THE ORAL CIGARETTES「ORALIUM」のライブ演出を担当した大河臣が今の時代に演出をする上で大事にしていること

Vol.193
映像ディレクター
Shin Okawa
大河臣

近年、さまざまなジャンルのアーティストが映像を使ったライブ演出を行っています。そんなライブ演出の世界で注目を集めているのが、映像ディレクターの大河臣(おおかわ しん)さん。

3月8日(月)に行われた『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021』では、自身がライブ演出を担当したTHE ORAL CIGARETTESがBEST CONCEPTUAL LIVEを受賞しました。

今回は受賞のきっかけとなった『「ORALIUM」at KT Zepp Yokohama』について、演者としてはもちろん、演出も一緒に作り上げたというTHE ORAL CIGARETTES(以下オーラル)の山中拓也(やまなか たくや)さんも取材のゲストとしてお迎えし、たっぷりとお話を伺ってきました。

左:大河臣さん、右:山中拓也さん

 

『ORALIUM』成功の秘訣は純度の高いコミュニケーション

ORALIUM(オーラリウム)のライブ演出で特にこだわったことは何ですか?

大河:

まずベースにあったのは、「フィジカルなライブは大事だよね」というメッセージです。それを伝えるために、直方体の鑑賞装置を入れ込んで演出空間を作るORALIUMパートと、そこから出て通常の形でライブを行うライブパートの二部構成で行いました。時期的にも「我々はなぜこれをやるんだろう」というマインドの部分を大事にしなきゃいけないと思っていたので、最初に打ち合わせをしたときも「今、何を考えてる?」という話を結構しましたね。

直方体に映像を映す演出は、何をヒントに思いついたんですか?

大河:

二人でずっとリモートで打ち合わせをしていたんですが、僕が別件で席を外している間に、拓也君が急に思いついたんですよね(笑)。

山中:

頭が休まったんでしょうね(笑)。僕は配信ライブに違和感があるのでオーラルは配信ライブをやってないんです。でも今までのライブの良さをもう一度ファンに確認してもらうために、配信上ですべてが完結する未来をステージで体験してもらおうと思いました。だから水槽を模した直方体を作り、最初はその中で演奏して、お客さんには一切目線を向けず、スタジオでライブをしている姿をカメラ越しに見られているような演出にしました。そのあと従来のライブをすることによって、未来のライブの形と今までのライブの形、あなたはどちらを求めてるんですか? ということを問いかけたかったんです。大きな海を凝縮してるアクアリウムもヒントになりましたね。

大河さんはこの水槽みたいな演出をしたことがあるんですか?

大河:

実はオーラルの「Diver In the BLACK Tour 〜ReI of Lights〜 」というツアーで、潜水艦で海に潜っていくような演出をしたことがあるんですけど、実際に水槽らしきものを作ったのは初めてでした。スクリーンの材質や大きさ、ライブパートでそれを移動させるときにどうすればいいかなど、フィジビリティの部分も含めてスタッフ皆で手探りしながら楽しくできたと思います。

今回『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021』でBEST CONCEPTUAL LIVEを受賞したときの率直な感想を教えてください。

大河:

賞を目指そうとか話題にしてやろうといったような、ともすれば邪(よこしま)とも取れるような考えを持って望んでいたメンバーは一人もいなかったので、純粋に評価されたというのは本当に嬉しかったですね。

山中:

おっしゃる通りですね。楽しくて刺激的なものを作ったらそれが評価されて、ちゃんと見てくれている人がいるんだなとありがたい気持ちです。

それぞれ周りからの反響はどうでしたか?

山中:

僕の周りは「積み上げてきたものが報われて良かったね」という反応でした。オーラルはミュージックビデオはもちろん、アーティスト写真にまですごくこだわって作っているんです。ただ世間にはあまり知らせずに、ファンにだけちゃんと説明するというスタンスを取っているので、僕らのことをそんなに知らない方からは偏った見られかたをされてると思うんですよね。

それが今回のアワードで賞をいただけたので、大河さんと今まで作ってきたものがようやく報われたなと。僕はチームに対しての賞でもあったと思います。

大河:

同業者からは「あれ大変だったでしょ?」という、実現可能性について聞かれることは結構ありました。実際に、一歩間違えれば失敗しかねない企画で、それを実現できたのはこのチームだからというのはあるかもしれません。このチームって、オーラルが小さなライブハウスで活動していた頃からずっとスタッフが変わっていないんです。酸いも甘いも一緒にかみしめましょうという姿勢に僕は美しさを感じますし、コミュニケーションも密に取れているので、そこも結構ポイントだったと思います。

 

本番直前まで作業し、その時点でのベストを尽くす

今回ライブを通して一番伝えたかったことは何でしょうか?

山中:

コロナ禍でライブを行うにあたって、“今の日本においてのロックバンド”としての旗上げにするのか、オーラルが今まで歩んできたものに対してアプローチしていくのか、どこにメッセージ性を置くのか、いろいろな選択肢がありました。その中でも大河さんと話して一番大事だと思ったのが、「ロックを守る」ということです。

尖っていた若手の時期を越えた僕らが、今一番説得力を持って発信できることは何かというと、後輩に背中を見せて新しいロックシーンを作っていくよとか、正直衰退し始めてきてしまったロックをいかに巻き返すか、ということをコンセプトにした方がメッセージ性も強くなると思いました。

コロナ禍でライブができなくなって、ライブにずっと来てたロックファンたちが「本当にライブが必要だったのか」を考え始めてる時期だと思うから、それをもう一度問いかけるようなライブを作りたかったというのが本質だと思います。

もっとこうすればよかったと思う部分はありますか?

大河:

全体論で言うと特にはなくて、「やりたいと思って目指したことがきちんとできた」という感触があります。

山中:

作品について後悔し始めると、もう本当にきりがないですよね。できる限り納得できるものを作るなら突き詰めるしかない。そういう意味で大河さんはすごくて。ライブが始まる本当に直前まで映像を作ってたりする人で、その時点までのベストを絶対に出してくれるんですよ。

ちなみに武道館ライブでも公演の直前まで黙々とギリギリまで作業してくれたんです。オーラルが「武道館!」ハイテンションになってるときにね。クリエイティブの知識や経験はどんどん自分についていくから、1年前の作品のあそこはこうしておけばよかったと思うのは絶対あると思うんですが、今回は大満足ですね。

大河さんは今回も直前まで作業されてたんですか?

大河:

そうですね。アンコール頭に映像を付けることになったのは当日で、開演の2、3時間前に作って入れました。毎度こんな感じですね、みたいな(笑)。

もともと映像がなかったのに、付けた理由は何でしょうか?

山中:

オーラルは「答えをみせる」バンドというより、「何かを考えてもらうきっかけを与える」バンドだと思っているんですが、自分がお客さん目線で当日のことを想定するとある程度答えが出切ってしまっていると感じたんです。なので、最後にこの一言を入れたら、僕らが何を発信したいのか考えてもらうきっかけになるし、「思考を止めない」ということをちゃんとファンにフェーズさせていくというのは、オーラルとしてすごく大切なことだと思ってギリギリで頼みました。

大河さんは他のアーティストとのお仕事でも直前の依頼を受けることは頻繁にあるんでしょうか? それはかなり大変なのでは?

大河:

あるにはあるんですが、直前であろうなかろうが、その言葉が持つ意味を大事にしなきゃいけないと思っていて、それが本当に必要なのかどうか、そしてそれはなぜ必要なのか、きちんとコミュニケーションをとって吟味することができていれば、直前で発生したとしても、皆が納得できるんです。

その納得の度合いをすごく大事にしています。ちゃんとコミュニケーションがとれて、信頼関係や敬意をきちんと感じ取ることができれば、直前で結構大変な作業が発生したとしても、あまり苦にならないという考え方ですね。

 

大事なのは技術よりもそれをどう使うか

 

そもそも大河さんが映像ディレクターを目指したきっかけは何でしょうか?

大河:

僕は文系大学の経済学部の学生で、就職活動を始める前には特にやりたいことがなかったんですけど、当時たまたま丹下紘希(たんげ こうき)さんのミュージックビデオを見て、言語化できない衝撃を受けたのがきっかけです。じゃあ自分に何ができるんだろうと考えたときに「映像のことを何も知らないな」と思って勉強を始めました。

山中さんとはどう出会ったのでしょうか?

大河:

5年くらい前にオーラルがアルバムを出すということで、ミュージックビデオを撮りたいとレーベルからご依頼いただいて、『リコリス』というミュージックビデオを撮ったのが始まりですね。当時はライブを見据えてはなかったのですが、後に武道館でライブをするタイミングで映像演出のお声掛けをいただきました。

 

山中:

クリエイターとしての発想力はもちろんですが、話しやすさも大きなポイントでした。オーラルはMVなどの映像を作っていく過程で結構口を出してしまうんですが、そこで言う通りに作業してもらうよりも、大河さんは僕らの意見を踏まえた上で「こういうのどう?」ってブラッシュアップした提案をくれるんです。

そうやって自分の頭の中になかったものが生まれた瞬間は、作品を作っていて一番気持ちいいんですよね。

そういうブラッシュアップの作業は他のアーティストさんとのお仕事でもされているんですか?

大河:

そうですね。基本的に楽曲やアーティストの考えをどうアウトプットするかは我々の仕事だと思うので、コミュニケーションをとることはすごく大事にしています。

大河さんが映像制作のときに心がけていることは何でしょうか?

大河:

邪念をいかに排除するかということですね。今これが流行っているからこういう表現をしましょうというような価値観だと、そこにその人らしさが感じられないんですよ。僕も10年くらいキャリアがある中で、表現の幅を広げるために、CGやVisual Effectsなどの技術を磨いてきた時期が結構長かったんですが、その技術をどういう価値観を持って提示するかっていう部分が今すごく大事だと思います。

これから一緒にやろうとしてるプロジェクトを教えてください。

山中:

『ボイステラス6』(http://boisterous6.jp/)という新しいプロジェクトを始めいて、そこでも大河さんに映像監修を依頼しました。これからもオーラルのライブで使う映像やミュージックビデオなど一緒に面白いものを作っていこうと思います。

ではお二人のように活躍する映像ディレクターやミュージシャンを目指してる方に向けて、アドバイスをお願いします。

山中:

正直、僕らよりうまくていい音楽を作るバンドはたくさんいると思っていて、ただ芸術はその人が見て感じるものだから、いいも悪いもあまりない。

だから 僕はその人の人間性や、どんな人生を歩んできたかということが大事だと思っていて、そのバックボーンでバンドをやるなら、誰かのマネをするんじゃなく、自己分析をして自分の良さを知ってそれを伸ばしていけば、うまくいくんじゃないかと思います。

大河:

テクニックや知識は頑張れば絶対に身に付きますが、それよりもなぜこれをやりたいのかという自分の本質やテーマを大事にしてほしいです。やりたいことの手段として表現があるのであって、例えば「こういう表現をしたいからテーマはこうしましょう」というような手段やテクニックありきの考え方ではなく、「何を、誰に、なぜ伝えるのか」という根底部分をもっと大事にしてほしいです。

インターネットがあるおかげで音楽や映像が簡単に手に取れるようになりました。ただ情報がちょっと多すぎますよね。その中で選ぶ指針は「自分が何者になりたいか、どうありたいか」だと思うんです。なのでまずはそこを大事にしてもらいたいですね。

取材日:2021年5月18日 ライター坂本 彩 スチール撮影:橋本 直貴

プロフィール
映像ディレクター
大河臣
1986年生、東京都出身。「関わるヒト、すべてが幸せに」をモットーに2011年より映像ディレクターとして活動。 VFXや光学の知見を活かした画力溢れる空間演出を得意とし、広告やMV、展示作品など、演出領域は多岐にわたる。『SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2021』では、自身がライブ演出を担当したTHE ORAL CIGARETTESが「BEST CONCEPTUAL LIVE」を受賞した。

THE ORAL CIGARETTES
山中拓也(Vo/Gt)
2010年奈良にて結成。人間の闇の部分に目を背けずに音と言葉を巧みに操る唯一無二のロックバンド。メンバーのキャラクターが映えるライブパフォーマンスを武器に全国の野外フェスに軒並み出演。リリースした作品は常に記録を更新し、2020月4月リリース5th AL「SUCK MY WORLD」は前作に続きオリコン初登場1位を獲得。2021年6月30日には新曲「Red Criminal」をデジタルリリースした。

2021/6/30 Digital Release THE ORAL CIGARETTES「Red Criminal」→Play

また山中氏は2021/3/2にフォトエッセイ「他がままに生かされて」(KADOKAWA)を上梓。
オフィシャルWebサイト:https://theoralcigarettes.com/

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