WEB・モバイル2022.08.17

国境やハンデも強みに。時差、合間時間の活用で“自分らしい”ワークスタイルを実現

福岡
株式会社KATSUMOK 代表取締役
Ruriko Orita
折田 ルリ子

「え?何??この会社」。Web制作、LP制作、ライティング業務などを手掛ける制作会社「株式会社KATSUMOK(カツモク)」の2代目代表取締役・折田ルリ子(おりた るりこ)さんは、入社時の印象をそう語ります。時差がある海外の現地法人と業務提携を結び、協力して制作業務を進める新しい好循環なビジネスの仕組みを確立しています。コロナ禍以前からテレワークを導入しており、総務省の「テレワーク先駆者百選」にも5年連続で選ばれました。折田さんに、KATSUMOKならではの柔軟なワークスタイルや運用の仕組み、今後の展望などを伺いました。

公務員からライター
たまたま飛び込んだ会社で代表取締役に

代表取締役になられるまでのキャリアをお聞かせください。

元々物を書くのが非常に好きだったので、高校時代からフリーペーパーに投稿したり、ライティングのアルバイトをしたりしていました。それを仕事にしたかったのですが、親からの期待もあって、学校卒業後は一旦公務員に。法務省に入り、法務事務官として勤めていました。数年経った頃にやっぱりちょっと違うと感じて、キャリアチェンジということで故郷の福岡に戻ってきました。それからはライティングの仕事を軸に、短期の派遣の仕事で様々な業種を経験させていただきました。並行してライトノベルやゲームのシナリオ制作、ビジネスに関する書籍などを何冊か出していたんです。
そんな中KATSUMOKを知り、面白い会社だなと思って「ライターとして雇っていただけませんか?」と創設者に話をしたら、「年齢がちょっと高すぎて難しいかな」とはっきり言われたんですね。弊社のスタッフは35歳以下が多いんですが、その時私はすでにアラフィフ。でも「会社の管理をやってくれる人を探してるけど、来ない?」ということで入社することになりました。
入ってからは前代表取締役のサポートのような仕事をして、2年ほど経った2019年に代表取締役に就きました。

終わらない仕事は“時差”で解決?海外と業務連携

事業内容を教えてください。

Web広告制作をはじめ、ソフトウェアの開発などを行っていて、オフショア、ニアショアが中心です。世界各国の現地法人と業務提携を結んで、海外スタッフに案件を出しているのと、全国各地のスタッフがテレワークで働いています。
海外は、フィリピンのセブ島、ネパール、北マケドニア共和国、ドイツ、今後はメキシコ、フィジー共和国も増える予定で、日本人スタッフと協力し合いながら制作業務を進めています。

海外と距離があることで大変なことはありますか?

むしろありがたいのが、時差があるので日本人スタッフが残業しなくていいことです。こちらが19時で仕事を終わりたい時、セブ島に出せば、時差を足して先方のスケジュールだとあと2時間程仕事をしてもらえます。「どうしても明日の朝までに完成したいけど、どうしようか?」となった時は、「マケドニアにできるか聞いてみる?」とか、「ネパールに聞いてみる?」ということができます。
ネパールは休日や祝日の感覚が日本と違うので、土曜日もお仕事をお願いできるんです。そうすると、弊社は休日手当や残業代を出さなくてもいい。この業界は、夜通しで仕事をすることも多いですが、弊社のスタッフはみんな割と定時の19時に退勤します。20時に退勤したら「どうしたの?遅かったね」となりますね。

創業時から世界に拠点を置いていたんですか?

そうです。だから私も入った後に「え?何??この会社」って思いました。創設者になぜこういうことを始めたのか聞いたら「残業しなくていいって良くない?」って(笑)。このままいけば24時間体制で仕事ができるようになるので、どこの国にとってもデメリットがないと思います。

海外拠点への指示出しは具体的に

時差やそれぞれの国の働くスタイルを生かして、プロジェクトを遂行しているんですね。受注したものを海外のクリエイターが制作した場合、その国ならではの特徴が出てくるものですか?

実はその国らしさが出ると良くないんです。日本のお客さまからのオーダーは、日本人的な感覚が必要で、ホームページ一つにしても海外の方はレイアウトなどがアバウトなんですよね。
また、「これ急いでるんだよね」と日本人に仕事を渡すと、大体その日のうちに作りますが、海外のスタッフは「急ぎます」と応えてくれても、3日間ぐらいかかります。だから「今日の何時までにやってね」と具体的に伝えることが必要です。時間の流れる感覚が違うので、“あうんの呼吸”は通じません。
新人がやりがちなのが「春っぽい色にしてください」とオーダーを出してしまって。でも日本と海外の春は違う。だから色のイメージを伝えるなら「この色にしてください」と、決め打ちをして指示を出さないといけません。「普通は」「一般的には」はあくまでも自分の主観に過ぎないことをしっかり自覚して日本人好みのものを作るために、指示を出しています。

個々の事情に配慮し、キャリアを存分に発揮できる環境づくり

社員の仕事ぶりを確認できる、「カメラを使っての勤務」中の画面

スタッフは何人いらっしゃいますか?

社員が15人と業務提携している方が約50人です。中には障害者手帳をお持ちの方も数人いらっしゃいますが、皆さん、4年近く働いています。そもそも弊社は会社の形態としてテレワーク勤務も可能なので、そういう方にとっても無理なく働ける会社だと思います。
弊社では担当や立場によってカメラをオンにして勤務するバーチャルなオフィスの状況を作るための施策もあります。その場合、勤務中はカメラをオンにして、勤務状況を会社が把握できるようになっています。逆にスタッフはオフィスにいる感覚で上司やチームに相談が可能です。
入社してから数か月の試用期間の方はもれなく、「カメラを使っての勤務」になります。これは会社のルールをしっかりと理解してもらうため、また先輩に質問がしやすい状況を作るためです。またお取引先が密に連絡を取りたいという場合にもスタッフと話し合い「カメラを使ってのバーチャルオフィス勤務」を行っています。
社員には子育て中のスタッフも多く、産休取得者もいます。ある方はご主人の都合で福岡、長崎、名古屋に転勤していた間に出産されていますが、ずっと第一線で働いています。今度第2子が生まれる予定で、産休もフルで取ってもらいます。

持ち味を生かして補い合う
多様な社内環境でユーザーニーズを理解

家庭の事情でキャリアを生かす機会を逃すことはないわけですね。

あきらめる必要はないです。働きたい女性は一生懸命ですから、短い時間でも働いてもらった方がいいと思っています。1日の労働時間は短い方で1日2時間の方がいます。最近だとコロナの影響で子供の保育園が休園になって昼間動けなくなっても、夕方から入ったり、空いた時間にこなしてもらったり。お子さんの世話で家から離れられない方が合間に仕事をすることもありました。保育園のお迎えで「何時まで抜けます」と連絡が来たら、その間に他のスタッフが「私が代わりに入りますね」というように、結果それぞれのハンディーキャップをうまく補って仕事をしている状況になっています。経営者サイドで意識したわけではないのですが、それぞれが前のめりでチームワークで働くようになったということで感謝しかないです。

ホームページに「ユーザーサイドからの目を意識したコンテンツ制作」とありますが、そこに着目したきっかけは?

弊社は海外から来た人や、障害、病気を持つ人、子育て、介護中の人など、さまざまな立場の人がいます。ダイバーシティを実現しているからこそ、グローバルにモノを見ることもでき、自然とユーザーサイドに目がいく。そこが弊社の強みです。あらゆる視点からの意見が出やすい環境にあったということです。

オンオフの切り替えで生活に余白を

最近はリモートワーク化が進んでいますが、御社で気を付けていることは?

弊社はコロナ前からテレワークをおこなっているということもあり、作業する人が、何をしているかが全部分かるように勤怠管理ソフトを入れています。今どんな画面を見ているか、何のメールを書いているかもわかりますし、パソコンの画面が止まっていたら「何かあった?」とこちらから声をかけることができます。朝も全員で挨拶をするところからカメラをつないで、「困ったことはない?」と話もしています。「テレワーク=パジャマでお仕事」というパターンにならないように、「会社で出勤した時にやらないことは自宅でもしない」というルールを決めています。

「オンオフは切り替えましょう」ということですね。

そうすると自動的に残業しなくなります。皆、定時になった瞬間に、「本日の作業終わります、お疲れさまでしたー!」となりますね。
私自身27歳の時に、大病したこともフリーランスに転向したきっかけだったんですが、この業界に限らず働いて健康を損なう人は多いですよね。調子が悪くて休むと周りから「休むんだ」って思われるし、責任感がある人ほど病んでしまうということもあるのではないかと思います。
無理なく働くにはある程度のルールが必要だと思っていて、スタッフが健康に働ける環境づくりは、私たちのような上の人間の役目かなと思っています。とはいえ、クライアントにスタッフの働く環境のことまで考えてほしいと言うわけにもいかないので、時差を生かして海外のスタッフにお願いしながら、うまく進めています。例えばこの日は休みだけど、会議のために出社しなければいけないという経験がある方もいると思いますが、弊社はリモートワーク慣れしているのでその時間だけリモートで参加ということも可能です。結果仕事も滞らずお休みも取れるということが両立できるという状況になっています。 
夜通し働くことに嫌気がさした人、育児と仕事を両立したい方が、クリエイターとして働きながら時間的に余裕のある生活が叶えられるのは魅力で、実際転職入社スタッフの理由の一つになっています。

合間時間を活用し、生き生きと働く

キャンプ場での会議の様子。
休みを確保しつつ案件をこなせる体制が整っています。

今後の展望をお聞かせください

能力のある方が条件次第で働けるならぜひ我が社の仕事のスタイルを生かして働いてほしいと思っています。あとは、色んな国の方と仕事をするので世界の動きを肌で感じることができるメリットがあるんです。今で言うとドイツはウクライナからの避難民がたくさん入ってきて戦争を近くに感じる状況ですし…。時代に合わせて、柔軟に会社の体制を整えていきたいです。

御社のようなスタイルが当たり前になると、クリエイティブ業界に憧れる方が増えていくかもしれませんね

売れているクリエイターさんしか、そういうことはできないんじゃないかと思われがちなんですが、こんな変わった会社もありますのでよろしくお願いします(笑)。

取材日:2022年6月20日 ライター:中島 敬子

株式会社KATSUMOK

  • 代表者名:折田 ルリ子
  • 設立年月:2017年6月
  • 資本金:500万円
  • 事業内容:LP制作、Web制作、ライティング業務、スマートフォンアプリ開発、販売支援、営業代行、業務サポートなど
  • 所在地:〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名2-1-13 Co-work&Share.H 4F
  • URL:https://katsumok.com/

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