アニメ2026.11.04

『鷹の爪』誕生を支えた300連泊 FROGMANが語る映像制作とAIがひらく新しいエンタメ

東京
株式会社ディー・エル・イー 代表取締役社長 CEO・CCO
Ryo Ono
小野 亮氏

映画監督を志して映像の世界に飛び込み、『秘密結社  鷹の爪』などの独自のアニメーション表現を切り開いてきたのが、FROGMANとして知られる株式会社ディー・エル・イー代表の小野 亮さんです。
かつて300連泊の過酷な現場を走り抜いた小野さんに、AI時代の到来に思うことや、自身のキャリア、若手へのメッセージまでを語っていただきました。

映画監督を夢見た青年時代

映像の世界に入られたきっかけについて教えてください。

学生時代は映画監督を目指していましたが、当時は世の中に映画監督の専門学校が少なく、それなら「とりあえず映画会社に入ればいいだろう」と考え読売映画社(現 株式会社イカロス)に入社したのが始まりです。

ただ、入社して配属されたのは撮影部でした。そこで1年間、カメラの現場を担当したのですが、やはり「自分は監督になりたい」という思いが捨てきれず、1年で転職したんです。

その後、東映の大泉撮影所に関連する派遣会社に登録し、十数年間、フリーの制作部・演出部として映画やドラマに関わりました。

アニメーションの世界へ転身された経緯をお聞かせください。

30歳になったころ、師匠である錦織 良成監督から「島根で映画を撮るから参加しないか」と誘われ、ロケで島根県を訪れました。そのロケをきっかけに、島根にすっかり魅了されてしまったのです。

当時の私は30歳を超え、「このまま40代を迎えても、ジリ貧になっていくのではないか」という強い危機感を抱いていました。ちょうど世の中ではインターネットが普及し始め、動画配信の可能性が見え始めていた時期です。「ネットを使えば、東京に固執しなくても地方から全国や世界へ発信できるはずだ」と考え、思い切って島根に移住しました。

移住してからはどのような日々を送りましたか。

最初はまったくお金になりませんでした。当時はまだYouTubeもなく、動画を配信するにも月に数十万円もの維持費がかかる時代です。ドラマを撮ろうにも地元のキャストやスタッフはおらず、東京から呼ぶ交通費も出せない。企画は次々と頓挫し、最初の2〜3年は妻の稼ぎに頼る生活を送っていました。

そんな日々の中で「フラッシュアニメーション」に出会いました。これなら人に頼らず、自分一人で企画から作画、音声まで完結できると直感し、そこから独学で絵の練習を始めました。

最初につくったのはどんな作品でしたか。

2004年に『菅井君と家族石』を発表し、自分のウェブサイトで地道に宣伝していたのですが、公開から半年ほど経ったとき、1日で16万人のアクセスを記録しました。2ちゃんねるやフラッシュ紹介サイトで一気にバズり、無料サーバーの会社から「アクセスが多すぎるから有料にしてくれ」と怒られるほど反響があったんです。

その後、DVDやグッズをECサイトで手作り販売したところ、初回で5,000枚以上が完売しました。そこで手応えをつかんだと同時に、クリエイターとしての人生が大きく動き出しましたね。

『秘密結社 鷹の爪』誕生秘話

現在の株式会社ディー・エル・イー(DLE)と出会うきっかけを教えてください。

ネットで作品が話題になり、大阪で開催されたウェブアニメのコンベンションに参加した際、DLE創業者である椎木(隆太)と名刺交換をしたんです。DLEと組むことを決めた最大の理由は、椎木が私の「量産スピード」に価値を見いだしてくれたから。

私は当時から、これからは少人数で、圧倒的なスピードと量でコンテンツを生み出す時代が来ると考えていました。椎木から最初に言われた言葉が「蛙男(FROGMAN)さん、これ月に何本できます?」だったのです。「あ、この人は分かっているな」と確信しました。

そこからTVシリーズ『秘密結社 鷹の爪』の制作が始まるのですね。

はい。ただ、月に数本だと思っていたら、椎木が持ってきたお話は「毎週30分の全国ネット番組」でした(笑)。

決定したのが2006年の1月で、4月放映開始、3月中旬には初回の納品という無茶苦茶なスケジュールでしたが、当時、島根にいた私はすぐに東京へ飛び、DLEのオフィスが入っていたビルに300連泊して制作に没頭しました。

とんでもない作業時間ですね。

今はもう上場会社になってしまったので許されることはありませんが、毎日20時間近くデスクに向かい、眠くなったらその場で倒れて寝て、起きたらまた描く……。過酷な日々でしたが、実写のロケでは氷点下の極寒の現場や、街中でトラブルに巻き込まれた経験があったので、屋根があって空調が効いた室内で作業できるだけで「なんて楽なのだろう」と思っていましたね。

その後は、月給16万円の社員としてジョインしました。当時は破格の安さでしたが、「テレビシリーズの監督を30歳過ぎの未熟なクリエイターに任せてくれるチャンスなんて、世界中どこを探してもない」と思ったので、一切迷いはありませんでしたね。結果として『鷹の爪』は大ヒットし、半年後には給料も大幅に上がりました。1年間のうちにTVアニメ、DVD化、そして劇場版映画の公開まで駆け抜けるというキャリアが始まったんです。

クリエイティブを加速させる鉄則

制作スタイルにおいて、最も大切にされている「こだわり」は何でしょうか。

一貫してこだわっているのは「速さ」です。

世間一般では「時間をかければかけるほど良い作品ができる」と思われがちですが、私は「速いからこそ、クオリティが上がる」と思っています。

優秀なクリエイターは総じて手が早く、限られた時間でいかにクオリティを高めるかという工夫をしています。例えば、「下描きを省略していきなり本画を描く」「作画の負担を減らすためにカメラワークや演出を工夫する」「背景の素材を反転させて使い回す」といった具合に、制限時間を設けることで思考が研ぎ澄まされ、知恵が出てくるんです。

現在、DLEではAIを活用した新たな取り組みを進められているとお聞きしました。

現在DLEでは、アニメーション制作だけでなく、生成AIを活用した「AIスタジオ」の運営やAIサービスの開発に注力しています。

例えば自社開発した「しゃべくりAI」というツールでは、テキストを入力するだけで、AIが『鷹の爪』の吉田くんなどのキャラクター特有の言い回しに自動変換し、声と動きをつけた動画を一瞬で生成することができます。自治体や企業が、SNSや縦型ショート動画で手軽に情報発信を行うためのソリューションとして提供しているのです。

AIスタジオにおけるスタッフの働き方や組織形態も、従来のアニメスタジオとは異なるのでしょうか?

まったく異なります。私たちのAIスタジオには、従来のアニメ制作に不可欠だった「制作進行(デスク)」という職種がいません。クリエイターひとりひとりが演出家であり、プロジェクト全体を自己管理する仕組みをとっています。これを実現するため、私自身がバイブコーディングを行い開発したのが、社内専用のプロジェクト管理ツール「クリエイティブオービット」です。

画面上では、制作タスクを宇宙空間に浮かぶ「バブル(泡)」として表示します。バブルの大きさはタスクの難易度や映像の尺に応じて変わり、色は締め切りが近づくにつれて青から黄色、赤へと変化します。

クリエイターは取り組みたいタスクを自ら選び、「2時間」などの制限時間内に仕上げる。時間を守り、質の高い成果を出すとポイントがたまり、個人の評価や報酬に反映される仕組みになっているんです。
スタジオ全体の作業状況をリアルタイムで共有することで、管理の負担を減らしながら、クリエイターがゲーム感覚で主体的に働ける環境を整えています。

次世代のクリエイターに求めるもの

若手クリエイターの育成や、採用において重視されているポイントを教えてください。

一番求めるのは「覚悟」ですね。エンタメ業界は一見華やかに見えるため、「面白そうだから」という軽い気持ちで入ってくる人が多いですが、覚悟がない人は壁にぶつかるとすぐに挫折してしまいます。

私は若いスタッフに「本を読め」と口酸っぱく言っています。映像を作る仕事というのは、言語をイメージ化し、イメージを言語化する作業の繰り返しです。読書によってインプットを増やし、言語感覚や想像力を鍛えなければ、人の心は動かせません。ツールや技術がどれだけ進化しても、根底にある「表現者としての覚悟」と「物語を創り出す知性」が無ければ、これからのAI時代には確実に淘汰されてしまいます。

今後のDLEの展望について教えてください。

DLEを「日本で一番給料が高いエンターテインメント会社」にすることです。

クリエイターやスタッフが安心してものづくりに没頭し、成果に見合った十分な報酬を得られる構造を作りたいですし、事業としては、フラッシュアニメやWebtoon、AIのように、常にその時代の最新のテクノロジーとエンタメを掛け合わせ、世の中にない「新しいマーケット」を開拓し続けていきます。

ご自身の個人的な夢についてもお聞かせください。

原点である「実写映画」をもう一度撮りたいですね。会社を強固な組織にし、私が現場を離れても自走できる仕組みを完成させたら、本気で天下を獲るような実写映画の現場に挑戦したいと思っています。

テクノロジーや表現のメディアがどれだけ変わろうとも、「面白いものを作って人を驚かせたい」という情熱と、演出へのこだわりだけは、これからも変わることはありません。

取材日:2026年9月8日 ライター:徳永 卓司

株式会社ディー・エル・イー

  • 代表者名:小野 亮
  • 設立年月:2001年12月
  • 資本金:9508万9080円
  • 事業内容:IP(著作権等の知的財産権)の企画開発やアニメ・キャラクター等のコンテンツ制作事業
  • 所在地:〒102-0083 東京都千代田区麹町3-3-4 KDX 麹町ビル7 階
  • URL:https://www.dle.jp/jp/
  • お問い合わせ先:HP内のお問合せフォームより

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