デザインの“引き算”追求で「唯一無二」を生み出し、あらゆるニーズに応える

京都
株式会社Anku
Hiroyuki Kanemoto
兼本 博行

「無駄のないデザインで最大のビジネス効果を狙う」をモットーとし、グラフィックデザイン、Webデザイン、建築デザインなど仕事の幅を広げ続けている、京都の株式会社Anku代表取締役の兼本 博行(かねもと ひろゆき)さん。福知山市という土地、ある写真との出会いを機に兼本さんの事業展開が加速し始めます。起業に至ったきっかけや取り組み、ビジョンについてお伺いしました。

36歳で起業。新聞折り込みに目をつけ、営業から制作までを1人でこなす日々

起業のきっかけは何でしょうか。

子どもの頃から絵を描くのが好きで、美術の先生にも「この道で行くのがいいよ」と勧められていました。美術で飯が食えたら最高だなとは思っていましたが、音楽が好きだったので、音楽系の学校に進んだんです。卒業後は、音楽系のプロダクションに入社し、36歳まで宣伝美術系の仕事に携わっていました。

漠然と「いつか自分で会社を立ち上げたい」という思いはずっと持ち続けていましたね。私生活は田舎が理想だったので、転勤で来た自然豊かな福知山でデザイン事務所を始めようと思ったわけです。

創業時のエピソードはありますか?

当時は、新聞折り込みのチラシ1枚作るのも結構高かったんです。そこで広告宣伝が集まった「集合チラシ」のようなものを手掛けようと思いました。お客さまは、車屋、化粧品屋、美容院、建築屋など、福知山にあるあらゆるお店に営業をかけました。

Mackintosh(以下、Mac)を使いこなせなかった当初の私がやっていたことはディレクション。ところが、デザイン系の仕事をやっていたので、人が作ったものが気に入らないわけです。それでMacを購入し、イチから自分で勉強を始めました。

一方、デザインに対してお金を支払うという概念さえなかった時代。見積りをクライアントにお見せしても版下デザイン料の部分は、「サービスしてくれ」と、赤線を引いて消されてしまうんですよ。忙しくはさせてもらっていましたが、収入はそれに見合うものではなかったので、夜はクラブのボーイをして稼いでいました。福知山に家を建てて、2人目の子どもが生まれる頃で、頑張るしかありませんでしたね。

当時のお客さまとは今もつながりがあるそうですね。

自己流でMacを使えるようになってからは、ポスターやメニュー表、チラシ、グラフィックデザインの仕事を手掛けるようになりました。集合チラシを制作していた頃のクライアント20~30社から、仕事の依頼がポツポツと来るようになり、そこからは紹介で広がっていきました。お店に必要なものをどんどんこちらから提案して、仕事を生み出していく形だったので営業はほとんどしていません。2年ほどでやっとアルバイトしなくても、食べていけるようになりました。

自身のデザインを見直すきっかけとなった写真家との出会い。社名の由来とは

「Anku」という社名の由来を教えてください。

「A」がAdd(広告)、「N」はNet(ネット)、「K」はKeep(維持する)、「U」はUnit(集団)からきています。広告事業を展開していることを表現しながら、これからはネットの時代であること、それらに対して行動し続ける集団であるという意味があり、会社を設立した4人の名前の頭文字でもあります。

パンフレットやチラシ、冊子、写真集に採用されている写真がとても印象的ですね。

写真撮影はすべて写真家・齊藤文護さんにお願いしています。私は、グラフィックデザインの中で写真は重要だと思っているので、写真が必要な時は齊藤さんにお任せしています。

数多くの仕事のなかでターニングポイントになった仕事は何でしょうか。

齊藤さんと知り合ったことかもしれません。最初の仕事は「伊勢国一宮・椿大神社」の写真を齊藤さんが撮影し、回廊での展示デザインを任されたこと。それ以来、「齊藤さんの写真と張り合えるデザインを制作しなければならない」という思いが自分のモチベーションとなっています。

広告は写真で大きく変わることを思い知らされ、自分のデザインを見直すきっかけになりました。ありがたいことに、齊藤さんが撮影した写真集、デザイン、ホームページなどはすべて私が担当しています。

余白のあるデザインで「本当に伝えたいこと」を追求。書道を武器に唯一無二のデザイン、そして福知山だからできること

「もうこれ以上何も引けない」というデザイン哲学を大切にされていますね。

はい。無駄のないデザインを一貫してやってきました。クライアントは余白があると、「ここに、この企画を入れて」と言ってくることがありますが、お客さまに何を伝えたいのか分からなくなってしまいます。本当に伝えたいことが何かを追求して無駄なものを省く。私たちの仕事は商業デザインですから、売り上げを上げなければなりません。広告に興味を持ってもらうためには、余白が必要なんです。

何のためにチラシを作るのか、何のためにWebページを作るのか、そこが明確になっていない仕事は、お断りすることもあります。「他社も作っているから」では、いいものは作れません。

ロゴデザインのなかには「書」を使ったものが多数ありますね。

これらはすべて私が書いたものです。飲食店のロゴなどの依頼が多く、これまでに数多く手掛けてきました。子どもの頃から書道には真剣に取り組んでいて、「伊勢神宮奉納書道展」で五十鈴川賞など、数多くの賞も受賞しています。2人目の師匠についた時に現代書を学び、それがチラシ作りやロゴ制作に役立っています。水を多く含んだ筆で重ね書きしたり、割り箸で書いたり、唯一無二のものなので、作品を見た人から次の依頼が来ることが多いですね。また、デザインを起こすだけでなく、企業のブランドメッセージを文字にして入れるタグラインも大事にしています。

グラフィックだけでなく、パッケージや建築デザインも手掛けられていますね。

パッケージデザインは立体なので、グラフィックデザインとは別物です。東京なら餅は餅屋だったと思いますが、都会と違い比較的競争相手が少ない福知山にいることで手掛けられ、それが私を育ててくれた一面もあります。「できません」と断っていたら、そこまででしたが挑戦したことで、仕事の幅が広がっていきました。

これまでの経験を生かした空間づくりというスタイルで、建築デザインも手掛けています。店舗のロゴから店舗のデザインまで担当した仕事は面白かったですね。そのほか、Webデザイン、看板デザイン、映像制作なども行なっています。

「当たり前のことをやれば人並み以上のことはやれるはず」。対面で生まれる「ライブ感」を大切に

強みや他社と差別化しているポイントを教えてください。

引き出しの多さでしょうか。どんなものにでも対応できるという自負があります。さまざまな仕事の実績があればこその引き出しの多さですね。

クライアントとの打ち合わせでは、私の方からあまり話をしません。とにかく「聞く」こと。それ以外は当たり前のことしかやっていません。「話をきちんと聞く」「クライアントの求めているものを制作する」「納期を守る」という当たり前のことをやれば人並み以上のことはやれるはずです。クライアントが求めるものをきちんと作り続けてきたから、今の会社があると思っています。

打ち合わせなども対面を大切にされているそうですね。

会って話すことですね。やはり、メールや電話、Zoomなどとは、ライブ感が全然違います。話のなかから生まれてくること、広がっていくことはたくさんあります。時間的に都合がつかない場合などは、Zoomも使いますが、コロナ禍でも、「私の方から出向きます。その方がいいものができますから」と、極力会って話すようにしていました。昭和の人間なので、Zoomでは熱量はなかなか伝わりません。

「転ばぬ先の杖」になり、自分で起業するような人材を育成したい。“過去”に学ぶ理由

仕事を通じて、スタッフに伝えていきたいことはありますか。

デザインという仕事は常に勉強し続ける必要があります。自分がいいなと思ったら、「盗め」と言ってきましたね。真似て自分のものをプラスしていくことで、その人らしいデザインが出来上がっていくと思っています。

私がデザインを始めた頃はテレビCMをよく参考にしました。最先端のデザインを駆使したCMもあれば、30年前のCMをそのまま使っている企業もあります。今も愛されているCMには、残る理由があると思うんです。日本には素晴らしいデザインを手掛ける人がたくさんいますので、それを参考にしない手はありません。

これからやってみたいことはありますか。

若い人を育てていきたいですね。実は抱えていたWebコーディネーターやデザインのチームをコロナ禍を機に解散して、現在はフリーランスとして仕事ごとに契約しています。出来高に対して、報酬を支払っていますが、みんなその方が収入も増えたみたいですよ(笑)。

これまで培った経験を伝えていきたいという想いが最近強くなりました。私たちもそうでしたが、若い頃は無鉄砲でしょう?デザインという仕事だけでなく、経営のノウハウを事前に教えておくことで、「転ばぬ先の杖」になれたらと思っています。フリーランスも経営者ですから、自分で会社を経営できるまで育ててみたいですね。

まだまだやったことのない仕事へのチャレンジは続きそうですね。

私個人としては、長いお付き合いのクライアントさんに対し、これまでのイメージを踏襲するだけでなく、新しいものを取り入れた提案もしていきたいですね。やったことのない仕事の依頼はまだまだあるので、これから先が楽しみです。

アイデアもいろいろあるんですよ。

取材日:2024年1月26日 ライター:上野 典子

株式会社Anku

  • 代表者名:兼本 博行
  • 設立年月:2004年4月
  • 資本金:300万円
  • 事業内容:グラフィックデザイン、Webデザイン、Web制作、パッケージデザイン、建築デザイン、CI VI、ECサイト、動画制作、SNS、YouTube
  • 所在地:〒620-0353 京都府福知山市大江町夏間227-19
  • URL:https://www.anku.co.jp/
  • お問い合わせ先:0773-48-9321

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