プロダクト2023.11.08

若いチームで「フォトウェディング業界に新しい風を」。トレンドを取り入れた着物で京都から目指す日本一

京都
株式会社WISH 代表
Hiroto Yasuhira
安平 啓人

着物文化の中心地、京都。伝統を重んじるこの土地で、伝統とトレンドを融合させた新しい着物づくりに取り組む会社があります。京都市左京区に位置する株式会社WISHが取り扱うのは、花嫁が結婚式やフォトウェディングで着用する「白無垢」や「色打掛」。代表の安平 啓人(やすひら ひろと)さんは若干25歳で業界に飛び込み、洋服の流行を反映した着物やSNSの活用など、若い目線ならではの新しい企画を打ち立ててきました。安平さんのこれまで、そしてこれからの、チャレンジの全貌を伺います。

伝統的で優美な柄から今風に洗練された「カフェオレ色」まで。既成概念にとらわれない婚礼衣装を提供

御社の事業内容を教えてください。

私たちの会社では、色打掛や白無垢などの婚礼衣装を中心とした和装用品の企画・デザイン・製造販売を行っています。私の父・安平 知史(やすひら さとし)が1997年に創業した着物の製造会社「織匠やすひら」の一部の業務を受け取る形で2013年に設立されました。
製造した衣装や小物の販売先は、一般の方々ではなく、ブライダル貸衣裳店やフォトスタジオです。私が営業業務全般を担い、全国のお客さまと直接やり取りしながら商品を販売しています。

花嫁さんが特別な日に着る衣装を制作していらっしゃるのですね。

私たちが販売している衣装には、大きく分けて二つのタイプがあります。一つ目は、織匠やすひらが創業当初から制作している伝統的なデザインの色打掛や白無垢。主に婚礼の本番で使われる衣装です。これらはすべて父がデザインを手掛けています。
そして、もう一つが、20年から制作を始めた現代風のコーディネートを取り入れた衣装や和装小物です。こちらの商品は、新郎新婦さんがウェディングドレス姿や和装姿で写真を撮る「フォトウェディング」に用いられることが多いです。

後者の商品について詳しく教えてください。

例えば、私たちは「カフェオレ色」と呼んでいるのですが、ベージュやカーキといった“くすみ系”の色を用いた色打掛。「筥迫(はこせこ)」という花嫁さんの胸元に飾る小物にも、こういった配色を取り入れています。また、デニムのような青の色合いや、レースを使ったコーディネートも人気です。

今風のデザインがとてもかわいいです。

昔は「素材がいい」婚礼衣装にこだわられる花嫁さんが多かったようですが、最近では、「オシャレなデザインを選びたい」「写真映えさせたい」というニーズが高まっています。フォトウェディングのジャンルでは特に。そういったニーズにお応えするため「従来の概念にとらわれない着物づくりをしよう」と思ったんです。

新デザインのヒントは花嫁さんの声にあり。現場をスピーディーに反映したものづくり

現代のトレンドを取り入れるのは、着物という伝統的なジャンルでは難しかったのでは?

そうですね、着物業界というのは伝統を重んじますので、新しいことにチャレンジをするハードルは高いかもしれません。今風のデザインの商品を作ろうと提案して、父に「本当にこれでいいのか」と言われたこともありました。
しかし、当時の私はこの業界に入ったばかりだったこともあって、常識にとらわれずにまっさらな気持ちで企画を考えられました。商品づくりで最も大事にしたのは、現場の方々の声です。

「現場」というのは?

お取引先のブライダルプランナーさんや美容スタッフさんです。そういった方々は花嫁さんと直接お話しして、生の声を聞かれていますから。「こんな小物があるといいな」「こんなデザインが人気です」と、さまざまなご意見やアイデアを教えてくださいます。
このような現場のご意見をベースにしつつ、雑誌やSNSで20代から30代の女性のファッションの流行を研究して、デザインを考えました。カフェオレ色の小物も、女性に人気のあるとあるハイブランドのバッグの色合いにインスピレーションを受けて生まれたんです。

ほかにはない商品づくりを心掛けていらっしゃるのですね。

はい。既成概念にとらわれず、現場の声を受けてすぐ商品を作れることが私たちの強みだと思っています。現在は、WISHが企画を考え、織匠やすひらが外部の職人さんと協力して商品を作る体制をとっています。大きな会社でないからこそ、自由度が高くスピーディーなものづくりが可能です。

Instagramも積極的に活用し販路を全国に拡大。七五三事業もスタート、出だし好調

御社のお取引先にはフォトスタジオが多いそうですね。

20年頃からコロナの影響で結婚式ができなくなってしまい、フォトウェディングの需要が急速に高まっていきました。既存のフォトスタジオはもちろん、フォトウェディングに特化して新規オープンされた店舗もたくさんあったので、そこにターゲットを絞って営業をかけていったんです。関西圏に限らず日本全国に足を運んだ結果、ありがたいことにお取引先が200社ほどまで増えました。

Instagram(https://www.instagram.com/orisho_yasuhira1997/)でも今風の色打掛や白無垢のコーディネートをたくさん掲載していらっしゃいます。SNSも新規顧客開拓に活用されているのでしょうか?

はい。SNSがきっかけで私たちの商品に興味を持ってくださることもあります。実際に、Instagramを見てコンタクトしてくださり、販売につながった北海道のお客さまもいらっしゃいました。SNSは商品のブランディングにひと役買っていますね。コロナで非対面の商談が増えたことで、逆に遠方のお客さまにも販路が広がった印象です。

今後はどういったことに力を入れていきたいですか?

コロナの影響も少なくなり、結婚式も徐々に復活してきました。ただ、フォトウェディングという文化は、ここ数年で一つのジャンルとしてしっかり根付いた気がします。今後も引き続き需要があると思うので、営業に力を入れてお取引先を増やしていきたいです。
また、新事業として、七五三の衣装の制作・販売をスタートさせました。フォトウェディングのラインと同様、現代のトレンドを意識したコーディネートを提案しています。テーマは「オシャレなママが子供に着せたくなる衣装」です。
これも、フォトスタジオさんからの「七五三の衣装が欲しい」という声に応えて生まれた企画でした。最近のスタジオは装飾にこだわっているお店が多いので、逆に着物はシンプルに、どんな背景にも馴染む色合いを意識しています。3カ月ほど前の展示会でリリースしたばかりですが、反応はとても良く、さらに広げていきたいと考えています。

前知識ゼロで飛び込んだ着物業界。「知らない」からこそできることがあると思った

先ほど、「業界に入ったばかり」というお言葉がありましたが、安平さんはいつから現在のお仕事をされているのですか?

私が株式会社WISHに入社したのは、3年前の20年。当時の代表だった父から引き継ぎ、23年に代表に就任したばかりです。前職はWeb広告の営業で、着物業界とはまったく関係ない業務をしていました。
入社のきっかけとなったのは、コロナの影響で、お付き合いのあった問屋さんが閉業されてしまったことでした。問屋さんなしで自ら取引先を開拓しなくてはいけない状況だったので、「私の営業の経験が家業に生かせるかもしれない」と考えたんです。取り扱う商材はまったく違いますが、お客さまに必要なものを提供する、という意味では同じかなと。

着物業界という、ある種保守的な業界に入ることに気後れはなかったのでしょうか?

不安はほとんどなかったですね。というよりも、何も知らない状態だったからこそ入れたのかな。もしかすると父のほうが「大丈夫なのか」と思っていたかもしれないです(笑)。私は25歳でこの業界に入りましたが、同世代の方はほとんどいません。自分よりも年上の方ばかりです。ですから余計に、「ほかの会社と差別化できるかもしれない」という考えがありました。

若手ということで苦労されたこともあったのでは?

大変なことはもちろんたくさんありましたけど、嫌だな、と感じたことはないです。初めは、お客さまとのお話で専門用語がわからないこともよくありました。知っているふりをするのはおかしいので、「教えてください」と言うと、皆さん丁寧に教えてくださって。若さゆえの経験のなさをデメリットと捉えるのではなく、何でも教えていただけるメリットだと捉えました。

お話ししていると、前向きで明るく、「愛されキャラ」の資質を感じます。そのコミュニケーション力は持って生まれたものなのでしょうか?

実は私、20歳から23歳まで、観光名所の清水寺で「人力車」を引く仕事をしていたことがあるんです。あの仕事は実は力だけじゃなくて、お客さまへの観光スポットのご案内などのコミュニケーション力がすごく重視されていて。実技試験に合格できるレベルに達しないと、人力車を引けないんです。観光に来られたお客さまとお話ししたり、時には外国人の方と交流したり、といった経験を通して、コミュニケーション力が磨かれた気がします。

人力車も、前職の営業も、全然関係ないように見えて、実は今のお仕事にしっかりとつながっているのですね。

今は、毎日の仕事が楽しいです。私の生活の中心になっています。仕事を始めるきっかけをくれた家族や、いつも力を貸してくださる職人さんに「一緒に仕事をしていてよかった」と思われる存在になることが目標。そのためにはまず、目の前のことに全力で向き合い、結果を積み重ねていけたらと思っています。
そして、父が作るものがしっかりしているからこそ、こうしてお取引先を増やしていけるんだ、とも感じています。昔は契約がたくさん取れると、自分の営業のやり方が良かったんだ、と思うこともありました。でも今では、そうではなく、父や職人さんたちのしっかりとした「ものづくり」があったからこそ多くのお客さまに買っていただけているのだと感じます。ものづくりに対しての興味は、年を経るごとに強くなっています。

若い世代のエネルギーで着物業界に新たな風を吹き込みたい

今後はさらに新たな挑戦を考えていらっしゃると伺いました。

二つの大きな挑戦を考えています。まず一つは、東京に進出すること。23年10月に、銀座に事務所をオープンさせました。東京を拠点に、関東や東北といった東のエリアにも販路を広げていくためです。今はまだ試運転中ですが、今後は常駐のスタッフを置いて、営業に力を入れていきます。
もう一つは、若いスタッフを増やしてチームを作り、着物業界に新しい風を起こすこと。私自身、20代でこの業界に入り、さまざまなことを経験させていただきました。エネルギーに溢れた若い世代がもっと入ってくるようになれば、伝統と新しさを融合させた、素晴らしいものを生み出していけると思うんです。業界内で「若い世代が頑張っている会社」として、認知されるような存在になりたいです。

これからどんな方を採用していきたいですか?

すごく賢いとか、特別なスキルがあるとかよりも、「素直な人」とお仕事がしたいです。今私がしている仕事では、何を求めているのか、商品をどう活用したいのか、といったお客さまの細やかなニーズを読み取らなくてはいけません。そのためには、お客さまと向き合った時の「素直さ」がとても大切になってきます。素直で、元気で、愛される。そんな方と出会いたいなと思っています。

具体的には何人ほどのチームをお考えでしょう?

今はほぼ私が営業をしているので、まずは2人ほど営業スタッフを増やしたいですね。東京の事務所にも人を置かなくてはいけないですし。さらに、花嫁さんの中心となる世代と同じ20代から30代くらいの女性のスタッフを最低1人は採用し、デザインや広報のアイデアを出してほしいと考えています。

楽しみですね。若くて勢いのあるチームとともに、どんな会社を目指していきますか?

20年に入社してからの3年間、新しく取引先となってくださった200社ほどのフォトスタジオさんには本当に助けられました。ですから、今度は私たちが、皆さんが困った時に一番に名前が挙がるような会社になりたいと思っています。「WISHに任せれば大丈夫」と。フォトスタジオ業界の衣装店として日本一になるため、もっと多くのお客さまに出会いたいです。

取材日:2023年10月2日 ライター:土谷 真咲

株式会社WISH

  • 代表者名:安平 啓人
  • 設立年月:2013年
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:色打掛・白無垢等和装用品のデザイン、企画、製造販売
  • 所在地:〒606-0863 京都市左京区下鴨東本町25 ワールドダックビル2F
  • URL:https://yasuhira.net/

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