WEB・モバイル2011.12.07

売れるアプリをつくるためには~スマホアプリの最新事情~

Vol.79
株式会社ユードー 代表取締役 南雲玲生さん
スマートフォンの急速な普及に伴い、拡大をつづけるスマホ向けアプリのマーケット。開発会社は大成長なのだろうと思いきや、「結局、金にならない」、「稼いでいるのは胴元だけ」と、ため息交じりの恨み節もちらほら聞こえてくる。 しかし、「そんなことはない」と言うのは南雲玲生さん。かつて、コナミ在籍中に手がけた音楽ゲーム「beatmania」を大ヒットさせた南雲さんは、2003年に創業した株式会社ユードーでスマホアプリの開発を行っている。アップルのApp Storeで総合1位になった同社のアプリは、指一本の操作でピアノ演奏を体験できる「誰でも弾けるPianoMan」、同じ合言葉を入力した者どうしがテレビ電話でつながる「Live Link 3G」など4種類に及ぶ。2011年4月には、単行本「これでiPhoneアプリが1000万本売れた」を上梓した。アーケードゲームやコンシューマーゲームで一時代を築いた人物は、スマホアプリをどうヒットさせているのだろうか――。

「無駄なこと」からアイデアを思いつく

御社の「PianoMan」のダウンロード数は500万回を超えています。ずばり、売れるアプリを生み出す秘訣は?

僕は「無駄なことをしたり、最適化しない行動をとること」が大切と思っています。なぜかというと、大人になると子どものときと違って、自分のさまざまな経験が蓄積した結果、「こうしたら失敗するんじゃないか」と自然に予防線を張って、面白いアイデアに近づきにくくなってしまう。それを避けるために無駄なことをするのです。たとえば、この年になって「青春18きっぷ」で旅行をしたり、会社の帰り道、常にひと駅手前で電車を降りて街を探索したり。 でも、「考える」と言うと、そこには本能的に「考えなくてはいけない」という圧力がかかってしまいます。そうではなくて、「考えたい」、「面白いことをしたい」と、常に本心で思っていると、自然に思いつくものがあるんですよ。

どんな人たちがアプリを使ってくれるのかイメージするのでしょうか。

最近、僕が特に興味があるのが、たとえば、八王子のイトーヨーカドーで買い物をしている人々はどんな生活をしているのか、あるいは、夜のドン・キホーテの駐車場にいると、なぜ停車している車のカーステレオからEXILEや倖田來未の曲がたくさん流れてくるのだろうか、というようなことを自分の目で見て体感して分析したり調査することです。このような大衆的な生活を送る人々を見ていると、ひょっとしたら、彼らは自分がAndroidを使い始めたのに、そのことに気づいていないのかもしれないと思えてきます。そういう人々を「レイトマジョリティ」と言いますが、保守的で流行に後からついてくるような多数派の人たちが何に興味を持つのかに関心があるんですね。ごく普通の人たちのライフスタイルを見ているうちに、そこから「次にこういうものが求められるのでは」と考えたりします。そういう一見、ゲームとは関係ない無駄な行動でいろいろとアイデアが浮かんでくるのです。

思わぬところで、思わぬ出会い

「PianoMan」は指示通りに画面上の鍵盤を押すだけのシンプルな仕組みです。コンシューマーゲームがどんどん複雑になり、ついて行くのをあきらめる人もいますが、このシンプルさは「やってみたい」と思わせますね。

スマホアプリは、簡単に遊びたいというニーズに応えていますね。人間にとっては何かの選択を求められたり、あるいは能動的に考えたりするのはすごく面倒なこと。コンシューマーゲームは進化してきた分、奥深くなってユーザーに多くのことを考えさせるようになりました。すごく裏をかかないと正解がわからず、疲れてしまう――。一方、スマホアプリは気軽にできて、止めたいときにすぐに止められる。そんな人たちが、「PianoMan」のようなゲームのシンプルな気楽さにはまっているのかもしれません。シンプルなアプリといえば、酒の席で出た話がきっかけでつくってヒットしたものがあります。

どんなアプリですか?

その名も「斉藤さん」というiPhone向けアプリです。売上はまったく関係ない無料ゲームで、全国の斉藤さんが「斉藤さん」に登録し、斉藤さんでない人は「それ以外」に登録します。そして、アプリを使って電話をかけると、どこかの斉藤さんに電話がかかって通話ができるというものです。

シンプルですが面白いですね!でも、無料ではビジネスにするのは難しいですか・・・。

ところが、意外なところでビジネスに結びつくこともあります。たとえば、弊社の「pompa(ポンパ)」というアプリはスマホで会話をしながら、テレビ電話、お絵かき、チャットができるアプリで弊社独自の技術ですが、これを遠隔医療に使いたいという話がありました。「pompa」や「斉藤さん」を含めたテレビ電話アプリシリーズは、すでに40万ダウンロードもされて機能が実証されているので、メーカーさんが新しくシステムをつくるよりも合理的だったのです。少しとんがったアプリは売れなかったり、あるいはアプリを無料で配ってどうするの、と言われることもありますが、思わぬところでマッチングすることもあるんですね。ですので、自分のクリエイティビティは決して制限することなく、どんどんアイデアをメモしてストックするのがいいと思います。もしかしたら、その中から「いまなら行けるかもしれない」とか、「この要素を加えれば売れるかもしれない」ということがあるかもしれません。

わかりやすいネーミングとコンセプトを心がける

実際にアプリを売り出すときに気をつけていることは?

いろいろありますが、まずネーミングですね。「斉藤さん」は、ただその名前だけでiPhoneを使っている全国の多くの斉藤さんがダウンロードしてくれました。それだけでも相当な数です。プロモーションの予算がなければないほど、ネーミングで人を引きつけるのが重要だと思います。 それと、常に使う人の立場になって考えてみるのも大切です。僕自身もそうですが、クリエイターは、つい、「こうしたらおもしろいでしょう」と自分の主張を出したがりますが、ユーザーにしてみれば、ユードーという会社も南雲という人物も知らない。どこの誰だかわからない人のアプリをインストールするのは、たとえ無料でも抵抗があるはずです。そういう人たちの心をつかむためには、コンセプトを明確にしなければいけません。

「PianoMan」は、名前からゲームが想像できますし、「ピアノを演奏する」という明快なコンセプトで、いい例ですね。開発についてはどうでしょう。

開発者は、アプリにあれこれと機能を多く搭載しがちです。行動経済学でも言われているのですが、機能がありすぎると、ユーザーは迷った挙句、何も選択できなくなってしまいます。ですので、逆に機能を隠すくらいシンプルにつくるべきです。もし、高い評価をいただけたなら、そのあとでいくらでもバージョンアップできますし。 それと、これがいちばんの問題ですが、実際に売るにあたっては、App Storeのようなマーケットの販売手法のトレンドは非常に早く移り変わるので、かなり注意しています。

「アプリの売り方」に流行りがあるのですね。

はい。たとえば、2008年にApp Storeが登場したときは、アプリの無料版と有料版をつくり、無料版で面白ければ有料版の購入に誘導するモデルが主流で、弊社もそれで収益を上げました。しかし、そのうち多くの方が無料のアプリで遊んだ後、他のメーカーの無料アプリで遊ぶようになってしまい、現在、この方法はほぼ見られなくなりました。その次に来たのが、アプリを無料でダウンロードしてもらい、そのあとで追加課金するビジネス。「PianoMan」はこれに該当します。ダウンロード数は500万ほどですが、その中の数パーセントのユーザーが追加で楽曲をダウンロードしてくれるので、それに課金をするという方法です。昨年(2010年)まではこの方法が目立ちました。

ソーシャル化するアプリ

では、最近の傾向は?

スマホアプリのソーシャル化です。ユーザーが個人で利用するアプリと異なり、ソーシャルアプリはSNSなどのコミュニティを基盤にして、ユーザー同士のつながりや交流関係を機能に活かします。アプリ自体がサーバーから情報を読み込むブラウザなので、常に新しい情報や機能を提供できます。 大半の方は有料サービスまで踏み込まないとは思いますが、ソーシャルの口コミの力で、「PianoMan」のときのように、熱狂的な人たちがお金を出してサービスを購入してくれるはずです。SNSのつながりで、仲間に「自分をよく見せたい、強く見せたい」というモチベーションがありますから。弊社もその体制に一気にスライドしているところです。

レイトマジョリティを想定してアプリをつくり、その中でもマニアックな人たちに力を注いでいるのですね。

そうですね。弊社ではその一環として、2011年11月に「テガキモンスター」というソーシャルアプリをiPhone向けにリリースします(11月18日にリリース済み)。スマホならではの操作性をソーシャルアプリに加えて、自分で手書きした絵がモンスターになり、ネットワーク上でコミュニティの人たちと対戦できるゲームです。“手書き”という昔ながらの手法と、ソーシャルゲームというテクノロジーをミックスしたことで、メディアの皆さんにも内容が伝わりやすく、世間に広く知られるゲームになるのではと期待しています。ちなみに、この名前も非常にわかりやすいですし、発音したときに「テガキ/モンスター」と、リズム感がいいことも重視しました。

株式会社ユードー 代表取締役 南雲玲生さん

【インタビュー対象者】
株式会社ユードー
代表取締役
南雲玲生さん

でも、絵が苦手な人はちょっと・・・。

じつは、このゲームでは、たとえば初回では絵を描く時間は120秒しか設けていません。レベルが上がるごとに少しずつ、時間が増えていきます。すると、最初は誰でも丸と点でできた団子みたいなモンスターしかつくれません。その結果、敷居が低くなって多くの人に遊んでいただけるようになりました。

逆転の発想ですね。

「多くのユーザーはじっくり描きたいから時間制限しない方がいいのでは」という考え方もありますが、そうではないところに「ほかとはちょっと違うんだよ」という特長があるのです。資本力がないからこそ、アイデアや技術で勝ちたいと思います。

取材日:2011年10月18日

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