの事業者は2024年11月時点で114社ほどありますが、沖縄では弊社だけが展開しています。実際に電波を発信するには自治体ごとに協定または合意書が必要となっており、弊社が協定を結んでいるのは那覇市、宜野湾市、沖縄市、豊見城市の4自治体になります。
全国BWAに比べて、地域BWAにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
地域限定という縛りはありますが、無線インターネットのため、光回線の工事が不要という点があげられます。また、通信量の制限がないのも大きなメリットです。これらのメリットが生かされたのがコロナ禍でした。学校ではGIGAスクール構想によりタブレット端末の導入をはじめ、IT設備の拡充が図られましたが、コロナ禍の緊急事態宣言下では学校のオンライン授業が始まったものの、インターネット環境が整っていないご家庭もあり、光回線を引こうとしても、時間もコストもかかり、当時は光回線業者に導入依頼が殺到し、工事も混雑していて間に合わないような状況でした。そんなときに、地域BWA専用のモバイルルーターを提供して対応したケースもあります。現在では公民館や自治会などの地域コミュニティーでの利用も進んでいて、なかには高齢者のカラオケ大会で使われることもありますよ。また、市民向けにも展開したいという自治体からの要望を受け、一般向けにも提供を開始しました。
最近ではIPカメラの普及が進んでいますが、これまでは画像データを通信するために光回線の工事を伴うケースが一般的でした。しかし、光回線の工事に時間とコストを要するケースや、そもそも光回線の工事が困難な場所などでは導入に課題を抱えておりました。そこで、無線インターネットを活用することで設置場所の課題解消を図ることができ、加えて、地域BWAでは通信量の制限もないことから画像データの通信量を気にせずに利用することができるようになりました。IPカメラとの相性は良く、防犯や人流解析、駐車場の空き状況把握などに役立てられています。
他社との協働で、より新しく、質の高いサービスを
多種多様な事業を手掛けられていますが、すべて内製化されているのでしょうか?
いえ。ほとんどのサービスが、他社と協力しながら進めています。弊社は20人弱の従業員構成となっており、すべてを自社で完結させようというよりは、それぞれの分野に強みを持った会社とパートナーシップを組み、シナジー効果を得た方が結果的に得られるものが大きいと感じています。
具体的には、どのような形で協力し合っているのでしょうか?
例えばデザインに関しては、福岡にあるデザイン会社のandSTORY(アンドストーリー)社と協業関係にあります。弊社はシステム開発に強みがあるけれど、絵心には自信がなく、デザインセンスやUI/UXの点で課題がありました。一方、andSTORY社は弊社とは対照的にデザインに特化したスキルを保有しているため、そこでお互いの得意分野を活かして連携することになりました。
また、沖縄でエネルギー事業を担う沖縄電力株式会社ならびにベンチャーキャピタルの株式会社インスパイア・インベストメントと弊社を加えた3社の共同出資により、株式会社おきでんCplusC(シープラススシー)を設立しました。この会社では、米国のORIGIN(オリジン)社が開発したWi-Fiセンシングの技術を活用し、人の活動(動き)や睡眠状況を識別することができることから、独居高齢者の見守りサービスとしての展開を図っております。一般的な、この手のサービスはカメラで映像を記録し識別しますが、プライバシーの課題があります。また、死角を無くすために複数台のカメラの設置が必要でコスト高も課題です。カメラ設置のコスト高に対しては、ウェアラブルデバイスの利用が有益ですが、高齢者の方は常時身につける方が少なく、つけていたとしてもバッテリー切れを起こしていることに気づかないなど、IoTデバイスに対するリテラシー課題があります。その他、駆け付けサービスもありますが、人的リソースを活用することからどうしてもコスト高になってしまいます。これらのサービスとは異なり、おきでんCplusCが展開するサービスはお部屋に専用機器を置いておくだけで、プライバシーを守り、対象者に負担を強いることもなく、見守ることを実現します。
「挑戦し続ける」姿勢を強みに、国内外の最先端を取り入れていく
次々に新しい取り組みを進められているのですね。
はい、最近では株式会社キャリッジブレイン琉球の設立にも参画し、新たな事業モデルを構築して沖縄を拠点にアジア市場への進出を目指しています。
脈絡がないように見えるかもしれませんが、全部に共通しているのは、ITを活用しているということです。ITを使った課題解決に取り組んでいるなかで、現場で新たな課題が見えてきます。その解決のためには自分たちの力だけでは限界があるので、パートナーと一緒に策を模索していく。結果的に、それが新しい事業につながっているという感じですね。「自分たちにできないから」といって何もしないのではなく、「自分たちにはできないけど、ほかと組めばできるかもしれない」というマインドが強いのかもしれませんね。
沖縄県内で10年以上続くIT系の企業は多くないかと思いますが、そのマインドこそ、長く続けてこられた秘訣なのかもしれませんね。
代表の新田のポリシーでもあるのですが、できるだけ広い視点を持つことを大切にしています。国内外問わずあちこちに出向いて、人脈を広げ、日本だけでなく海外の技術や動向も意識しながら、良いと思ったものは積極的に取り入れてチャレンジしています。もちろん、チャレンジしたことすべてが全部当たるわけではありません。しかし、チャレンジしないと結果は出ませんので、とにかくやってみることが大事なんですよね。挑戦し続けるというのが弊社の強みであり、それを支える社員がいることで、弊社は成り立っていると思います。20人に満たない社員構成ではありますが、社員の高いスキルとマインドのおかげで、底力が強化されていると感じます。
海外から人材を招き、グローバルな起業を目指す
今後の展望を教えてください。
沖縄にとどまらず、グローバルに展開していくことです。日本だけでなく、海外も視野に入れて活動を進めています。その一つとして、システム開発については以前から取り組んでいる海外のエンジニアと連携するオフショア開発をさらに広げていきたいと考えています。そのために、グローバル人材の採用にも取り組み始めているところです。特に日本では、IT人材の不足が長く叫ばれており、やはり国内だけでは限界があるので、海外の人材とも一緒に盛り上げていければと考えています。
実際にベトナムやインドに赴き、現地で面接を行ったこともあります。海外から人を受け入れる場合、その土地の文化を理解することも大事だと考えていて、しっかり目で見て確かめて、理解したうえでお迎えしたいと思っています。
海外に拠点を作るというよりは、まずは日本にお呼びする形なんですね。
いきなり現地に拠点を作るのはハードルが高いので、まずは日本に来てもらって一緒に働いたうえで、双方の特性に対して理解を深めてから、将来的には母国に戻って事業展開する選択肢も用意できたらと考えています。
最後に、今後一緒に働く方について、どんな方が望ましいですか?
まずは気持ちよくコミュニケーションが取れる方ですね。人って自給自足じゃない限り、誰かと一緒に生活してるわけで、コミュニケーションはすごく大切です。とはいえ、陽気で明るい人でなければならないというわけではなく、口下手でも、ちゃんと自分から話そうという姿勢がある方なら、十分コミュニケーションは取れると思っています。そういう方なら、弊社としては大歓迎ですね。積極的にコミュニケーションを取りながら、一緒に仕事を進めていけるような方に来ていただけるとうれしいです。
取材日:2025年4月15日 ライター:仲濱 淳
ジャパンインテグレーション株式会社
- 代表者名:新田 純也
- 設立年月:2013年10月
- 資本金:1,550万円
- 事業内容:セキュリティ技術SI、PKIシステム・運用フロー構築、SSLサーバー証明書、認証局構築サービス、人材育成、セキュリティ教育、セキュリティコンサルティング、ソフトウェア開発、無線接続インターネットサービス
- 所在地:〒901-2223 沖縄県宜野湾市大山6-8-1 NHオフィスビル2F
- URL:https://www.japan-int.com/
- お問い合わせ先:098-943-9674