フードテックはここまで来た!牛乳を使わず、CO₂から生まれたバター
昨年10月に発表された、TIME誌のThe Best Inventions of 2025リストの中で、面白いフードテックを見つけました。その名も「牛乳を使わず、CO₂から生まれたバター」。
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以前に、植物由来の代替肉「プラントベースミート」やAIロボットを採用し屋内農場で栽培されたアメリカ産日本品種のいちごについて書いたことがありましたが、アメリカのフードテックはここまで来たか!って感じですよね。
…と言っても、「CO₂から生まれたバター」ってどういうことなのでしょう??
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牛乳ではなく、なんとCO₂からバターを作る、そんな驚きの技術を開発したのが、カリフォルニア州サンノゼにあるフードテックスタートアップのSavor(セイバー)です。二酸化炭素を原料に、本物そっくりのバターを生み出すことに成功しました。
これは従来の乳製品やマーガリンに使われる植物油を原料に頼らず、農業や畜産の工程で出る温室効果ガスの排出を大幅に抑えることを目指した次世代の食品技術です。
仕組みとしてはこうです。
- 二酸化炭素(CO₂)を集める
空気や排ガスなどから炭素源としてCO₂を回収。ここでCO₂は「悪者」ではなく、炭素の材料として扱われます。
- 水を分解して水素をつくる
水(H₂O)を電気分解し、水素(H₂)と酸素(O₂)を取り出します。水素は、脂肪のエネルギー密度を作るために不可欠です。
- CO₂と水素を反応させて脂肪酸を合成
高温・高圧・触媒を使い、CO₂の炭素と水素を結合させて、脂肪酸を分子レベルで組み立てます。これは、石油精製や化学工業で使われる技術を「食べられる分子」にしているイメージです。
- 脂肪酸を組み合わせて中性脂肪に
グリセロール(脂肪酸)と組み合わせて、油脂として機能する脂肪分子、トリグリセリド(中性脂肪)にします。ここでできる分子構造は、牛乳バターに含まれる脂肪と同じ種類です。出自が違うだけで、分子そのものは同等です。
- バターらしく仕上げる
最後に、水、乳化剤、天然香料、色素を少量加え、溶け方・塗りやすさ・色・香りを調整します。ここで初めて「バターの見た目と使い勝手」になります。
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難しい用語が出てきてよくわからないことになっていますが、簡単に言うと、化学の力でバターを作るということ。この工程でもわかる通り、Savorのバターは牛乳不使用、植物油不使用、動物不使用、発酵させていない、分子を設計して作られる脂肪から生まれたバターということになります。
バターが作られる仕組みを理解した上で気になるのは、風味や食感、本当に美味しいかどうか。
Savor社内や関係者向けに、数十人規模の非公式な味見が行われており、そのなかで「伝統的なバターにかなり近い」「まるで本物のバターと感じられる」との反応が出ています。
また、TIMEのウェブ記事では、Savorのバターがミシュランの星を獲得したレストランで通常のバターとして提供され、その「味や機能」が認められていると伝えています。
SavorのCTOによれば、試作品はバターと同じように味・風味・口当たりを目指して設計されているとのことですが、これらの評価は一般消費者への調査ではなく限定的なサンプルで、正式な消費者テストの結果や広範囲なレビューはまだ十分に出揃っていない状態です。
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そして、安全面も気になるところ。
Savorは「Self-affirmed GRAS」という認定を得ており、「自社で安全性評価を行い、食品としての販売が認められる状態」になっています。FDA(米国食品医薬品局)への届出や協議も行っており、現在、承認を進めている段階です。
Savorのバターに含まれる主成分は、トリグリセリド(中性脂肪)です。これは牛乳、バター、オリーブオイル、ラードなどと同じ種類の分子です。つまり、分子構造そのものは人類が長年食べてきた脂肪であり、新しいのは「作り方」だけという位置づけとなります。ただし、原料がCO₂由来で、製造プロセスが化学合成、食品としての前例がないため、各国の食品安全当局による審査は必須です。ですので、現段階でのレストランへの提供は、限定的・実験的扱いという状況だと思います。
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ここで、Savor設立の経緯や創業者についても触れておきましょう。
Savorは、2022年にカリフォルニア州サンノゼでスタートしました。キャサリン・アレクサンダー(CEO)、イアン・マッケイ、ヘンリク・ベネットセンの3人によって創業。「持続可能な食料・脂肪生産の方法を見つけること」「温室効果ガス排出を減らすこと」「気候変動への解決策として脂肪(バター)生産のあり方を変えること」が創業時の動機でありミッションとして挙げられています。
Savorは設立からこれまでに約3,300万ドル以上の資金を調達しており、主な出資者にはビル・ゲイツの気候対策ファンド「Breakthrough Energy Ventures(BEV)」他、いくつかのベンチャーキャピタルが含まれています。これらの資金は研究開発、パイロット生産設備(実際の製造条件で技術・プロセスを試すための試験設備)の構築、初期市場導入支援に使われています。
2025年3月、Savorは世界初の「動物・植物原料なしのCO₂由来バター」を公式に発売。現在では、カリフォルニア州にあるミシュランの星を獲得したSingleThread、ONE65、Atelier Crennといったレストランやベーカリーで料理に使われています。
その他にもSavorは、消費財メーカー(洗剤、化粧品、食品、飲料メーカーなど)との共同開発交渉も進めています。Savorの技術はバター以外の脂肪・油脂製品にも応用可能とされ、企業側のニーズに合わせたカスタム脂肪の製造提案も進めているとのこと。
将来の展望として、2027年頃までに大規模な商用生産施設を設計・建設する計画を進めており、一般消費者向けの製品も広く流通させたいとして、バターだけでなく、パーム油代替、ココアバター代替など他の脂肪・油脂カテゴリーへの展開も視野に入れています。
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また、今年のブラックフライデー期間中には、サンフランシスコのフレンチレストランONE65とSavorがコラボレーションしたボンボンが限定販売されました。用意された商品はすべて完売し、注目の高さがうかがえます。
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ビル・ゲイツの気候ファンドからの支援や、たくさんのメディアに取り上げられていることもあり、注目度が高いSavorのバター。しかしネット上では、化学由来の食品への心理的な抵抗や、自然由来バターに比べてどう感じるかの好みの差など、否定的な意見や懐疑的な声も見られます。
個人的には、Savorの驚くべきテクノロジーや化学の力はすごいという賞賛はありますし、試食はしてみたいという気持ちはありますが、「CO₂由来のバター」と聞いても食欲はそそられないというのが正直なところ。「食べ物は自然のものが一番」「これは◯◯産だから美味しい」などと聞かされて育ったということもあるでしょう。
しかし過去にも、当初世間からは懐疑的だったマーガリンや電子レンジの事例もありますし、今後受け入れられる可能性は十分にあるでしょう。何より「気候変動への解決策として、持続可能な食料生産の方法」があるというのは、人類にとっても地球にとっても価値のあることだと思います。2027年頃までに一般への流通が始まる予定ということですが、その時にでも試してみたいと思います。
(参考)
The Best Inventions of 2025 – TIME
This startup makes rich, creamy butter out of CO2 – Fast Company
Savor unveils first-of-its-kind ‘butter’ made without cows, plants, or microbes – AgFunder News Logo

foxylilly.com
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