グラフィック2020.07.15

コミュニケーション手段としてのデザインで、幸せを生みだす

札幌
株式会社NEW 代表取締役
Norio Kurauchi
倉内 法生

「見えるものすべてをデザインする」をミッションに掲げる、株式会社NEW。グラフィックからインテリアデザインまで、ジャンルレスなデザインを手掛けています。それを可能にしているのは、コンセプトメイクからデザインまでを担うシームレスな仕事スタイル。代表取締役の倉内法生(くらうち のりお)さんに、仕事の極意を伺いました。

消費者と向き合える仕事がしたかった

デザイナーの道を志した理由を教えてください。

私のデザインは超我流です。大学は経済学部で、デザインや美術、建築を専攻したわけではありません。いざ就職となったとき、ふと目に留まった求人がグラフィックデザイナー。語感のかっこよさに引かれて、仕事の内容をよく知りもせずに応募しました。

経験者の募集だったので、面接に作品を持参するように言われて、小学生のときに工作した変な照明を持って行きました。「これ、何?」と聞かれて、「ここが光るんですよー」とか何とか説明をしたところ、「採用!」となって、デザインの道に入ることになったんです。

レアなケースですね。初めての仕事は何でしたか?

写真の切り抜きですね。スーパーのチラシしかやってないデザインプロダクションで、朝から晩まで毛ガニの写真を切り抜いていました(笑)。Mac(Apple)を触ったこともない素人だったので、そればかり…。

そこには1年くらい在籍しましたが、もっとデザインのできる仕事がしたくて転職しました。次のプロダクションでは、チラシ以外の仕事も経験でき、広告に興味が湧いて、広告会社に入社。そこに6年ほどいて、独立しました。

独立のきっかけは?

その広告会社のクライアントは大手企業が多くて、大規模な施策を手掛けることが増え、いつの間にか、消費者ではなくクライアントを見て仕事をしていると感じるようになって…。

「必要なものが必要な人に届いているのだろうか?」と、自分の仕事に懐疑的になってしまったのです。消費者にもっとダイレクトに響くデザインがしたいと、独立を決めました。

転機となった仕事は何ですか。

独立してすぐは、知り合いの経営する飲食関係のグラフィックデザインを請け負っていましたが、他の仕事が増えるにつれて、ウェブサイトやプロダクトなど、グラフィックデザインのカテゴリーに収まりきらないデザインを依頼されるようになりました。その中で、大きな転機は、内装から手掛けた店舗デザインの仕事です。

当時、「売れる店を作りたい」「集客を増やすにはどうしたらいいのか」という相談が増えて、グラフィックデザインだけでお客様の要望や思いを叶えることの限界を感じていました。ツールなどをデザインして来店を促せたとしても、店内で心地よく過ごせなければ、「売れる店」「人の集まる店」にはなりません。「店舗に関するあらゆるデザインを一手に任せてもらえると、狙った効果を出せるのに…」と、もどかしかったですね。

内装から携われると、その店の世界観を作れます。その空気感に合わせて、ウェブサイトやSNSでの発信方法が考えられ、それを見て来店するお客さんの気持ちを想像して、仕掛けを用意できる。店舗に関わるデザイン全てをハンドリングして、お客さんとのコミュニケーションを設計するという経験が、その後の仕事の方向性を決定づけました。

デザインとは、コミュニケーションである

グラフィックデザイン以外の「デザイン」を扱うことに、不安はありませんでしたか?

もちろん不安でした。でも、内装をいきなり任されたわけではなく、「売れる店にするためにどんな手を打てばいいのかを考えてほしい」と相談されたので、引き受けました。

売れる店作りには内装や店舗デザイン、プロダクトも必要だと思っていたので、自然とデザインの領域が広がっていきましたね。グラフィックでも、それ以外のデザインでも、思考過程は変わりません。その共通点があったから、仕事を全うできたと思います。

ほかにも、共通点はありますか? また、一気通貫の仕事スタイルによるメリットは?

商品やサービスを知って、利用してもらうために何をするべきか。その考え方は同じで、アウトプットの形が異なるだけ。そこに至るまでの考え方には大差ないと思っています。グラフィックデザイン単体ではなく、店舗やブランドをまるごと任せてもらえると、ぶれない世界観を作れて強いブランディングへとつなげられます。売り上げや認知度の向上といった成果を出すためには、欠かせません。

さらに、一つのデザイン会社に何もかも依頼できると、クライアントは労力を省けます。グラフィックはA社、内装はB社、ウェブサイトはC社と別々に発注するのは手間がかかりますし、仕上がりがどうしてもバラバラになってしまうという相談を受けることもあって、困っている担当者の方もいらっしゃいました。ワンストップサービスなら、その問題を少し解決できる気がしています。

倉内さんにとって、デザインとは何でしょうか。

コミュニケーション手段です。デザイナーはデザインする時間以外にも、人と関わったり、いろんなものを見ることが大切だと感じます。コミュニケーションを日頃から体感しているからこそ、コミュニケーション手段としてのデザインが生まれてきます。

私はもともと人と会ったり話したりするのが好きなので、広告会社にいたときも、営業と一緒にクライアントの担当者と会っていました。今も、そのスタイルは変わりません。クライアントと話すことでアイデアやイメージが湧いてきます。特に独立してからの仕事のなかで、「コミュニケーションの手段としてデザインがある」という考えが強くなりました。

信頼から生まれる「機能するデザイン」

クライアントとのコミュニケーションで工夫していることは?

クライアントは、その分野におけるプロなので、私の知らないことをたくさん知っています。だから話をしていてわくわくするんですよね。何気ない会話の中からクライアントの気付いていない課題を見つけて、解決方法を探ります。大事にしたいのは、クライアントの本音。

打ち解けて深い話をしたいからこそ、初めて一緒に仕事をする人とは、必ずお酒を飲みにいきます。お酒を飲みながら、叶えたい夢やこれからの目標、社員への愛情など、守りたいものが共感しあえると良い関係になれる気がするんです。相手を好きになれるかどうかは、大事ですよね。どのクライアントの仕事も、自分事と思って取り組んでいるので、価値観を共有できる人と仕事がしたいです。好きだから信頼しあえるし、信頼がないと、いいものは絶対につくれないと思います。

信頼は、仕事に不可欠ですね。

信頼関係があるからこそ、お互いの考えを尊重することも、アイデアに疑問を呈することもできます。

例えば、ある商品を売りたいと、クライアントから相談されたとします。いきなり、「では、かっこいいパッケージを作りましょう!」とはならないですよね。その商品は世の中に必要とされているのか、そもそも今、人々は何を求めているのかを明らかにして、クライアントの思いと消費者のニーズをかみ合わせていく必要があります。

残念ながら商品がニーズとかけ離れているときには、正直に話します。商品や相手のアイデアを否定するわけではなく、よりよい方法を模索することが大事ですね。

逆に、デザインにダメ出しがあれば、素直に受け止めます。自信のある提案でも、クライアントが首をかしげる企画では、絶対に成功しません。率直に意見を言いあって、対話を積み重ねて「機能するデザイン」がようやく完成します。

「機能するデザイン」とは?

端的に言うと、売り上げや集客に結びつくデザインです。人を動かせないなら、デザインはなくてもいい。かっこいいのに機能しないデザインは、もったいないと思ってしまうので。

デザインは誤解されやすい。「スタイリッシュであればいい」「クオリティーが高ければいい」など、表現物がゴールだと思われてしまうことも少なくありません。でも、それは違うと思うんです。結果として商品が売れて、お店が幸せになって、買うことでお客さんが幸せになるというサイクルを生みだせなければなりません。だからこそ、とても責任のある仕事だと思います。

NEWの海外進出と新しい働き方

仕事において大事にしていることは?

その仕事は、わくわくすることなのか、誰かを幸せにすることなのか、新しい価値を生みだすものなのかをよく考えるようにしています。自分たちのデザインによって幸せな人を増やしたいので、それができないなら、デザインする意味はないと思うのです。これは、自分たちの仕事をする上での姿勢でもあります。

これからの目標をお聞かせください。

いつか海外に進出したいと考えています。私は、特にアジアの国々が好きで、社名のNEWに、「次は世界へ=Next Enter a World」という意味を込めたほど。一時期、仕事でベトナムに滞在したとき、それまでは見えていなかった日本の良いところと悪いところに気づきました。

これは日本の外へ出てみないと、なかなか分からないことです。異文化に触れる大切さを実感しました。デザインなどクリエイティブな活動では、圧倒的なインプットがあるから、良質なアウトプットができます。だから、日本だけではなく、世界に視野を広げるべきだと考えています。

また、数年前から、ビジネスでも社会でも「共有」がキーワードとなっていますよね。いま、事務所を構えているのもシェアオフィス。同じ熱量を持った人たちと、場所だけでなく、人材や仕事、気持ちまでもシェアできています。これからさらに、規模は小さくても同じ志でつながっていくことが増える気がしています。自分たちに足りないものを補いあいながら、クライアントや世の中のためになる仕事がしたい。そういう会社を目指しています。

若手デザイナーへのメッセージをお願いします。

たくさん人に会って、たくさんお酒を飲む…。まあ、お酒はさておき、たくさんの人とは会ったらいいと思います! 何をするかも大事ですが、誰とするかが仕事はとても大切だと思うからです。デザインの技術を磨くだけでなく、人と会って話して、多くのことを得て、機能するデザインを一緒に生み出していきましょう!

取材日:2020年6月9日 ライター:一條 亜紀枝
※オンラインにて取材

株式会社NEW

  • 代表者名:代表取締役 倉内 法生
  • 設立年月:2018年3月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:ブランディング、トータルブランドディレクション・マネジメント、店舗デザイン、グラフィックデザイン、ウェブデザイン
  • 所在地:〒060-0031 北海道札幌市中央区北一条東1丁目6-8 TOビル 1階
  • URL:https://new-design.jp
  • お問い合わせ先:上記ウェブサイトの「コンタクトフォーム」より

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