映像2026.09.30

映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第63回『男ともだち』

Vol.63
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美氏
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『男ともだち』

▶答えより余韻を持ち帰りたい人におすすめ

恋愛だけでは説明できない男女の関係を描いた作品度100

『男ともだち』って、いったい何なんだろう。
この映画は、その答えを見つけるための映画なのだろうか。
映画を観終わった今も、私はまだ、その答えをつかめていない。
そしてそれで良いのかもしれないと今は思っている。

神名(松岡茉優)は、京都で暮らすイラストレーター。仕事は順調に見えるものの、自分が本当に描きたいものを見失いかけている。そんな彼女のもとに、大学時代の先輩・ハセオ(成田凌)から、7年ぶりに電話がかかってくる。

「女でも紹介してくれや。……まあ、最悪お前でもいいけどな」

そんな軽口から始まる二人の再会が、とてもいい。
7年ぶりなのに、7年ぶりとは思えない。近すぎない。けれど、遠くもない。二人でいるときだけ、時間の流れ方が少し変わるような感じがする。

私は、二人が再会して話している姿を見ながら、「この距離感、なんだろう。知っている」と思った。
三島有紀子監督は、そんな二人の関係を、説明しすぎない。
会話をしながらマフラーを巻いてあげたり、歩く位置が入れ替わったり、上ったり下りたり、時には後ろ向きに歩いたり。
ちょっとした身体の動きや立ち位置までが、二人の関係そのものに見えてくる。絶妙だ。
知っている。遠すぎない。でも、近すぎない。

私にも、かつてこんな距離感の男ともだちがいた。

長い時間をかけて二人を映すことで、台詞にならないものまでこちらにわたしてくれるような描写だ。
一緒に歩いているだけなのに、まるでデートのようにも見える。
けれど、デートだと言い切ってしまうと、何かが違う。
だから観ているこちらも、「これは友情なのか」「恋愛なのか」と考え続けることになる。

神名が「私はええ女になった」と言えば、ハセオは「色気はあるなぁ、昔から」と返す。

お互いを異性としてまったく見ていないわけではない。
でも、それだけで説明できる関係でもない。

神名は、揺らいでいる。
でも、芯がないわけではない。その揺らぎを抱えたまま生きている女性として、とてもリアルだった。
だからこそ、揺らぎながらも芯の通った女性としての松岡茉優さんのキャスティングが効いているのだと思う。

そして成田凌さんのハセオには、「自分の人生にも一度くらい、こういう男ともだちがいた気がする」と思わせる説得力がある。
それは、何か特別なことをしてくれるからではない。
むしろ、神名を理解しようとして、彼女の人生に答えを出してあげようとするわけではない。ただ、彼女のことを覚えている。見ている。そして、二人の間にあるものを、無理に名前づけしない。

そこが、この映画の大きな魅力だと思った。

人は、わからない関係を、わかりやすい名前に置き換えたくなる。
「恋人」「友達」「家族」「特別な人」。
名前がつけば安心できるし、誰かに説明することもできる。

でも、名前をつけた瞬間に、そこからこぼれてしまうものもある。

映画の中でも、二人の関係を周囲の人たちがそれぞれの言葉で捉えようとする。「彼氏と愛人と男ともだちか。なんか贅沢」という言葉に対して、神名が「ハセオはそういう関係じゃないんだよ」と返す場面も印象的だった。

じゃあ、どういう関係なのか。
その答えは、最後まで明確にはならない。

でも私は、そこを「曖昧だからいい」とだけ言ってしまうのも違う気がした。

むしろこの映画は、「わからないものを、わからないまま、胸のうちに置いておけるか」ということを描いているのではないだろうか。

『男ともだち』は、関係につけた名前だけでは説明できない感情や、二人が過ごした時間を描いている。
だから「男女の友情は成立するのか」という問いだけでは、この映画は少しもったいない。

むしろ私の心に残ったのは「人は誰かと出会うことで、自分自身に戻れることがある」ということだった。

ハセオは神名を救うヒーローではない。
神名もまた、ハセオに救ってもらうだけの存在ではない。 

二人が一緒に過ごした時間によって、神名は自分が何を描きたいのか、自分の中にあった感覚をもう一度見つめ直していく。
誰かに「あなたはこういう人だ」と決めてもらうことではなく、誰かに見つめてもらったことで、自分自身の輪郭を取り戻していく。
それは、恋愛よりももっと広い意味での「人と人との関係」の話なのかもしれない。

ラストシーンは特に胸に残る。
ネタバレになるのでもちろん伏せるが、ただ、最後に訪れる小さな変化によって、それまで見てきた神名とハセオの時間が、少し違って見えてくる。

冒頭から何気なく置かれていたものが、ラストでもう一度響いてくる。

その瞬間、私は「ハセオと神名は結局どういう関係だったんだろう」という問いから、少し別の問いへと導かれた。

「この人と出会ったことで、自分の中に何が残ったんだろう」と。

一緒にいることだけが、人と人とのつながりではない。
名前をつけることだけが、関係を確かめる方法でもない。
誰かと過ごした時間が、自分の中に残り続けること。
その人が見ていたものを、自分も見られるようになること。
そんな関係も、きっとある。

私はまだ、「男ともだち」の正体をつかめていない。

でも、映画を観終わったあとも、そのわからなさを、このわからなさの先にある心地よい余韻ごと抱えていたいと思った。

この先もずっと。

『男ともだち』
2026年11月6日(金)新宿ピカデリー他にて全国ロードショー

松岡茉優 成田 凌
井上祐貴 中島 歩 咲妃みゆ 三浦貴大
余 貴美子 池畑慎之介

原作:千早 茜『男ともだち』(文春文庫)
監督:三島有紀子
脚本:澤井香織 音楽:安川午朗
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ 制作プロダクション:カズモ
©2026『男ともだち』製作委員会

公式HP:https://happinet-phantom.com/otokotomodachi/
X/Instagram/TikTok

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美氏
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。
X(旧Twitter):@sayumisaaaan /Instagram:@higashisayumi

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