WEB・モバイル2025.12.17

ビジネスを「楽しい」に変える。人と企業が輝き出す糸口が“印刷”にある

兵庫
感動会社楽通株式会社 代表取締役
Shintaro Tamura
田村 慎太郎

「すべてはお客様のために」をモットーに掲げ、印刷を軸に幅広い支援を展開する兵庫県姫路市の感動会社楽通株式会社は、少し変わった広告代理店です。特色のある「企業プロデュース業」では、印刷やWeb、動画などのツール作成に加え、企画・コンサル・お悩み解決までを一気通貫で行っています。あらゆる要望に応え、お客様の思いに寄り添いながら挑戦する姿勢に迫ります。代表取締役・田村 慎太郎(たむら しんたろう)さんに、印刷業の可能性や事業への想いを伺いました。

否定と矛盾に悩む日々。顧客の喜びが独立を後押し

設立までの経緯をお聞かせください。

1995年に大学を卒業して、半年ほど建設業界で勤めた後、親の知人の紹介で印刷会社に転職しました。当時は印刷業界も景気が良くて、御用聞き営業で成果が出ていました。
しかしデジタル化の波が押し寄せ、印刷需要が急減。会社で手掛けていたカタログ冊子も、DVDに置き換わりました。売上が落ち込む中、上司から「明日から新規営業部隊になれ」と指示されて、挑戦することになりました。

突然、営業の内容が変わったのですね。

当然ながら思うようには仕事が取れません。営業資料はなく、名刺だけを持って営業するような状況の中で出会ったのが、その後“師匠”と呼ぶパチンコ店の部長さんです。営業のいろはを教えてもらいました。
「営業マンは営業をするな」「お客さんから言われたことには、『イエス』『はい』『喜んで』の三択で、まず即答」「手ぶらで行くな」が今も強く残っています。そして、成約に至らなくても、お客様が時間を割いてくれた以上、誠意を返す大切さも教わりました。

師匠のアドバイスを実践した手応えはいかがでしたか?

取引先の意向を汲むことで仕事が動き始めました。「イベントでレースクイーンを呼んでほしい」と言われれば対応もしました。その一方で、「外注費:レースクイーン」と書かれた受注伝票を見た社長に呼び出され、「田村くんは一体何屋かわかっているのかな?」と苦言を呈されました。自社の印刷機が回らない仕事は、会社のためにと工夫した仕事でも理解されず、否定されてしまう。でも、取引先のお客様はとても喜んでくれている。矛盾を感じて36歳で独立し、会社を設立しました。

苦境でも、芯の想いは「お客様のためにできること」。同行営業の提案が道を拓く。

会社設立後の経緯をお聞かせください。

2008年に開業して3カ月後、リーマンショックが起きました。世の中全体が冷え込み、印刷業へのニーズも激減。それでも、「困りごとを解決するのが私たちの仕事」という師匠の教えを胸に、「印刷で何か解決できないか」と考えました。そこで思いついたのが、営業担当がいない会社への同行営業です。
製造業や建設業では、元請け会社からの仕事が減り、現場の人が慣れない営業に回されていました。名刺交換もままならず、営業ツールもありません。「それなら、自分の経験で力になれるかもしれない」と、同行営業を無料で提案しました。営業13年の経験を生かし、まずは現場の困りごとを一緒に解決することから始めました。

無料の同行営業とは、手厚いサービスですね。

同行を重ねるうちに、それぞれの営業さんが「どんな営業スタイルで、何を売りたくて、お客様とどんな関係性なのか」が見えてきました。同行を終えて自社に戻ったら、それぞれの営業さんに合ったパンフレットや資料を作り、翌日の営業に持参する。そんな日々を3カ月間続けました。やがてパンフレットを渡したお客様の見積もりが取れ始め、契約が成立するようになってきたと連絡が入るようになりました。
ある日、同行先の社長から「うちの営業がやる気になるパンフレットを作ってくれたみたいで、本当にありがたい。何部でもいいから、すぐ追加で持ってきて!」と連絡がありました。次第に「うちも同行営業してほしい」「楽通ってすごいぞ」と、口コミが広がり、現在まで18年間、お仕事をいただいてきました。

印刷業は恥ずかしくない。折り込みチラシの持つ“楽しみ”が暮らしを明るくする

現在の事業について教えてください。

印刷物、Web制作、動画制作、採用支援、イベント企画、コンサルティングなどを組み合わせた広告代理店です。お客様に寄り添って「お悩み」を解決し、「やりたいこと・夢」を支援しながら形にすることを大切にしています。

現在の印刷業界の現状について、どのように感じていますか?

ネット通販やWebメディアの拡大に押され、向かい風を感じています。同業の中には、「仕事が来るのを待つ」姿勢から抜け出せず、依頼があっても条件が合わなければすぐに諦めてしまう人も少なくありません。最近では、印刷会社の営業が「印刷って言葉が恥ずかしい」「印刷以外もしています」と口にすることさえあります。その背景には、「お客さんはもう印刷を必要としていない」「印刷しかできないと思われたくない」という不安があるのかもしれません。かつて印刷で喜んでもらっていたはずの人たちなのに、後ろめたく感じてしまうのは、とても悲しいです。

それは知りませんでした。驚きです。

弊社の売上の7割は今も印刷が占めています。それは私自身、印刷が好きで、その力を信じているからです。もちろんWebコンテンツの良さを否定するつもりはありません。それぞれの活躍の場所があります。ただ、何でもかんでも、「紙の代わり」にしてしまう流れには、やはり疑問を感じます。

印刷物ならではの良さをどこに感じますか?

たとえば、お年寄りにSNSを勧めても、見るのはなかなか難しいです。けれど、新聞の折り込みチラシなら今も楽しみにしておられる。昔はスーパーのチラシをいくつも並べて、「卵はここが一番安い」と赤丸をつけて、買いに行く。その時間そのものが、地域で暮らす楽しみの一つでした。ところが紙のチラシが減ったことで、情報が入って来ず、同じお店に仕方なく通う方が増えました。折り込みチラシには、ただ商品を知らせる以上の生活の楽しみがあります。私たち印刷会社の仕事は、情報を伝えるだけではありません。人の心に楽しみや喜びを届ける。それもまた、印刷が担ってきた大切な役割だと思います。

「どうせだめ」を「ええやん!」に変える。やる気を引き出す「企業映画化プロジェクト」


具体的な事例を教えてください。

ある製造業の新卒採用パンフレットを制作したときのことです。求人を出しても応募がなく、合同説明会でも若い人たちはブースを素どおり。社内には「どうせうちの会社の話なんて誰も聞いてくれない」と諦めムードが漂う。そんな空気の中に、若者たちが目を輝かせて来てくれるのは難しい。そこで提案したのが「企業映画化プロジェクト」です。本物の映画ポスターのように企業のビジュアル化を行いました。

本物の映画風ですか!?楽しそうですね。

主役は社員全員。初めは気乗りしなかった社員さんも、プロカメラマンの前ではみるみる表情が変わりました。最後には「もう少し撮ってほしい」と言うほどに、目を輝かせていました。社員同士で「そんな表情できるんや」って盛り上がって、それを見ていた社長さんも喜びます。そんな写真を元に、映画のようなポスターができあがりそれが表紙の採用パンフレットができあがりました。

「企業映画化プロジェクト」効果のほどは?

求人への応募が増え、就職サイトに企業登録しなくても、工業高校を通じて直接採用が決まるようになったお客様もいます。中には、大手企業に就職が決まっているのに「この会社で働きたいから、断ってもいいですか?」と言ってくれた学生も現れました。翌年以降は、学校側から「今年は何人採用できますか?」と問い合わせが来るほどの反響に。
まずは自分たちが「ええやん」って思えること。そのワクワクこそが、多くの人たちに伝わる原動力です。そして何より、すべてはたった1枚のパンフレットから起こっているということ。これが、私たちの信じる印刷物の力です。

ビジネスに「楽しい」を!心から喜んでもらえる仕事がここにある

事業を進める上で大変だったことを教えてください。

集客用チラシ制作でのできごとです。初回の成果物がとても好評で、続けて注文をいただきました。ここで気付いたのが、初回のライバルは競合他社。でも、2回目のライバルは「前回の私たちが作ったチラシ」でした。とにかく頑張って仕上げた自分たちのチラシと戦わなければいけません。しかし、どんなに良いものを作っても、初回のインパクトを超えるのは難しい。初回を超える伸び率にはなかなかなりません。けれども、お客様の立場からすれば、それは期待以下なのです。

リピート確保が難しいですね。どんな工夫をされましたか?

私たちは「リピートの仕事をいただけないと意味がない」と考えています。そこで、数値化できる結果だけに一喜一憂されるパターンから抜け出して、「社員さんが楽しいと思えること」をゴールにしました。「楽通が会議に来てくれたらうれしい」「一緒にチラシを考えるのが楽しい」と言っていただける関係づくりを目指しました。また、楽通事務所に「楽通取調室」があります。これは、お客様の本音を聞き出すための仕掛けとしてお客様を取調室にお呼びしてこの部屋でホワイトボードを使って、困っていること、やりたいこと、密かな夢をお聞きします。それを元に、後日「取り調べ調書」という提案書を提出して結果、コンサルなどのお仕事をいただいています。これも仕掛けです。

それは大きな転換ですね。

どの会社も、「ビジネスに“楽しい”が足りない」と感じます。社長は「楽しい会社にしたい」と言うけれど、実際の会議ではみんなダンマリ…。社員さん一人ひとりが「何か貢献したい」と本当は思っています。でもその雰囲気がない。そこで私が、取引先の会議にも参加します。ものの10分で会議はもう大爆笑の渦。第三者の私には、みなさん本音も、アイデアも、たくさん話してくださいます。そうして取引先でたくさんの新しい事業がカタチになってきました。

これからの展望を教えてください。

「こんな悲惨な業界を辞めたい」と同業者が思ってしまう現実を、何とか変えたいと考えています。お客様は私たちの仕事を求めているはずです。そして、具体的な目標としてテーマパークを将来的には本気で「楽通ランド」を作り、ビジネスを楽しく体験してもらい、ヒントを持ち帰ってもらいたいと思っています。周りからどう見られても、やるからにはとことんやって、その結末を自分の目で見届けたいです。
私たちの仕事はお客様ありきです。可能な限り心血を注ぎ、社員たちも一丸となって本気で取り組んでくれています。弊社の強みであり、私の誇りです。社員7人の小さな会社でも、挑戦次第で何でもできることを示し、若い世代に、心から喜んでもらえる仕事があることを伝えていく。それがこれからの使命だと考えています。

取材日:2025年10月8日 ライター:大野 佳子

感動会社楽通株式会社

  • 代表者名:田村 慎太郎
  • 設立年月:2015年7月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:
    ・印刷物全般(名刺、チラシ、パンフレット、ポスター、DM、小冊子、記念誌など)
    ・Web全般(ホームページ、ランディングページ、スマホページ、SNS支援など)
    ・動画全般(企業バズる動画化計画、企業PR、採用動画、トライキャスターなど)
    ・採用支援(企業映画化プロジェクト、ザ採用ズ、採用用企業映画風予告動画)
    ・イベント全般(集客イベント、展示会支援、求人ブース、周年イベント、運動会など)
    ・コンサル全般(ブランディング、営業支援、新規事業支援、セミナー、講演など)
    ・その他(楽通取調室、おもしろアイデア研究所、キャラクター・似顔絵など)
  • 所在地:〒672-8041 兵庫県姫路市三条町2-13
  • URL:https://rakutsu.jp/
  • お問い合わせ先:
    TEL:079-260-6837 FAX:079-260-6839 メール:

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