WEB・モバイル2020.10.14

囲碁の魅力を多くの人に伝えて身近な存在にしたい

京都
株式会社きっずファイブ 代表取締役社長
Junji Masamitsu
政光 順二

2000年以上の歴史があり、世界70カ国以上の人々に愛されている囲碁。戦略的思考や感性、バランス感覚などによる総合的な判断力が鍛えられるだけでなく、礼儀作法を身に付け、年齢や国境を越えた交遊が深められることが魅力です。しかし日本では、将棋や他のゲームに比べると存在感がかすみがち。そんな囲碁をより多くの人に慣れ親しんでもらうことを使命に多方面で取り組んでいるのが、株式会社きっずファイブ代表取締役社長の政光順二(まさみつ じゅんじ)さん。

中学から趣味で始めた囲碁に、仕事として向き合うことになった経緯や今後の展望などについて伺いました。

囲碁を通じた親同士の交流が原点

会社立ち上げまでの経緯をお聞かせください。

囲碁を始めたのは中学から。高校、大学、そして精密機器メーカーに就職しても囲碁部に所属して数々の大会に出場していました。仕事が忙しくなり10年ほどブランクがありましたが、結婚して生まれた娘が3歳の頃に教え始めてから、また関わるようになったんです。娘を囲碁教室に通わせるうちに保護者同士の交流が深まり、パパママ仲間と先生による囲碁の情報交換をしようと「囲碁きっずメーリングリスト」を主宰していました。

その後、囲碁を題材にした漫画『ヒカルの碁』の連載が週刊「少年ジャンプ」で始まり、テレビ東京でアニメも放映されたのを機に、興味を持つ子供たちが増えてブームが巻き起こるだろうと思い、一般にも対象を広げたサイト「囲碁きっず」を作ったんです。最初は掲示板による情報交換が主体でしたが、囲碁仲間が開発したシステムを導入して、サイト内でオンライン対局ができるようにしました。すると300人くらいの小中学生がアクセスしてきて、パパママ仲間をはじめ多くの人がボランティアで対局運営にあたりました。ハンディキャップを付けて対局に勝てば「Q」がもらえるという、囲碁本来の「級段位」とは違った独自の「Q位認定」の仕組みも子供たちにウケましたね。

そのうち「こんなに盛り上がるならビジネスになるのでは?」という機運が仲間うちで一気に高まって、40歳を前に前職を退職。同じ思いを持ったボランティア5人が発起人となり、2002年に「きっずファイブ」を立ち上げました。

社名の由来ですね。それにしても、長年勤めていた大手精密機器メーカーを退職されるとは思い切りましたね。

サイトへのアクセスが伸びたのに加えて、当時はインターネットが出たばかりで今後の可能性が期待されていて、ネットを武器にすれば大きな会社と同じように戦えるんじゃないかと思っていました。何よりも勢いに乗って、囲碁の魅力を子供はもちろん多くの人に普及させたかったんです。個人としても、HP関連の仕事が舞い込むようになったことも独立の後押しになりました。

囲碁をビジネスとしてやるうえで模索の日々

立ち上げてからどんなことで苦心されていましたか?

最初は「囲碁きっず」をベースに、当時はまだなかった大規模な有料囲碁サイトを作ろうと思っていたんです。国内のプロ棋士の組織として日本棋院と関西棋院がありますが、日本棋院と組んで立ち上げようとしたもののコンペで勝てず。

そこで、地元の囲碁関係者とのつながりでアプローチに成功した関西棋院と、課金を担当するゲーム会社との3社による共同プロジェクトで進めましたが、結局は有料版実施に至らずに終わってしまって。せっかくのチャンスが水の泡となりました。当時は、非営利法人と一緒にビジネスを行うのに適したスキームを練るところまで視野や知恵が足りていなくて、教訓となりました。

その後、ビジネスをどのように展開されましたか?

WebコンサルティングやHPの企画・制作の仕事を請けながら、ハードルが高いと敬遠されがちな囲碁にもっと親しんでもらおうと、さまざまなことに取り組みました。初心者向けのインストラクターとして指導対局するほか、京町家で囲碁が楽しめるバーを主宰した時期もありました。

また一般的な碁盤は縦横19本の線が入った木製で、黒白の碁石ですが、イメージを一新させようと新たなデザインの企画・制作にも携わりました。京都市産業技術研究所などと共同で作った、京都オパールが散りばめられた磁器の碁盤「洛式 meets 京都オパール」は「京都デザイン賞2011」に入選。一方で、携帯しやすくかつ勝負も短時間でつきやすいように、縦横9本線のミニ碁盤とカラフルな碁石も開発して、一定の評価を得ました。

洛式 meets 京都オパール

縦横9本線のミニ碁盤とカラフルな碁石

囲碁の魅力はどこにあると思いますか?

将棋や他のボードゲームは深い読みが重視されるのに対して、囲碁は総合的な判断力が求められるところにあると思います。ゲーム内の出来事でありながら判断するための要素が多くあり、そこに人間性が表れやすい。経営も囲碁に近い面はありますが、実社会で囲碁に最も近いのは選挙でしょうね。大差でなく1票でも勝てれば良いので、そのための戦略的思考を練るわけです。

プロを目指すことを考えなかったのですか?

1回もないんです。プレーヤーであることよりも囲碁の魅力を多くの人に伝えたい、入門者や初級者を相手に囲碁の楽しさを教えたい気持ちの方が常に大きいんです。ただ、私が「囲碁のことをいろいろとやっている人」というイメージは業界で定着しつつはあっても、それぞれが単発でストーリーが結びついていないので、ビジネスとしてはまさに奮闘というか迷走の日々だったなと思います。

その後2014年には、囲碁ファンの間で「13路おじさん」と注目を浴びるきっかけになった、クラウドファンディングによる「13路盤選抜プロトーナメント戦」の発起に携わりましたね。

プロ棋士による対局は縦横19本の線が入った19路盤が主流で、13路盤や9路盤といった小さな碁盤は初心者向けと見なされていました。でも19路盤では一局の時間が長くて、社会人が趣味として継続しづらく、囲碁人口減少の一因になっていると思います。

囲碁にどっぷりハマる我々でも、新聞の囲碁欄に興味を持たないし、囲碁番組は見ている途中で眠くなってしまう(笑)。囲碁界のこれからを考えても、20代~50代の現役世代がスマートフォンでも対応できるサイズで楽しめる必要があるんじゃないかと。

そこで、19路盤より小さくて勝負も早く決まる13路盤が囲碁の普及につながるのではないかと考え、プロ棋士による13路盤トーナメントの設立を日本棋院に提案して賛同を得たんです。ただ、単独でスポンサーになるのは難しくて。

IT業界の知人から、広く一般に企画への賛同を呼びかけて出資してもらう方法を聞いて面白いと思い、募集したところ、支援金が目標金額を超えて、無事に実施されました。クラウドファンディング自体がまだ珍しい時代に、囲碁界初となるこの大会の実施はおかげさまでメディアでも話題になり、第32回「日本囲碁ジャーナリストクラブ賞」を受賞しました。

囲碁をもっと身近な存在にしていきたい

現在の事業内容について教えてください。

オンライン囲碁対局場「囲碁きっず2」の運営や、囲碁教材の企画・制作のほか、WebコンサルティングやHPの企画・制作・運用も行っています。

また、今年から初心者やライトファンに向けた動画「囲碁きっず2チャンネル」を毎日ライブ配信しています。内容は「1週間の囲碁ニュース」や「坂本龍馬の基盤」、「豊臣秀吉と囲碁」といった「歴史の中の囲碁」、初心者向けの「囲碁教習所」など日替わりです。

現在の「囲碁きっず2」はどのようなサービスになっていますか。

会員数1500人ほどで、60代前後の人が多いと思います。無料会員登録で、9路や13路の対局は無制限、19路の対局は月に5局まで可能です。他の大きなネット対局場はそこに居合わせた見知らぬ相手と次々と他流試合をする仕組みですが、「囲碁きっず2」は知り合い同士で待ち合わせて打つことに特化しています。

SNS機能を備えていて、友だち登録やコミュニティ、対局予定の調整が可能で、棋譜はデータベースに保存されて仲間同士でコメントし合うこともできます。以前から行っていた独自の「Q位認定」も対応しています。

最近ではどんな手応えを感じていますか?

不要不急の外出自粛で、碁会所や囲碁サロンへの来店が困難になっているなか、今までインターネットで囲碁をやったことのなかった人が「囲碁きっず2」にたくさん入るようになりました。

教室やサークル単位での登録が増えています。囲碁は1対1で行うので、SNSとも相性が良いと思っているんです。リアルな店舗とネットはライバルに思われがちですが、お互いが共存し合うことで囲碁におけるローカルな1対1の関係が広がっていく。それにより、囲碁界全体を盛り上げられたらと思います。

知らない者同士がグローバルな規模でフラットにつながるのも一つだけれども、身近な者同士が家にいながらにしてつながれる役割もあるんだと。今思えば、小さな会社なりのビジネスの展開方法があるのに、インターネットがあれば大きな会社と同じように空中で戦えると勘違いしていた部分があった。ネットを使って地上戦をやらなければいけないと痛感しています。

今後の展望についてお聞かせください。

囲碁は習いたい人も教えたい人も実は結構いるのですが、そのマッチングはうまく機能していないのが現状です。習いたい人が教えたい人にお金を払い、仲介者にもリターンがあるのが皆にとって幸せだと思います。有料でのコンテンツ配信も含めて将来的に拡充させていきたいですね。

今の囲碁人口の大多数は70代~80代。子供も割といますが、学校を卒業して就職した途端に離れてしまう人が多いんです。囲碁界を盛り上げるには社会人を取り込むことが必須なので、今後は若手棋士とも協力しながら13路盤やYouTubeなどを絡めて、もっと気軽に囲碁に触れてもらえるような動きをしていきたいと思います。

ライブ配信では、バーチャルな「囲碁メガネ」をかけています。

取材日:2020年8月12日 ライター:小田原 衣利

株式会社きっずファイブ

  • 代表者名:代表取締役社長 政光 順二
  • 設立年月:2002年11月
  • 資本金:1,100万円
  • 事業内容:インターネット囲碁対局場・囲碁教室の運営、囲碁教材の企画・制作・販売(DVD、電子ブック)、Webマーケティング・コンサルティング、HPの企画・制作・運用
  • 所在地:〒604-0835 京都府京都市中京区御池通高倉西北角4階
  • 電話番号:050-3692-1313
  • URL:http://go-w.jp/
  • お問い合わせ先:上記URLのCONTACTより

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