WEB・モバイル2022.09.14

浴衣のEC販売からカフェやスタジオの運営まで 社員のやる気を引き出し、プロジェクトを成功へ導く秘訣とは?

京都
株式会社アンココン 代表取締役
Kenji Ichitani
一谷 賢司

日本の「浴衣」販売を変えた会社、株式会社アンココン。代表取締役の一谷 賢司(いちたに けんじ)さんは、反物を買って仕立てないと手に入らなかった浴衣を、いち早くインターネット上で販売し、爆発的な売り上げを記録。ECと物流に強みを持ち、現在インターネット市場で流通する浴衣の半数近くは、アンココンの物流を介して発送されています。
業界でこれだけのシェアを占めているにも関わらず、アンココンの挑戦は止まりません。メイドインジャパンのものづくりや、海外向けクラウドファンディング、そして2022年に完成した新社屋でのカフェ事業やスタジオ事業など…ユニークな企画の原動力となっていたのは、社員の方々から飛び出す自由なアイデアでした。社員に「やってみたい」と思わせ、プロジェクトを成功へ導く秘訣はどこにあるのでしょうか。これまでいくつもの壁を乗り越えてきた一谷さんのキャリアから探ります。

楽天市場やYahoo!ショッピングなどに15店舗展開、浴衣ジャンルの販売は常に上位を獲得!

御社の事業についてお聞かせください。

アンココンの屋台骨となる事業は2つあります。1つはEC事業。もう1つは、物流事業です。
EC事業の主力商品は浴衣です。楽天市場やYahoo!ショッピングに15の店舗を展開し、浴衣ジャンルの売り上げでは常に上位を獲得しています。店舗をたくさん設けているのは、ターゲットの年齢層やテイストにあわせた店づくり(ブランディング)をするため。取り扱う商品も浴衣だけではなく、雑貨やインテリアにまで幅を広げています。ECの世界では、小さなトラブルが運営に大きな影響を与えることもあります。リスク回避の意味でも、1つの店舗に集中させず、たくさんの店舗で少しずつ売り上げを立てる手法を取っています。

ECサイトに必要な写真素材などはどうやって用意しているのですか?

商品の撮影は、社内にある専用のスタジオで行っています。モデルさんの手配から写真のレタッチ、コピーライティング、在庫管理システムの構築まで、ECサイト運営に必要な工程はすべて自社で行える体制が整っています。
また、ECサイトで販売する商品の中には、自社で企画・開発したものも多くあります。浴衣は、提携企業さんとの共同開発で年間600枚ほど新しいデザイン案を作ります。物流の繁忙期が終わる9月から5か月間ほどかけ、スタッフが打ち合わせしながら形にしていくんです。

2つめの基幹事業、物流事業の強みは何でしょうか?

こちらも強みがあるのは和装分野です。市場に出回る浴衣の大半は、私たちの物流センターから発送されています。
シェアを獲得できる最大の理由は、浴衣という商品の特性にあります。Tシャツなどの洋服は、該当するもの1点だけを発送すれば完了です。しかし、浴衣の場合は、帯や下駄、肌着などいくつもの小物を組み合わせて発送しなくてはいけません。適切な小物の合わせ方や、着物の取り扱い方など、和装の専門知識が必要となります。また、浴衣は季節商品です。2月から6月までの期間が忙しさのピーク。1年間のほぼすべての注文がそこに殺到するため、仕事の波に柔軟に対応できる体制がないと対応できません。それらをクリアしているのが私たちの物流センターで、日本全国のお客様から支持されています。

和装業界30年のキャリアは、偶然の成り行きで。

御社の強み和装分野とのことですが、社長さまご自身のキャリアにルーツがあるのでしょうか?

はい、和装業界に関わり、かれこれ30年以上が経ちました。この業界に就職したのは、本当に偶然の成り行きで。私が通っていた京都の堀川高校は、当時珍しい単位制の学校でした。たしか、年間100時間のうち、61時間の授業に出席して試験で合格点を取っていたら、残りの39時間の授業は、出席自由なんです。生徒の自主性を尊重した学校でした。
しかし、事件が起きました。1時間だけ計算違いで単位が足りなくなってしまったんです。先生に「お前、このままじゃ卒業できないぞ」と言われて真っ青に。ただひとつあった卒業する方法。それが、学校指定の就職先に進むことでした。

そうして就職した先が、和装のお仕事だったのですね。

その通りです。高校を卒業してすぐに配属されたのは、「精練工場」という絹糸を加工する工場でした。絹糸を熱湯に浸し、5時間にもわたって揺らしつづける仕事です。「3K」と呼ばれた「きつい」「汚い」「給料が安い」に加え、「暑い」までが加わった過酷な環境でした。3人同時に入社し、1週間経って1人、さらに3ヶ月経って1人が辞めました。残ったのは私ひとりだけ。
2年ほど経った頃「お前、なかなか根性あるな」と上司に認められ、営業職に異動になりました。和装小物を地方の呉服店などに卸してもらう仕事です。重いカバンを両手に持ち、汗だくで客先を周りました。「買ってもらえるまで外で立っています!」と粘ったりして。20歳そこそこの自分が売り上げを立てるには、努力している姿を見せるしかない、と考えたんです。これが功を奏しました。お客さまには年配の方が多く、「仕方ない奴やなあ」と言いながらも可愛がって買ってくださいました。最後にはトップの営業成績を取れるまでになったんです。 力技で押し切っているように見えますが、実は裏で結構頭を使っているんです。競馬も確率論で絶対に勝てる方法を考えますし、目標ができたら、まずは最短距離で辿り着けるルートを考える。

努力はしつつも、常に戦略を立てて臨む。これは、今につながるヒントがありそうです。
その後、浴衣のインターネット販売に携わられたそうですね。

営業が軌道に乗ってきた頃、大きな転機が訪れました。1999年に、社内でのインターネット販売事業の立ち上げです。インターネット上のショッピングモール「楽天市場」の開設が1997年でしたから、まだ立ち上がって間もない頃。このインターネットショップで和装商品を販売すれば、絶対に伸びるはずだと考えました。商材にしようと考えたのは、浴衣です。
当時、浴衣は百貨店や呉服屋に行き、反物から仕立てないと手に入らない高価なものでした。人々が気軽に買うことができない、昔ながらの構造を変えようと思ったんです。楽天市場に出店していた会社さんと提携して、仕立て済みの浴衣のセット販売を始めたところ、大ヒット。飛ぶように売れていきました。

EC事業に未来を見出し 34歳の時、たったひとりで「アンココン」を立ち上げる

ECの登場とほぼ同時に、浴衣のインターネット販売を始めていらっしゃったのですね。

やればやるほど売上が伸びていくECの仕事は、それはもう楽しくて。営業も並行して続けていたのですが、前ほど外回りに時間を割くことができず、営業成績は落ちていきました。私はECのほうに本腰を入れたかったのですが、当時の社長さんは「目に見えないものは信用できない」と、そもそもEC事業に力を入れていくこと自体、消極的でした。ECに未来を見出していた私とは、しだいに意見の食い違いが出るようになっていきました。

起業を意識し始めたのはその頃ですか?

はい、独立して起業しようと決意したのは、34歳の時。会社を辞め、たったひとりで、EC事業を行う会社を立ち上げました。アンココンは、その時につけた社名です。フランス語で「アン」は「1(いち)」、「ココン」は絹の原料であるカイコの「繭」。「ひとつの繭から始まった」という意味を込めました。

創業当初はどんなものを扱っていたのですか?

和装用品ではなく、海外の雑貨や洋服をECサイトで販売していました。当時は円高だったので、海外製品を安く仕入れることができたんです。しかし、追い風は長くは続きません。為替が円安になり、海外からの買い付けが困難になりました。そこで、もう一度、自分にとってEC事業の原点である「浴衣」に立ち返ろう、と思いました。以前お取引があった和装関係業者の方々も、快く受け入れてくださって、お取引させていただき 。初心に返って少しずつ売り上げを伸ばし、10年間かけてEC事業を成長させてきました。

商品開発やインテリア用品の販売、クラウドファンディング事業など、いくつもの事業がスタッフの発案から始まる

フォトスタジオ
自社ビル内のカフェの様子

今後の展望について、お聞かせください。

現在、和装関係の売り上げは全体の7割程度。和装用品が主力商品であることに変わりはありませんが、インテリア家具や雑貨など、他のジャンルの売り上げも着実に伸びています。今後は取り扱う商品の幅をさらに増やし、オリジナル商品の開発にも力を入れていこうと考えています。
また、2022年7月、京都市右京区に新しい自社ビルが誕生しました。延床1,000m²を超える建物には、オフィスと倉庫のほか、フォトスタジオを4部屋、個室もあるカフェも併設しています。カフェは先日オープンしたばかりで、地域のお店と連携したマルシェなどのイベントも企画しています。これからは「場所」があることを強みに、もっと新しい事業にもチャレンジしていきたいです。

お話を聞いていると、新しいことに積極的にトライしようという社風を感じます。

スタッフが「やりたい」と手を挙げてくれたことは、できるだけ応援しようと思っています。これまで、商品開発やインテリア用品の販売、クラウドファンディング事業など、いくつもの事業がスタッフの発案から始まり、形になりました。スタッフから新しい事業のアイデアを出してもらい、「オモシロイ」又は「ワクワクする」かどうかで最終的に判断します。

判断基準は何ですか?

何でしょう?自分の「動物的な勘」としか言えないのですが(笑)。言葉にすると、ワクワクするか、その先に面白いことが待っていそうか、ということなのかもしれません。あとは何よりも、関わるスタッフの本気度を見ますね。担当者が本当にやりたいと思っているかどうかを見極める。
新しい事業を始める時には、何か自分なりの目標を立ててもらいますが、利益目標を出してほしいとは1回も口にしたことがありません。何も言わずに任せることで、スタッフ自らが「頑張ろう」という気持ちになってくれるようです。

スタッフに任せることに不安はないですか?

自分は、新しいことを始めるスピードも速いですが、ブレーキを引く見極めも同じぐらい速いと思っています。「何とかなる」という根性論で乗り切るのではなく、しっかりと数字を見て判断します。経理面はすべて目を通して把握しているので、危ないな、という予兆にはいち早く気づけます。 また、誤りをすぐに正すのは、謙虚でいようとする姿勢でもあります。間違えた時は「間違えました」でいいんです。無理に押し通さず、1回立ち止まって、皆で別のやり方を模索する。大切なのは、素早くブレーキを引くことです。ちゃんとブレーキを引ける自信があるからこそ、人に任せて、未知の領域にチャレンジすることへの不安を感じないのかもしれません。

「やりがいある会社です」と言ってくれるスタッフたちがいること、それが何よりの幸せ

スタッフの方々に対しては、強い信頼を置いていられるように感じます。

事業がうまくいっているかどうかは、関わっているスタッフの顔を見たらわかるんです。新しく立ち上げたカフェでも、スタジオでも、スタッフの笑顔が輝いてさえいれば、ああ、裏側もうまく回っているんだな、ってわかる。

逆に、笑顔が曇っていたら「何かあるな」と?

そうですね。むしろ、曇る前に相談してもらえるような雰囲気づくりを心がけています。自分で言うのも変かもしれないけれど、皆に近い存在ではあると思っているので…スタッフからしょっちゅう、「社長、それはちょっと違います」って怒られたりしていますし(笑)。
いつも考えているのは、会社で働いてくれている人たちが笑顔でいるために、何をしたらいいんだろう、ということ。そこには精神論ばかりじゃなくて、収入も必要です。売り上げを伸ばすために人を雇うのではなく、雇っている人のために、売り上げを伸ばすんです。スタッフが笑顔になれるよう、その人の良さを最大限に引き上げる。それが、リーダーに求められている資質なのだと思います。「この会社が好きです」と言ってくれるスタッフたちがいること、それが何よりの幸せですね。

取材日:2022年7月20日 ライター:土谷 真咲

株式会社アンココン

  • 代表者名:一谷 賢司
  • 設立年月:2011年1月
  • 資本金:800万円
  • 事業内容: EC事業(撮影、画像編集、通販コンサル)、ロジスティクス事業、プロダクト事業(商品企画、販促支援、クラウドファンディングコンサル)
  • 所在地:〒615-0833京都府京都市右京区西京極橋詰町2-1 COCON bldg.
  • URL:https://uncocon.jp/

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

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