デザインは箱で勝負!月餅パッケージに見るシンガポールのデザイン競争
Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。
いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。
9月のシンガポールは、中秋節(今年は9月25日)を前にして街が一気に華やぎます。モールの一等地には各ホテルの特設ブースが並び、豪華な箱に入った月餅が山と積まれる……。日本ではあまり馴染みのない光景かもしれませんが、こちらでは秋の一大商戦です。
そして毎年この時期に僕が楽しみにしているのは…正直に言うと、月餅そのものよりも「箱」なんです。今回はこの「箱」にまつわるパッケージ競争を、デザインという切り口で掘り下げてみます。
■ 食べ終わった後も使える包装
シンガポールの月餅ギフトは、いまや完全に「パッケージ勝負」の様相です。しかも近年は「食べ終わったら捨てる箱」ではなく、「食べた後もずっと使える箱」への進化が著しい。宝石箱のように仕立てられたキープケース、小物入れに転用できる引き出し型など、”keepsake(記念に取っておくもの)”としての設計思想が明確になっています。
たとえば、フォーシーズンズ・ホテル・シンガポールが今年採用したのは、鳥や花を刺繍したトートバッグ。深い緑の生地に淡い色の刺繍を配し、茶色の持ち手を組み合わせています。月餅の持ち帰り用というだけでなく、普段の外出にも使うことを想定した包装です。
このトート型の包装は、2025年に初めて登場。昨年は完売し、今年も継続して採用されています。フォレストグリーンに加え、新たにクリーム色のバッグも用意されており、毎年まったく違う形に変えるのではなく、好評だった形式を残しながら、選択肢を増やしているのです。
贈る側としても、相手の好みに合うバッグを選べるのは魅力でしょう。受け取った人が使い続けてくれれば、月餅を食べ終わってからも贈り物として役立ちます。ホテルにとっても、ロゴ入りのバッグを日常で使ってもらうことは、名前を繰り返し目にしてもらう機会になります。
■ホテルの建築を箱の形や装飾に取り入れる
ホテルの建物を、パッケージのデザインに取り入れた例もあります。
フェアモント・シンガポールは、ホテルの40周年を記念した「Heritage Keepsake Box」を用意しました。ボルドー色の箱に金色の花模様をあしらい、正面には金色の留め金を配置。この留め金は、ホテルの象徴的な建築から着想したものだといいます。
フレイザーズ・ハウスでは、入口のアーチを箱の正面に取り入れています。上部がアーチ状になった格子模様があり、中央には金色の取っ手が2本。正面を左右に開く構造で、月餅を収める部分が内側に設けられています。えんじ色とクリーム色の箱は表面をレザー調に仕上げており、食べ終わった後は小物などの収納に使えます。
以前のコラムではシンガポールの建築について書きましたが、今回はその建物の特徴が、ギフトの装飾や開閉部分にも使われています。ホテル名を印刷するだけでなく、建物の形からも、どこのホテルの商品なのかを伝えようとするデザインです。
■アーティストの作品を採用し、商品づくりでも協業する
そして、僕が今年いちばん心を動かされたのが、ラッフルズ・ホテルの取り組みです。
ラッフルズ・ホテル・シンガポールの今年の箱には、白いホテルの建物と、その手前に咲くピンク色の花々が描かれています。水彩画を手がけたのは、シンガポールのアーティスト、Nicole Koo氏。ホテルの正面を大きく描きながら、牡丹の花や周囲の緑を組み合わせた構図になっています。
この企画は、障がいのある人たちが芸術を学び、作品を発表し、仕事につなげるための機会を支援する非営利団体「ART:DIS」との協業によるものです。1000セット限定の「Premium Baked Mooncake Box」には、ART:DISの研修生や職人がホテルのスタッフと一緒に制作した、手作りの陶製皿が2枚入っています。絵画と陶芸という異なる分野の作り手が、商品の意匠や付属品の制作に参加しているのです。
月餅を購入したり贈られたりすることが、普段は知らなかった作家の作品に接するきっかけにもなります。アーティストの活動を紹介するだけでなく、実際の商品づくりを一緒に進めている点が、この取り組みの特徴だと思います。
■ 箱を開いて、絵やなぞなぞを楽しむ
ヒルトン・シンガポール・オーチャードの「The Orchard Earth Box」は、開いたときの見せ方に工夫があります。地元の菓子店Old Seng Choongと共同開発した月餅を、白とパステルグリーンのパッケージに収めているんです。
外側はホテルのロゴや植物の模様を配したデザインですが、蛇腹状に広げると、内側にはウサギのイラストや、灯籠の形をした枠の中に書かれた文字が現れます。英語のなぞなぞも印刷されており、月へ上った女性の名を尋ねる問題では、嫦娥(じょうが)が答えになっています。
月餅を取り出して終わりではなく、広げた箱を囲んで問題を読んだり、答えを考えたりできる構成です。家族でも楽しめる設計であり、外から見た華やかさに加え、開いて初めてわかる内容を用意することで、包装そのものを楽しむ時間が生まれるのです。
■最後に
月餅のパッケージを見比べると、デザインの仕事が絵柄を決めるだけではないことがわかります。月餅をどこに収めるか、どの部分から開けるか、持ち運びやすくするにはどうするか。食べ終わった後にも使ってもらうなら、その用途に合った形や素材を考える必要もあります。
中身の品質が大切なのは変わりません。そのうえで、バッグとして使えたり、ホテルの建築にちなんだ装飾があったり、作家の作品を楽しめたりすることが、贈り物を選ぶ際の理由になります。
私たちフェローズは、パッケージデザイナーやイラストレーターをはじめ、こうした商品づくりに関わるクリエイターの活動を支援しています。月餅の箱を見る機会があれば、絵柄だけでなく、開け方や中の仕切りにも注目してみてください。贈るとき、開けるとき、使い続けるときのそれぞれに、どのような工夫があるのかを確かめられると思います。
引き続き当コラムをよろしくお願いいたします。
■Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.の活動について
私たちFellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走の支援を行っています。
ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。
もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。
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※記事参照リンク
・Mid-Autumn 2026 Collection|Four Seasons Hotel Singapore:https://press.fourseasons.com/singapore/hotel-news/2026/mooncakes/
・Mooncake Festival 2026|Raffles Hotel Singapore:https://www.rafflescelebrations.com.sg/

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