WEB・モバイル2022.03.23

原体験は中学時代、ホラー×テクノロジー「ホラテク」がテーマのエンタメ企業に流れる “楽しませる”工夫

東京
株式会社 闇 代表取締役副社長CCO
Seitaro Tonka
頓花 聖太郎

ホラー×テクノロジー「ホラテク」がテーマのエンターテインメントコンテンツを数多く手がける株式会社 闇。恐怖がテーマでありながら、同社の手がけるコンテンツを楽しんだユーザーの表情はいつも結果として笑顔に。中学時代からホラーの世界にのめり込んだという創業者の頓花聖太郎(とんか せいたろう)さんに、遊園地などリアルな場所を使った実体験型イベントや、VRや音響技術を駆使した没入型イベントなど、時代に沿ったコンテンツを提供し続ける同社の精神や今後の展望などをお聞きしました。

中学時代に体感したホラーアトラクションが原体験に

ホラー×テクノロジー「ホラテク」で人びとに“恐怖”と“笑顔”を届ける株式会社 闇。その創業者である頓花さんが、ホラーの世界にのめり込んだきっかけは?

じつは元々、ホラーが大の苦手で(笑)。遊園地やテーマパークは好きでしたが、お化け屋敷には近づかないほど苦手でした。転機となったのは、中学時代に初めて体験したウォーキング形式のホラーアトラクションでしたね。
幽霊役のキャスト(人間)が追いかけてくるリアルなアトラクションでしたが、お化け屋敷といえば幽霊の形をした機械が動いたり、突然ガスが吹き出してくるといったイメージしかなかった自分にとって衝撃的でした。
それまでじつは、特殊メイクが好きだったのはあって。弟の体をメイクで傷まみれにしたり(笑)、人を楽しませたい願望が根っから強かったのですよ。そんな思いも抱えながら初めて足を運んだホラーアトラクションをきっかけに、ホラーの世界へのめり込んでいきました。

ホラーが仕事とつながり始めたのは、いつ頃だったのでしょう?

前職のアートディレクター時代でした。デザインスタジオのSTARRYWORKS inc.で主にWebデザインを担当する中、たまたまテーマパークからの依頼でホラー系のサイト構築を担当する機会がありました。クライアントの意向に合わせてこちらもその世界観を掘り下げていくので、仕事を進めるにつれて「本当に面白い。自分もホラーを仕事にしたい」と強く考えるようになりました。
当時所属していた会社はテクノロジーにも強かったので、エンターテインメントとしてテクノロジーとホラーをどうにか融合できないかと、企画を出し続けました。しかし社内には「怖いのは苦手…」と言う方が多く、なかなか採用されなくて(苦笑)。それでもあきらめず提案していたところ、ある日「新しい会社を立ち上げてみないか」というお話をいただき、現在の株式会社 闇としてスピンアウトすることになりました。

ホラーへの熱い想いが通じたのですね。株式会社 闇としてスタート後、御社はどんなサービスを提供してきたのでしょうか。

アトラクションを手がけた際には、体験したお客さんの表情を自動的に撮影して、SNSへアップする仕組みを作り、たくさんの方々に喜ばれました。ほかには、近距離無線機器「ビーコン」の位置情報システムを活用して、閉園後の遊園地でお客さんに幽霊とかくれんぼを楽しんでいただく企画も作りましたね。

近距離無線機器「ビーコン」を活用したイベント

御社で働くスタッフの方もやはり、ホラー好きな方が多いのでしょうか?

どうでしょう。現在は、コンテンツの企画を進行するディレクターや技術面を担うテクニカルディレクター、アトラクション用のシステムを構築するプログラマーなど色々なスタッフがいます。ただ、なかには「怖いものは怖いです…」と本音をつぶやくスタッフもいます(笑)。
ホラージャンルならではといいますか、開発中に心霊現象が起きることもたびたびありますね。例えば、アトラクション用映像の中に、本来あるはずのない顔が映っていたこともあり、採用したい気持ちはあったものの、クライアント側の意向を尊重し泣く泣くカットしました。僕自身もコンテンツ制作中に毎日なぜか目やにが溜まってしまう経験があり、朝起きるたびに目が開かなくなったので困りました。個人的には「自分がすべての悪い気を引き寄せればいい」ぐらいに考えています(笑)。

ホラーの空気感を決める“音”には0.1秒単位のこだわりが

御社は人びとに“恐怖”と“笑顔”を届けるために、さまざまなホラーコンテンツを制作する中で、どのような試行錯誤をされていらっしゃいますか?

コンテンツを通じて人に恐怖を与えるためには、人間の本能に働きかけて「怖い」と思ってもらわなくてはなりません。ホラーコンテンツの制作には、面白さと難しさの両面があります。
例えば、制作する上でこだわっていることの一つが、音ですね。ぜひ試してほしいのですが、ホラー映画は音を消すと全く怖くないのです。幽霊や得体の知れないものに追われる状況を表現する場合、音の影響は僕らが思っている以上に大きくて、0.1秒ズラすかどうかで人に恐怖を与えられるか否かが変わってくるんです。音は、その場にある、じめじめした空気や気味が悪いさまを表現できるかどうかにも関わってきますし、試行錯誤を繰り返している分かりやすい部分ですね。

また、恐怖と言っても人により感覚が異なるのも難しいところです。ホラーはお笑いに似ていると思っています。テレビで見る漫才の大会も、人によって「おもしろい」という評価が異なりますよね。同じように、万人が怖いと思えるようなコンテンツを作ることは、常に抱えている課題でもあります。そのため、弊社ではより多くの人に「怖い」と思ってもらうため、コンテンツを正式に提供する前に、アンケート調査を行っています。その結果から第3者の意見も取り入れるようにしていますが、評価に左右されるだけでは独自性もなくなってしまいます。客観性とのバランスを考えてコンテンツ制作を進めています。

遊園地などリアルな場所を歩くウォークラリー形式など実体験型のコンテンツづくりならではの苦労はありますか?

ユーザーに実際に体験してもらうコンテンツでは、幽霊役を務めていただくキャストのみなさんにどう動いていただくかが課題ですね。幽霊らしく見える動きというものはあり、人によってセンスが問われます。ただ単純に「こう動いてください」と伝えるだけでは不十分な場合もありますし、エンターテインメント要素をふまえるとおどろかせるだけでもダメなのは、難しい部分です。
キャストの方はタイプがさまざまで、未経験でも初めから想像どおりの幽霊役を演じてくださる方もいます。毎年、キャスト募集にエントリーしていただいている、頼もしい“ベテラン幽霊役者”の方がいるのも面白いです。

“幽霊役者”の方々の控室の様子

かたや、VR技術などテクノロジーを駆使する没入型のホラーコンテンツづくりには、どのような苦労がありますか?

私たちの理想としてはテクノロジーで「アナログの恐怖を超えたい」という思いがありますが、現状では実現の難しさもあります。やはりアナログの強みは、実際の体験により得られる情報の多さです。そのハードルを超えるために工夫を重ねています。例えば、誰もが知っているであろう「こっくりさん」をテーマにしたVRアトラクションを手がけた際には、教室のセットを組み暗い放課後の学校を再現しました。机の上にはコインと紙を置いて、ユーザーに「こっくりさん」の世界観を楽しんでいただきました。

「こっくりさん」をテーマにしたVRアトラクション

VR技術を使えば、たしかに目の前に空間が広がっているような感覚を味わえます。ただ、リアリティがある映像だけではアナログの恐怖には追い付けません。どこで体験しているのかという、場の空気感や、におい・触覚なども大事だと思っているのです。この点は、実体験型のコンテンツとは異なる苦労だと思います。

さまざまな苦労もありますが、頓花さんの思うホラーコンテンツならではの核とは何ですか?

核となるのはユーザーの“体験”です。ホラーは土台にあるテーマで、テクノロジーは“体験”をサポートする役割だと捉えています。ユーザー側には、ホラーを通じて非日常を味わいたい気持ちがあると思うんです。だから体感したみなさんに「面白かった」と言ってもらえるようなコンテンツを提供するのが、弊社の役目だと感じています。
恐怖を与えるホラーコンテンツは内容のあんばいも難しいと思っていて。例えば、派手に血しぶきが飛ぶような、いわゆる“グロテスクな表現”を突き詰めようと思えばいくらでも突き詰められますが、人によってはストレスになりかねませんよね。
弊社がエンターテインメントを重視しているのもそのためです。基本方針としては「ユーザーに喜んでもらえるものは何か」と常に考えています。ターゲットも大人だけではなく、お子さんにも楽しんでいただけるようにお笑いと組み合わせたホラーコンテンツなども手がけてきました。ホラーという一見「楽しさ」とはかけ離れているようなジャンルで、たくさんの人を笑顔にしていければと思っています。

コロナ禍の逆境も覆すコンテンツを“チャレンジ精神”ある人と作りたい

コンテンツ制作の現場風景

日々進化するテクノロジーも生かしながら、数々のホラーコンテンツを提供し続ける株式会社 闇。その将来像を、頓花さんはどう描いていますか?

イベント事業としてはコロナ禍ならではの難しさもあり、弊社でもさまざまな試行錯誤を重ねてきました。2022年2月に開催した体験型オンラインホラーイベント「心霊配信の夜」は世相に合わせた一例で、おかげさまで多くの反響をいただきました。ソーシャル・ディスタンスの必要性や人同士の接触が制限されている以上は、今後も苦労は続くのだろうと感じています。
ただ逆境の中でも、価値ある体験を提供できると思っているんです。テクノロジーを駆使して新たなホラーコンテンツをどう作り上げられるかは楽しみで仕方ないですし、ユーザーのみなさんに今後も提供し続けていきたいと思います。

今後もコンテンツを生み出していく中で、どのようなクリエイターとお仕事を共にしていきたいですか?

私たちの手がけるホラーコンテンツでは、常に新しいテクノロジーの融合を意識しています。企画やコンテンツを支える技術など、あらゆる面で斬新さを求めているので、それを理解していただけるような方々とお会いしたいと思っていますね。
社風に合う人の特徴をしいて言うならば、チャレンジを楽しめる人かなと考えています。自分の興味へ貪欲に突き進める人といいますか。弊社のスタッフもそんな人材ばかりですし、共感していただける人を待ち望んでいます。

最後となりますが、大好きなホラーの世界を仕事に結びつけた立場として、好きなことを生かしての活躍を夢見るクリエイターの方々へのアドバイスをお願いします。

やりたいことがあるならば熱意を持って思いをぶつけるのも必要だと思うんです。僕は現在の会社がスピンアウトする前の職場で、ホラー企画を採用してもらうために力技を使ったんですよ。
先ほども述べたとおり、社内には怖がりな方も多かったので、実際に体感してもらおうと社内旅行に合わせて小規模なイベントを具現化して提案したんです。ホラーをテーマにスマートフォンのGPSを活用したシステムを開発。謎解きを余興として体験してもらい、ホラーコンテンツの面白さを理解してもらったことが自分の転機になりました。
自分の中で「命を燃やしてもいい」と感じるほどの思いがあるならば、形にしてアピールするのも大切です。常識にとらわられず一歩踏み出せば人生は変えられますし、やりたいと思った時点からできる限り動いてみれば道は切り開けると思います。

取材日:2022年2月16日 ライター:カネコ シュウヘイ

 

オンラインイベント「心霊配信の夜」
https://shinrei-haishin.com/
※イベントは終了いたしました。

株式会社 闇

  • 代表者名:代表取締役社長CEO 荒井 丈介
  • 設立年月:2015年4月
  • 資本金:2,100万円
  • 事業内容:ホラーサービス・コンテンツ・プロダクトの企画・制作・開発
  • 所在地:〒153-0044 東京都目黒区大橋2-12-9 パレスKY401
  • URL:https://death.co.jp/
  • お問い合わせ先:https://death.co.jp/ja/contact/

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