アニメ2022.07.27

アニメに国境はない―中国展開で見えた ファミリー層向けアニメーションの可能性と普遍性

東京
株式会社スクーターフィルムズ 代表
Harada Takuroh
原田 拓朗

2021年9月に設立されたアニメーション制作スタジオである株式会社スクーターフィルムズ。TVアニメ『うまよん』や『ぐらぶるっ!』(いずれも2020年)、『結城友奈は勇者である ちゅるっと!』(2021年)など、多くのショートアニメを手がけてきた株式会社DMM.futureworksのアニメ制作部門である「ダブトゥーンスタジオ」の事業譲渡を受け、設立直後からTVアニメ『BanG Dream! ガルパ☆ピコ ふぃーばー!』(2021年)、『じゃんたま PONG☆』(2022年)など精力的に制作しています。
同スタジオは設立にあたって「国内外のアニメの企画プロデュース・制作需要に即応できるスタジオ」というコンセプトを掲げています。代表取締役の原田拓朗(はらだ たくろう)さんは中国市場でオリジナルアニメ映画をヒットさせた経験があり、海外向けの企画開発に積極的に取り組んで来られました。日本市場と中国市場は何が同じで、何が異なるのか?原田さんにお話をうかがいました。

実写映像制作からFLASHアニメの道へ

アニメーション制作の道を志したきっかけを教えてください。

まず私はアニメプロパーの人間ではありません。ただ、昔からアニメは大好きでした。私は関西出身で、小さい頃は夏休みなど長期休暇になると読売テレビの「アニメだいすき!」というローカル番組がOVAやアニメ映画の名作などを放送していました。アニメをおもしろいと思ったきっかけの一つはその番組かも知れません。
作品そのものだけでなく、作り手にも興味を持ったきっかけは、スタジオジブリ作品です。「金曜ロードショー」でラピュタを見た後に、宮崎駿が次回作について語っているのを見たり、メディア露出していた制作現場の様子や宮崎駿監督の姿などを見たりしたのが、アニメ制作者の姿に触れた最初だったと思います。

2021年9月に設立された株式会社スクーターフィルムズの代表になられるまでのキャリアを教えてください。

元々は実写の映画や映像作品の制作に強い興味があり、実写ドラマを作ってインターネットで配信したらビジネスになるんじゃないかと思って友人たちとベンチャーみたいな形でチャレンジしました。2000年代のはじめ頃のことです。当時は堀江貴文さん率いるライブドアが大きく注目されたり、孫さんがADSLのモデムをいたる所で無料配布していたりしていて、「IT全盛」「これからはブロードバンド化だ!」という世相を受けた面もあります。就職氷河期で映像系の就職先が極端に少なく、私を含め、行き場が見つからない人が多かったという面もあるかもしれません。行き場がないなら自分達でやっちゃおうぜ、というようなノリでした。制作自体はなんとか進み、友人のサーバをタダで借りて自主配信していました。YouTube以前で、まだまだネット上にはリッチコンテンツが少なかった時代ですので、それなりに注目いただいたとは思います。しかし、ビジネス的には全くうまくいかなくて、頓挫してしまいました。
ちょうどその頃、インターネット上で「Macromedia Flash」(旧Adobe Flash/現 Adobe Animate)を使用して個人が制作したショートアニメを公開する文化が花開いており、実写とは違うフットワークの軽さやセンスに大きな魅力を感じました。

TVアニメや劇場アニメなど、既存の手描きアニメーション作品は大人数が分業して制作する体制が確立されているわけですが、FLASHアニメは1人で制作して発表できるのが革新的でした。

ブロードバンド化したとはいえ、まだまだ貧弱なネット回線でも快適に再生できるFLASHの技術も、時代によくマッチしていたと思います。その頃は自主制作と言えばFLASHアニメというような流れもあり、多くの個人作家がネット上でショートアニメを発表していました。
そんな中、FLASHアニメで30分枠の深夜アニメを制作してちょっとした話題になっていた株式会社ディー・エル・イーが、今度はFLASHで劇場公開用の映画を作るというので、縁あってスタッフとして参加することになりました。2006年末のことです。実写の映像制作が行き詰まってしまったこともあり、生活的にも願ったり叶ったりなお話でした。ここは、FLASHアニメを主軸に新たにコンテンツビジネスを立ち上げようと胎動していた時期で、アニメの制作だけでなく、FLASHアニメスタジオの構築や運営、広告ビジネスやライセンスビジネスなど、アニメビジネスの様々な面にもの凄い勢いで関わらせていただきました。私は社会人のスタートが遅かったのですが、ここでの経験のおかげで短期間で多くを学ぶことができたと思います。最初は日雇いのバイトでしたが、早々に正社員に登用いただき、気付くと10年以上在籍することになりました。
2017年には、ディー・エル・イーが東映株式会社と東映アニメーション音楽出版株式会社と設立したコヨーテ株式会社の立ち上げに関わり、取締役としてアニメの企画・制作などのプロデュースに携わりました。しかし残念ながら、2021年6月にコヨーテの解散が決まったため、スクーターフィルムズの立ち上げに至ります。

中国市場での経験と予期せぬ出来事

ディー・エル・イーでは、少人数・短期間でのFLASHアニメ制作のノウハウを武器に、日本市場だけではなく、成長が著しい中国をはじめとするアジア市場への積極的な進出を経験されたとのこと。原田さんは中国でオリジナルアニメ映画を制作し、ヒットに導かれたとのことですが、どのようなご経験をされましたか。

オリジナルアニメーション映画『辛巴达历险记2013(シンドバッドの冒険2013)』は2013年に中国で公開されました。当時の中国は映画バブル直前期で、映画の市場規模は今ほど大きくはなく、中国国産アニメの興行収入はまだ1億元(日本円換算で20億円弱)を超えるものがないという状況でした。(2022年現在の中国映画は、大ヒット作であれば興行収入50億元を超える作品も見られる※)
さらに、中国では海外映画の上映に大きな制限があるので、日本の映画作品の興行は常に苦戦を強いられていました。日本の作品が中国では受け入れられないという話ではなく、スクリーンが確保できないのです。
それならば「日本の映画」であることにこだわる必要はないと考え、「主要パートを日本で制作するけれど、あくまで中国資本の中国映画とする」という条件で制作したのが『シンドバッド』です。中国側のパートナーの配給能力が非常に高かったので、予定通り中国映画として上映され、中国での上映だけで制作費をリクープできました。当時は「日本の作品を持っていくことに意味がある」と合作にこだわっているスタジオが多かったように思いますが、逆転の発想が功を奏したのだと思います。しかし、予想外の出来事にも見舞われました。

どのようなことがあったのでしょうか。

一つ目は、ちょうどその頃日本でも日本アニメーション株式会社さんの設立40周年作品である映画『シンドバッド』三部作の製作が進んでいたことです。同時期に同じ題材の「海外アニメーション映画」を上映することはできず、『シンドバッドの冒険2013』の日本上映は見送られることになりました。日本での公開を見据えたタイトル選定への意識が弱く、調査不足でした。
二つ目は、中国映画市場で「映画バブル」といえる市場規模の急拡大が起きたことです。興行の規模が大きくなり、興行担当者の目はハリウッド映画の方を向くようになりました。「これからはリッチな絵作りをしないと勝負できない」という風潮になり、FLASHアニメのテイストは受け入れられづらくなっていきました。

市場の急激な変化には、どう対応されたのでしょうか。

今後はより一層リッチな絵作りにしていく必要があるし、題材も『千夜一夜物語』のようなパブリックドメインだけではなく、強いIPで勝負したいな…と思っていたときに、ベネッセ(株式会社ベネッセコーポレーション)とのご縁に恵まれました。
お話をうかがうと『しまじろう』の海外展開に力を入れていて、中国には日本よりも多くのユーザーが育ってきているというので、「中国版のしまじろうの映画を作りませんか」とご提案し、フル3DCGの映画を制作・公開しました。
日本でも2020年に、日本語ローカライズと再編集を行い、『映画しまじろう しまじろうとそらとぶふね』として公開されました。

確かに作品の公式サイトでスタッフクレジットやコピーライト表記を見ると、中国映画であることがわかります。原田さんの目からは、中国のアニメ映画市場はどのように見えていましたか。

当時の日本ではまだ「アジアは下請け先にすぎない」という風潮が強く感じられました。確かに、中国のクリエイターたちには、当時はまだ経験が足りないところがあったかもしれません。
しかし、中国のアニメファンたちはハリウッド映画の最新作や日本の人気アニメも見ていて、日本のアニメファンと同じくらい目が肥えていました。だから「中国作品のクオリティは早晩日本と変わらないものになる」という確信がありました。

中国向けの作品を手がけるうえで、日本向けの作品にはない苦労などはありましたか?

文化的な違いはあります。中国には食事前に「いただきます」と言う習慣がありませんので、キャラクターにそれを言わせると「日本独自の作品」に見えてしまいます。また、青年向け・大人向けの作品を作る場合は、ローカリティ(お国柄、地域性)にもっと気を付けなければならない場合も多々あると思います。そもそも題材がNGなこともありますよね。暴力描写やセクシャリティに関わる描写はセンシティブです。
あるいは風刺の仕方や温度感にも、国や文化による差が出やすいです。宗教が絡んでしまうと、ある国では「笑い」で済むものが、他の国では作り手の命を危うくすることすらありますので、慎重な取り扱いが必要です。

アニメにかぎらず、海外では表現に関することでそうしたニュースが報道されることがありますね。

ただ、子どもやファミリー層に向けた作品を作る場合は、文化的な違いはそこまで気になりません。みんなで助け合って困難を乗り越える。努力して目標を達成する。大人が子どもに伝えたいメッセージは、普遍的な部分が大きいので。

日本のアニメ業界もフルデジタル化が進んでいく


ミニアニメ「BanG Dream! ガルパ☆ピコ ふぃーばー!」

ミニアニメ「じゃんたま PONG☆」

スクーターフィルムズについてもお聞かせください。原田さんがこれまでに在籍したディー・エル・イーやコヨーテと同じく、デジタル作画によるフットワークの軽い制作体制を強みとされておられますね。

『BanG Dream! ガルパ☆ピコ』や、『うまよん』、『ぐらぶるっ!』など数々のショートアニメを手がけてこられたダブトゥーンスタジオのノウハウとチームを継承できたことで、「フルデジタル環境で、アニメを短期間・少人数で作れるフットワークの軽さ」を実現できる基礎条件は満たせたと思います。今は国内の仕事が多いですが、将来的に海外の仕事を増やしていくための準備を進めています。
一方で、自分達の制作環境へのリスクも感じています。

それはどういうことでしょうか。

私たちのスタジオでは、制作の中心は「AdobeAnimate」で、あとは「ClipStudio」。
しかし、かつての「Macromedia Flash」が買収されて「Adobe Flash」となり、それが今は「Adobe Animate」というツールになっているように、FLASHアニメを軸足としたフルデジタル制作環境がいつまで維持できるかはわかりません。「他社が提供するアプリケーション」という流動的なものの上に軸足を置いている自覚はありますので、常に最新の技術や選択肢にアプローチし続けなければならないと思っています。
でもこれは言うは易しで、制作に集中していると、どうしても一つのやり方に固着してしまいがちです。これはデジタルでもアナログでも変わらない、人間の習性なのだと思います。だからかなり意識して「新しいやり方はないか?」と探し続けないといけないと思っています。
スクーターフィルムズが属しているツインエンジングループは、手書きであれCGであれ、リッチなアニメ制作を得意とするスタジオを多数傘下に持つスタジオグループですが、その中にいることで得られる学びや相乗効果には大きな期待を寄せています。

それでは、御社の今後の展望を教えてください。

今後も引き続き、世界市場を見据えたキッズ・ファミリー層向けアニメーションの企画・制作を行っていきます。キッズ・ファミリー層向けというジャンルは、日本国内だけを見ると成功した作品のシリーズがずっと続いていて新規参入が難しい市場ですが、世界に目を向ければむしろこれからも成長が見込まれる市場です。そこに食い込むべく、チャレンジを続けていきます。
同時に、オリジナルタイトルの企画・制作にも挑戦していきます。原作開発の舞台として「Webtoon(ウェブトゥーン)」に注目しています。韓国で生まれたデジタルコミックの一形態であるウェブトゥーンは、少人数のチームで作っていく発想が強く、数名から10名程度以内のミニマムチームでアニメ制作をしている弊社の体制によく似ています。
ゆくゆくは専門のチーム編成をして、アニメの原作となる作品を育てていく事業が柱の一つになるだろうと考えています。現時点でも、弊社のスタッフにはコミックスに素養のあるクリエイターが多いですが、今後ますますスタッフがアニメとコミックを行き来するイメージになると思っています。

最後に、アニメーション業界志望者や現在すでに活躍しているクリエイターたちへのメッセージをお願いします。

アニメーションを作るうえで、国や言葉の違いによる影響は重くとらえすぎない方がいいと思います。異文化へのリスペクトは大前提ですが、「日本語しか話せないから、日本でしか戦えない」とまで考えてしまうのはもったいないです。
Netflixをはじめとするグローバル配信メディアの普及に伴って、アニメであれば世界中にいるアニメファンに向けて発信する、という感覚が一般化したと思います。日本でヒットしたものを後から海外に持っていくのではなく、最初から国内外で分けて考えずに企画する。配信サービスの向こう側にいる視聴者は、確かに様々な文化背景を持った方々ですが、と同時に、毎月定額の出費をしてでも映像コンテンツが見たい、アニメが見たい、という人々でもあります。彼らが何をおもしろいと思うのかを考えることは、一見途方もないようにも思えますが、よく考えてみたら日本人だからと言って日本人に絶対受ける作品が作れるわけではない。やはりお客のことを考え、作ってみて、反応を見て、アジャストしていくわけです。その対象が少し広がった、というようなことなのだと思っています。
スクーターフィルムズは、これまで同様これからも、日本を含む世界に向けて作品を作って発信していきます。興味のある方はぜひご一緒できると嬉しいです。

取材日:2022年5月24日

株式会社スクーターフィルムズ

  • 代表者名:原田 拓朗
  • 設立年月:2021年9月
  • 資本金:900万円
  • 事業内容:アニメーション作品の企画・制作
  • 所在地:〒160-0003 東京都新宿区四谷本塩町3-3
  • URL:https://www.scooterfilms.jp/
  • お問い合わせ先:

※中国映画の興行収入については下記記事を参照
https://onl.tw/4grzb7C

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP