スペース2023.03.01

建築で顧客の「歴史をスタート」させる。相手の思いをトレースして形にし、信頼を獲得

高松
株式会社アルカディアデザイン 代表取締役
Hiroteru Sakurai
櫻井 広光
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住宅や店舗、ガレージなどの設計を手がける香川県高松市の株式会社アルカディアデザイン。代表取締役の櫻井 広光(さくらい ひろてる)さんは、「建築士」という小学校時代からの夢を叶え、顧客のアルカディア(理想郷)をつくろうと、日々奮闘しています。ヒアリングでは「お客さまの考えをトレースできるように」との思いから、相手の人生や将来像まで掘り下げる姿勢を重視。建築で顧客の未来までも創造する櫻井さんに、これまでの経歴、仕事観などを伺いました。

理想を求めたガレージ造りが現在の主軸に

建築の世界へ進まれたきっかけは?

小学校時代からぼんやりと「建築士になりたい」と思っていて、卒業文集にも将来の夢として書いていました。図工が得意で、算数や理科の成績もよかったのもあり、周りからも冷やかされていましたね。中学校の技術家庭の授業で自分の考える理想の家を描き、教科を担当していた先生にほめられたのもきっかけでした。

アルカディアデザインを設立されるまでは、どのような会社で働いていましたか?

大阪芸術大学建築学科を卒業後は、地元の香川県にある大手建築会社へ新卒として就職しました。当時は屋根やフェンスなど、家のエクステリアの研究開発を担当していましたね。建築物自体に関わるようになったのは、その会社を退職したあとです。新卒から12〜13年ほどで退職し、2社目の転職先で立ち上がった社内ベンチャーの事業部長を任されるようになってから、店舗の設計などに加えて、現在、弊社の主軸となっているガレージの設計にも関わるようになりました。

なぜ、ガレージの設計に関わり始めたのでしょう?

僕自身、車がずっと好きで、2社目にいた当時にガレージを持ちたいと考えていました。ただ、市販のガレージにめぼしいものがなく、それなら「自分で造ってしまえ」と思い仕事の延長線上で造ったのです。実際に造ったガレージが好評で、同僚や上司から「みんな、こういう空間を欲しがっているんじゃない?」と言われたのをきっかけに社内ベンチャーの事業部を任されるようになり、さまざまな建築物の設計も手がけるようになりました。

会社で感じたジレンマが起業を後押し。「フラットな関係」の大切さを学ぶ

2社での経験を通して、学んだことは何でしょうか?

大学卒業後、そのまま元請けを経験したわけではないので、下請け業者さんとのフラットな関係性を築けるようになれたのはよかったと思っています。一般的にイメージされる建築士のキャリア、例えば、大学を出てそのまま建築士として活躍していたら、勘違いしていたままだと思います。
建築士は、いわばプロジェクトの「長」ですから、建築現場では丁重に扱われることが多いのです。ただ、だからといって自分が偉いわけではない。正直、若いときは僕自身も勘違いしていた時期がありましたが、いい結果をうまなかったのですよね。建築現場に関わる全員が一致団結できなければお客さまによい結果を残せないですし、そこで「上手に導くのが自分の仕事」だと、経験を重ねるにつれて気付けたのは大きかったです。

その後、2017年にアルカディアデザインを設立された経緯は?

2社目の社内ベンチャーの事業部でも自由にやらせていただきましたが、会社員の立場ですと自社の利益も考慮する必要があり、自分が納得するまでお客さまの要望に応えられないことに対するジレンマを感じるようになりました。退職したときは、すでに社内ベンチャーの事業部自体が軌道に乗っていましたし、同僚や後輩に託して、自分の望む仕事ができるようにという思いで、現在の会社を設立しました。

出身地の香川県で設立されたのも、何か特別な思いがあったのではないかと。

元々、大学卒業後に香川県の会社へ就職したのも、いずれ「大好きな地元へ帰ろう」という気持ちがあったからです。その気持ちは会社設立時も変わらなかったですね。また、現在の所在地は2社目の就職先と距離が近く、周囲からは「高松市は狭い都市だし、離れた地域で会社を作れば?」と言われたのですが、どうしてもこの場所に建てたいという思いもありました。

お客さまの考えをトレースするヒアリングで、建築にとどまらない総合的な提案を

企業や店舗、個人と幅広いお客様からの要望を受付けていますが、どのような流れでオーダーをいただくのでしょうか?

建築業界では、紹介で相談を受ける機会も多いとよく聞きますが、弊社の場合は、ほとんどがお客さまから直接のご相談です。「人と一緒が嫌だから、相談に来ました」とおっしゃってくださる方が多いですね。そうした方々がいらっしゃるので、会社の建物もあえて「何屋か分からない」と思っていただける造りにしています。
レンガ造りで、ガレージがあって、車が何台も止まっていて…と、独特な雰囲気のため、カフェと勘違いした方が立っていたときもありました(笑)。本来であれば「おしゃれな家を造ります」などの看板を立ててもよいのですが、あえて打ち出さないのは、間口を絞り「本気で頼みたい」と思うお客さまを迎え入れるためです。実際、そうしたお客さまがいらっしゃっている手応えもあります。

主軸となるガレージ製作はニッチな分野の印象もありますが、どのような相談をいただくのでしょうか?

懇意にしてくださっているガレージ専門誌『Garage Life』(ネコ・パブリッシング)の読者の方から、お問い合わせをいただく機会が多いです。ヒアリングでは、お客さまに成り代わって「自分ならこんなガレージが欲しい」と考えられるように、要望を聞き取ります。建築に必要な土地の情報、所有する車の台数などの基本事項はもちろん、その方の人生や将来の展望なども伺いますね。できる限り、お客さまの考えをトレースできるようにと意識しながら、手元でメモしきれないほど掘り下げていきます。

他の案件では、どのように「お客さまの考えをトレース」されるのでしょう?

例えば、ガレージに次いで多いのは店舗の設計ですが、店舗設立に至った経緯、お店の形態などを伺い、出店を希望される土地の周辺情報を調べます。例えば、相手が飲食店の方でしたら、私が専門家ではないので釈迦に説法かもしれませんが、お店のスタイルや、提供するメニューの内容、価格帯を提案させていただくこともありますね。
店舗の先には、ご相談いただいた方のその先のお客さまがいますし、足を運んだときに「その先のお客様がどう思うか」を重視しています。一方、個人のお客さまには自由に理想の家を造るため、思いの丈を語っていただき、実際の設計時には「自分では考えつかなかった」と驚いていただけるような要素も盛り込むようにしています。

建築で顧客の未来を築く。今後は店舗のトータルプロデュースも

建築士のやりがいを、どう考えていらっしゃいますか?

建築物を通して、お客さまの新たな歴史がスタートするお手伝いができていることにやりがいを感じています。私たちの造るモノは、完成して終わりではありません。建築物は完成してから本来の役割を果たすわけですし、その先も続いていく歴史を築き上げている感覚がありますね。関わった店舗が評判を集め、その噂をお客さま以外の方から聞くのもうれしいです。

会社の展望を教えてください。

建築以外の分野として、店舗経営のアドバイス、トータルプロデュースにも個別で関わりたいと考えています。ほかにも新たな商品の売り方、プロダクトデザインの分野にも興味があります。現在もグラフィックデザインの延長線上で請け負っていますが、商品の魅力を端的に伝えるコピーライティングもピタリとハマるとうれしいです。今後も縁の下の力持ちとして、お客さまを支えていきたいと思います。

求めるクリエイター像は「同じゴールに向かえる人」。デザインは「情報の整理」

今後、一緒に働きたいクリエイター像を教えてください。

現在もたくさんの方々に協力していただきながらプロジェクトを進めていますが、たがいに尊重しながら、同じゴールに向かえる人が理想です。責任感を持って、建築物の完成を望むお客さまのゴールをともに見据えられる人と仕事をしていきたいと考えています。

最後に、クリエイターの方々へのメッセージをお願いします。

設計やデザインと聞くと「カッコいい」と思う人もいるでしょうし、実際、過去の自分もそう思っていました。しかし実は、デザインには「情報の整理」という意味があります。
クリエイティブから連想される「ゼロから作り上げる」という工程はさほどなく、私自身は、自分で仕入れた情報をお客さまの要望に合わせて出していくのが本来の役割と考えています。独創的な仕事だと思われることが多いですが、本来の仕事はそうではない。相手の要望をくみ取り、きちんと提案することが大切だと心がけていてほしいです。

 

取材日:2022年12月11日 ライター:カネコ シュウヘイ

株式会社アルカディアデザイン

  • 代表者名:櫻井 広光
  • 設立年月:2017年3月
  • 資本金:100万円
  • 事業内容:一般土木建築工事業
  • 所在地:〒761-8043 香川県高松市中間町459-1
  • URL:https://www.arcadia-design.co.jp/
  • お問い合わせ先:上記サイト「お問い合わせ」ページより

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