背景、衣装…アバターを輝かせる“小道具”制作。福井発・VTuberの舞台裏を支える情熱

福井
Memorynator株式会社 代表取締役社長
Kiyoshi Sakai
酒井 聖

福井県を拠点にVTuber(バーチャルユーチューバー)向けの背景、小道具、衣装などのデジタル素材を開発・提供するMemorynator(メモリーネイター)株式会社。代表取締役社長の酒井 聖(さかい きよし)さんは、Webマーケティング業界出身という異色の経歴を持ちながら、VTuber業界の成長とともに独自のポジションを築いてきました。あえてVTuber界の「裏方」に徹する理由、無料や低価格でも高品質な素材を提供する思い、そしてクリエイター集団としての考えについてお聞きしました。

転機は、退職と偶然の出会い。「地域の閉塞感をポジティブに転換」するため福井で起業

会社立ち上げまでの経緯を教えてください。

もともとWebマーケティング会社に就職しましたが、2年足らずで退職しました。「何か面白いことをしたい」という思いからWebサイト制作やSEO支援を中心とした仕事を個人で請け負っていました。しかし、なかなか業績は思うように伸びていきませんでしたね。
最初の3カ月間は、売上がゼロでした。そこから初めて仕事を受注できたときのうれしさは今でも覚えています。目の前の仕事に一つ一つ丁寧に向き合っていくことで信頼と実績を積み重ねていきました。

福井県で起業したのには理由があるのでしょうか?

私は生まれも育ちも福井県です。地方に住んでいるといつかは東京に出て仕事をしたいと考える若者も少なくありませんが、私は地元への思いが強く、坂井市でビジネスを展開することに意味があると感じていました。“地域の閉塞感をポジティブに転換できる事業を作り出すことで地方も変化してほしい”と考えているからです。

伸びしろがあるVTuber事業にシフトしたきっかけ

Webサイト制作からVTuber事業が主力になったきっかけはあったのですか?

アニメ風チャンネルの運営を仲間と始めたことです。個人的に昔からアニメやゲームが好きだったことと、アニメ系のYouTubeチャンネルが登場し始めて「自分たちも何か作ってみよう」と軽い気持ちでスタートしました。趣味の延長のような形で始まったので、最初はまったく視聴回数が伸びませんでした。
一緒に始めたメンバーから、2Dや3Dのキャラクターを使ってバーチャル空間で活動するVTuberの存在を教えてもらい、「VTuberさん向けの何かを作ってみよう」と思ったのが転機になりましたね。自分たちで試行錯誤を重ねる中で、VTuber向けのコンテンツに対して反響をいただくようになり、徐々にVTuber支援事業へとシフトしていきました。

“VTuber向けの素材屋さん”というポジションは徐々に確立されていったのですね。

はい。アニメーションやCG技術で作られたキャラクターを、YouTubeなどのいろいろなコンテンツで提供しています。
最初に使っていた「うさねこメモリー」というチャンネル名をそのままブランドネームとして活用し、VTuberさんが使いたいと思ってくれるアイテムを作ってどんどん発表していきました。キャラクターが住む部屋や衣装、ライブステージなど、裏方の小道具のようなアイテムのデザインから提供までがメインになっています。

「アバター以外の素材屋」として日本一へ。誰かの演出を陰で支えることにやりがい

VTuberさんのキャラクターのデザインではなく、小道具に特化したのには理由があったのですか?

自分の分身であるアバターは自分で作ることもできますが、プロのデザイナーさんに高品質なキャラクターを作ってもらえた方が見栄えがします。私たちがこの業界に足を踏み入れた時点で、VTuberのキャラクターをデザインするプロはすでに多く存在していました。ライバルがたくさんいる土俵で戦うことは難しいと、YouTubeチャンネルでの運営経験から、それを実感していました。
そもそもVTuber活動をするには、高性能なパソコンやカメラ、マイクなどの専用機材も必要なので、初期投資がかなりの額になることもあります。コストを抑えながらもVTuberとして活動する人がほかに必要とするものは何かを考えたときに、“アバター以外の素材屋”を思いつきました。
あえて背景や小道具といったキャラクターイラストに比べると少し人気が劣る、でも必要とされる領域で“日本一を目指そう”と決めたのです。その選択こそが、現在のMemorynatorの強みです。現在も毎月新作アイテムを開発し、公開しています。

VTuber事務所を運営しようとは考えなかったのですか?

VTuberの事務所をメインで持つことは考えていませんでした。というのも、大手から小規模の事務所まですでに存在しており、今も増え続けています。新しいVTuberさんをスカウトしてマネジメントするよりも、さまざまなVTuber事務所と取引ができる立場でいた方が、より多くの場面でクリエイティブな価値を提供できると考えています。
一緒に仕事をしているメンバーはテレビ番組のセットを作るような裏方の仕事が好きで、誰かの演出を陰で支えることにやりがいを感じます。だからこそ、事務所を持たず中立的な立場で、多様な事務所と連携しながら支援できる今のポジションがベストです。

VTuber事業を裏方から支援したい。「世界一かわいいVTuber向けライブステーション制作」目指す

予想外だったVTuber業界の変化はありましたか?

企業のVTuber活用が急激に進んだことですね。「個人の趣味」というイメージが強かった業界ですが、ここ数年は広告やプロモーションの一環としてVTuberを使うケースが増え、「企業戦略」として活用されるようになった印象があります。弊社も積極的に企業さまとコラボレーションしています。

また、デジタルエンターテイメントを活用した地域の魅力発信プロジェクトにも携わっています。地元福井県坂井市で、「うさねこメモリー」に所属しているVTuberの響絵 想(ひびきえめもりー)さんが任命され、PR活動を行っています。

今後、さらに成長するために挑戦したいことはありますか?

VRのライブステージを安価に提供し、“世界一かわいいVTuber向けライブステーションを制作する会社”としての地位を確立していくことが目標です。2Dの素材を3D化することで、VTuberさんがより自由でリアルな表現ができるようになります。背景や衣装なども立体的に動きや奥行きを加えることで、没入感のあるコンテンツ制作に貢献したいです。
将来的には、3D化したコンテンツを現実で再現するようなイベントの開催にも取り組んでいきたいと考えています。

仲間に求めるのは「好き」を他者に届ける視点

一緒に働くクリエイターに求めることはありますか?

「好き」を仕事にするためには、相手の存在が欠かせません。だからこそ、自分の作品が誰かにどう届くか、どんな価値を持つかを常に考えてほしいと思っています。
チームのメンバーによく伝えているのは、「自分たちはアーティストではなく、クリエイターである」ということ。アーティストは自己表現を追求する存在ですが、クリエイターは使われる・求められることを前提にものを作る必要があります。
「切れないハサミは、どんなにかっこよくても意味がない」我々クリエイターは、ちゃんと「切れるハサミ」を作る人間であることを忘れないでほしいです。

未来のクリエイターにメッセージをお願いします。

自分の世界観に没頭しすぎてしまうと、「切れないハサミ」を作ってしまうことがあります。それは、いくら素晴らしい作品でも機能しない道具と同じです。クライアントのために依頼されたデザインであれば、求められているものをきちんと形にすることがクリエイターのあるべき姿だと思います。
作品には必ず相手がいて、その相手にどう見られたいか、どんな印象を持ってもらいたいかを常に意識することを忘れないこと。クリエイターとして成功することよりも誰かに喜ばれるものを作り続ける姿勢こそが大切です。
「好きなことで生きていく」ことは簡単ではありません。自分だけが楽しいだけで成り立つものではなく、誰かと「共感」できて初めて仕事になります。自分が作ったものが、誰かにどう届くかを想像しながら、ものづくりに向き合ってほしいです。

取材日:2025年5月9日 ライター:高井 寧香

Memorynator株式会社

  • 代表者名:酒井 聖
  • 設立年月:2016年8月
  • 事業内容:VTuber支援/キャラクター制作/イラスト制作/
  • 所在地:〒919-0521 福井県坂井市坂井町下新庄16-8
  • URL:https://memorynator.com/
  • お問い合わせ先:https://memorynator.com/contact
  • 電話番号:0776-43-6368

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP