僕がここのコラムで言いたかったこと

Vol.022
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

ここでコラムで考え方を述べられるのも、今回を含めてあと2回です。

そもそも、このコラムは誰に向けて書いてきたのか?
それは、ものすごくはっきりしています。
CMの制作会社に入った若い制作部に向けて書いているイメージでした。
プロダクションマネージャーたちへ。

まず、CMを作る仕事はきついけど面白いんだよ、と言いたかったのです。
コラムを書き始めた頃はちょうど現役のプロデューサーと管理職も兼務する役割を始めた頃でした。
自分の部を持って部員がたくさんいました。その頃、すぐやめちゃう若者が現れはじめて問題になった頃です。

掲載してくれるこのフェローズという会社もクリエイティブな会社で働けるように教育をした人材を派遣する、
という種類の人材派遣会社であるため、そういうテーマはいいですね、
と初代の厳しい編集者と合意したとこからはじまりました。

加えて自分の仕事についてちゃんと魅力を発信していかないと、
人が集まらなくなったら嫌だなと思っていたこともあります。

自分が本来就きたいと思っていた職業に、いろんな挫折があって就けなかったこと。
当時、景気が良かったので、運良くなんとなく面白そうな仕事に、文字通り潜り込めたこと。
そうやって、最初からどこにも所属もしないで何者かになれる特別な才能もなく、
親も安心させなきゃいけないし、バブルだし。

で、仕事って、色々言っても最初は受け入れてくれた場所でしか働けないんだし、
なり行きで決まっていくかもしれないんだけれど、ダラダラと銭だけもらって過ごすのか?
経験を積みながら次のチャンスを狙って行くのか?
その場所で何かを見つけて没頭するか?

コラムを書き始めた頃は、これからどうするのか、実は自分でもわからないまま
直接対峙する部下のためと、自分の考えを整理するために書くことを使っていたかもしれません。

僕はこのCM制作の仕事について、本当に良かったと思っています。
会社員としての仕事人生はもうすぐ終わりを迎える年齢になってきましたが、本当に恵まれた会社員でした。
業務で世界中に行けたし、なかなか会えないような人と出会って仲良くなったりした。
ここのコラムで伝えたかったことは、突き詰めていくとそういうことです。

僕は会社員としては態度が悪く、上には噛みつき、下を怒鳴りつけ、言いたいことを言って、
自分のペースに人を巻き込み、好きなことをした。だから所属している会社内でかなりの軋轢も生みました。
売り上げを上げたら、売上がってない先輩から陰口をたたかれるし、
賞を取ったら賞とは無縁の先輩に嫌味を言われるような感じでした。
あの野郎、いい気になりやがって、と常に言われてきたような気分です。

自分の仕事だから、売り上げも賞も自分のこととしてどうやったら手に入るのか真剣に考えて
仕事をしているつもりだったんですが、身近な他人への配慮が少し足りませんでした。
そんな余裕がなかったのかもです。必死だったんです。

僕が会社で手塩にかけて育てた後輩たちもいます。
そういう子は、ある程度自分でできるようになると相談に来ます。
本当はもっとやりたいことがあります、と。優秀な奴ほど独立志向です。

そういう時はいろんな話をするんだけど、一つ本質として言えることは、
会社という組織は、優秀な人間だからといって必ず登用してくれる場所ではないんだよ。
その時々の偉い立場の人が、扱いやすい人間を登用する、というのが組織の常識だよな。
俺が社長でもそうするぜ。しないけど。誰か優秀な奴が出てきたら取って代わられちゃうじゃん。
どこの組織に所属してもそうなる。世の常です。
だから健全なわけがないんだよ。
椅子取りゲームはしたい奴がやればいいのさ。
そのことを解っていて、自分のやりたいことを見つけ出して、その会社にいることが
うまく自分に作用するようなことを考えるか、会社の流れに任せて扱いやすい人間に徹して
出世を狙うか、辞めるか、の選択しかないんだよ、と。

俺はこんなに仕事できるのに全然評価されねえって嘆いても、扱いにくそうなやつには
本来、社会ってのは不公平なんだから仕方ないんだよ。
出る杭は打たれるんだから、そんなことに腹を立てないで、
出る杭でいられることをありがたいと思ってた方がいいぞ。
それが我慢できなかったら辞めるんだな、と。

若いプロデューサーだった頃、僕の仕事をしてくれた奴らは、ちゃんとみんな育って巣立っていきました。
演出家になって売れて有名になったやつもいる。僕より金持ちになったやつもいます。
いずれもいいCMを作っています。
それぞれ勝ち得た立場で一流になってくれているので、それも僕の心の財産です。

そいつらとたまにスタジオとかでバッタリ会ったりすると、
「まだ現役でやってるんですってね?このご時世、よく捕まらないでいられましたね。」
って言われます。
うるせえよ、常に寸止めだよ、と。
怒った後にニコッと笑うことにしてるよ、最近は。

そういうふうに自分で考えたことや尊敬する上司や部下との間に生まれたいいことを、
このコラムを読んでいる若い制作部に伝えたい、というのが本音で書いてきました。
僕のコラムを読んで、まあいいか、やってみるか、と制作部で辛いと思ってる奴が元気を出してくれたらいいなあ、と思っていました。嫌なことがたくさんあるけど、「いいこと」もあるからね。
そのためにはちゃんとしてた方がいいよ。そしたらチャンスが回ってくるからよ。

「いいこと」っていうのは、僕の経験から行くと、
「新しい場所にいき、新しい他者に出会う」ということです。この仕事にはその可能性がわんさかあるんだよ。
世の中見回しても、なかなかそんな仕事はないんだよ。
僕はCMという仕事に、いまだに期待している。
新しい他者に出会う。それがなければ新しい人生が開けることはない。

そして、「ちゃんとする」ということは、自分の失敗から見出したことで、
「人として感じがいいこと」です。
ちゃんと挨拶をしてお礼を言いニコニコして、悪いことしたらごめんなさい。
保育園で娘が言われていることと同じ。いただきます、と言って飯を食い、
食い終わったら、おごちそうさまでした、と言う。ブスッとするな。楽しそうにやろう。

次に「存在感があること」
想像力と決断力があって、やらなければいけないことはすぐやる。
人を羨ましがらず、ひがまず、陰口を叩かず、愚痴らず、自分がどんな奴か客観視して、
いつもいて欲しいとこにいる人。
大きい声で指示して、自分で走っていき、隅に隠れない。仕事が早い。

次に「伝える力を自分で育てること。」自分のわかっていることもわからないことも。
自分じゃない人が同じことを考えているなんて事はまれなので、
自分の伝えたいことはちゃんと伝わるように人に話す。
相手が何を理解できてないかを考えて説明できる表現力を持つ、ということ。

最後に「時間を守ること。」
志村けんは自分の中に、遅刻だけは自分も他人も許さない、という決まりを持っていたそうです。
遅刻したままその日が始まると、ごめんなさい、と言って入っていかなきゃいけない。
そんな気分の悪いことはねえよな、とおっしゃっていました。
時間は守ろうね。

これらは新しい他者に出会った時にそれをチャンスにかえるための準備だと思っていることでもあります。
それだけやってりゃ何者かにはなれるだろう。結構大変だけど。
それができない奴がいっぱいいる。実は大人に多い。

幸せになりたかったら愚痴愚痴言ってねえでちゃんとやれ!そしたら楽しくなるから。
というのがこのコラムで僕が言いたかったことだと思っています。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
自分の関わった仕事の案件で、矢面に立つのは当たり前と、体と気持ちを突っ張って仕事をしていたら、ついたあだ名は「番長」。 52歳で初めて子どもを授かったのでいまや「子連れ番長」。子連れは、今までとは質の違う、考えた事も無かった様な出来事が連発するような日々になったけれど、守りに入らず、世の中の不条理に対する怒りを忘れず、諦めず、悪者だけど卑怯者にはならない様に生きていたいと思っております。

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