真夏の白昼夢!? @South London Gallery 前編

Vol.170
アーティスト
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

環境庁(Environment Agency)はイングランドの半数以上の地域が、干ばつ状態にあると発表。雨の多い街で知られるロンドンですが、記録的な熱波に加えて、今年7月の雨量は通常のわずか1〜7%ほど。7月末現在、ロンドナーを含む2,000万人以上が、ホースを使った散水などを禁止する水道水の使用制限の対象となっています。この日も強い日差しの中、向かったのはこのコラムでも幾度か訪れているサウスロンドンギャラリー。本館と分館の展示を2回に分けてお伝えします。それではまず本館へ。

South London Gallery 本館

 

Duplo(Double) 2025 Paulo Nimer Pjota

 

Duplo(Double) 2025 Paulo Nimer Pjota

今回紹介するのはブラジル人作家のPaulo Nimer Pjota。まず圧倒されるのは繊細なキャンバスの絵画に加え、そこからさらに時空が広がるように壁いっぱいに描かれたドローイング。それらはまるで神話上の人物や動物、空想上の獣(モンスター)たちが織りなす魔法のような世界。

 

O ouro da noite (The Gold of the Night) 2025 Paulo Nimer Pjota

 

O ouro da noite (The Gold of the Night) 2025 (詳細) Paulo Nimer Pjota

 

こちらのバッタやチョウを見てわかるように油彩、テンペラ、アクリル絵具を駆使しながら、詳細も大変細かく描かれていることがわかります。13歳の時にはすでにグラフィティアーティストとして路上現場で描いていたというPjota。周りは皆20代の若者たち。美術学校に進学後も年上の彼らと交流を重ねていたといいます。

 

A criaçào do ouro (The Gold of the Night) 2025 Paulo Nimer Pjota

 

A criaçào do ouro (The Gold of the Night) 2025 Paulo Nimer Pjota

 

El Dorado (El Dorado) 2025 Paulo Nimer Pjota

­­見ていくと煌びやかで儚いチョウや花、圧倒的な自然、仮面や壺などの考古学・歴史学的な遺物(アーティファクト)がモチーフとして繰り返し現れているのに気が付きます。

 

Encantados 2026, Paulo Nimer Pjota

 

月、星、太陽、そして、ヒップホップのプロデューサーでもあるPjotaにとって音楽も欠かせない要素の1つ。「屋根の上のヴァイオリン弾き」ならぬ、こちらは積み上げられたスピーカーの上で、ヴァイオリンを弾きながら足でレコードをスクラッチするDJモンスター!

Encantados 2026, Paulo Nimer Pjota

 

中世ヨーロッパのタペストリーに描かれているような多頭のドラゴン。こちらの三つ頭のドラゴンはそれぞれトランペット、ホルン、サックスを吹きながらドラムを叩いています。

 

Banquete com Teia (Banquet with spider web), 2025

 

血のように赤い地で無邪気にクモの糸であやとりをするテナガザルたち。その頭上には不気味なガ。その奥のバラの花々のもとには小さな壺を抱えた真剣な眼差しのヒヒがいます。

グラフィティアーティスト当時からPjotaは、ストリートアートを縛るルールを「抑圧的」なものと捉え、それに抗う美的な破壊者だったといいます。文化的ヒエラルキーを解体することは、それ以来、彼の制作活動の核心であり続けています。幼少期の記憶や自身の夢、そして美術史に関する膨大な資料からのイメージにインスピレーションを得た要素が、彼の独特な構図の中で共存しています。今回の展示において、Pjotaはギャラリーの壁面に直接描いた巨大な壁画を背景に、キャンバス作品の新作群を発表しています。Pjotaは通常は対立するとされる二つのアプローチを融合させ、視覚的に調和のとれた全体像を作り上げています。

展示タイトルの「Encantados(エンカンタードス)」には、ポルトガル語で「魅了された」「魔法にかかった」といった意味があります。そして、この言葉には二重の意味が込められています。つまり、喜びや魅惑に満ちた状態を指す一方で、呪文をかけられたり、魔術で操られたりしている状態をも意味します。肯定的とも否定的ともとれる解釈の可能性、そしてその狭間に生じる緊張感が、展覧会全体を貫いています。すべての作品にはファンタジーや魔法の気配が漂っていますが、あからさまに喜びに満ちた様子の作品がある一方で、どこか終末的な世界の一場面を思わせるような作品も存在します。彼の作品は、その幻想的な光景をどう解釈するかを鑑賞者自身に委ねているようです。

 

 

プロフィール
アーティスト
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。
ウェブサイト:http://www.miyukikasahara.com/

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