シンガポール発ブランドを深堀り!国境を超えるブランドには、“スペシャリスト”がいる

Vol.55
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. 代表
Junya Oishi
大石 隼矢

 Fellows Creative Staff Singapore PTE. LTD.代表の大石隼矢(おおいしじゅんや)です。いつもコラムをお読みいただきありがとうございます。  

突然ですが、2025年7月にBloombergにて掲載されたこちらの記事をご存じでしょうか?  

シンガポールが高級品の価格で世界一」 (出典:Bloomberg, 2025年7月14日)  

記事によれば、ラグジュアリーバッグや時計、ジュエリーといった高級品の販売価格が、シンガポールでは世界のどの都市よりも高く設定されているとのこと。富裕層の増加、輸入税の影響、そしてブランドのローカル戦略が複合的に影響していると分析されています。  

しかし興味深いのは、この“高価格”を正当化するように、シンガポール国内で育ったブランドたちもまた、世界市場で着実に存在感を強めているという点です。私が日本へ帰国する際に東京だけでなく地方都市でもシンガポールのブランドを目にするようになりました。  

かつては「輸入ラグジュアリーを消費するだけの都市」と見られていたこの小国が、今や“ブランドを生み出す場所”としても認識され始めているのではないでしょうか。  

この背景を探ってみると、クリエイティブ、マーケティング、戦略といった各分野でのスペシャリストたちの存在がありました。今回は、そんなシンガポール発ブランドがどのように“クリエイティブな人材”の力を借りて世界へと羽ばたいているのか、そしてその姿勢が日本企業にとってどんな示唆を与えてくれるのかを紐解いてみたいと思います。  

シンガポール発ブランドとクリエイティブなスペシャリストたち 

先述の通り、シンガポール発のブランドがグローバル展開を加速させており、プロダクトそのものの魅力に加え、世界観や哲学を重視したブランド戦略が支持を広げているのが特徴です。下記ではファッション、飲料、紅茶といった異なる領域から、CHARLES & KEITH、Beyond The Vines、OATSIDE、TWGという4つの注目ブランドを取り上げ、それぞれがどのようにクリエイティブを武器に成長を遂げているのかを見ていきます。  

CHARLES & KEITH:アートで広げるブランドの奥行き 

ファストファッションとハイエンドの中間に位置づけられるCHARLES & KEITHは、単なる量産ブランドの枠を超え、クリエイティブ体制の強化によってグローバルなブランド力を高めています。社内にはアート・ディレクターやクリエイティブ・コンテンツ・マネージャーといった専門職が配置され、SNS展開やEC上での世界観構築にも抜かりがありません。  

また、シンガポールの総合芸術大学であるLASALLE College of the Artsや、世界ファッション大学ランキングTOP10にも名を連ねたIstituto Marangoniといった教育機関出身の若手デザイナーたちをルックブック(※)やコレクションに起用し、地元人材の成長機会をブランドの進化と結びつけている点も特徴的です。さらに、現代アーティストRobert Zhao Renhui氏とのコラボレーションのように、ビジュアル領域においても単なる装飾にとどまらない深みを生み出しています。  

※ルックブック:主にアパレル業界で使用されている業界用語。メーカーが新商品のリリースに合わせてシーズンごとに用意している商品カタログを指す  

Beyond The Vines:哲学を体現するクリエイティブ・コレクティブ 

Beyond The Vinesは、単なるブランドというよりも“哲学を持ったデザイン集団”という印象すらあります。2024年には国内に3,800平方フィートを超える「Design House」を展開し、空間デザインから製品ビジュアルに至るまでをすべて社内のスペシャリストが主導。「Bold yet simple(大胆かつシンプル)」という二律背反的なブランド哲学を、美しく矛盾なく具現化しています。  

設立者である夫婦自らがクリエイティブの中核を担っており、その視点は「カスタマーアップ」「エクスペリエンス・ファースト」といった言葉にも表れています。地元デザイナーたちを積極的に巻き込みながら、単に売れる商品をつくるのではなく、共感される世界観を構築しているのです。  

OATSIDE:飲料からカルチャーへ、ローカル発グローバル戦略 

OATSIDEは、オーツミルクという一見ニッチなプロダクトを軸に、アジア圏でカルチャーとプロダクトのハイブリッドな広がりを見せています。ブランドの顔となるマーケティング部門には、BAT(日本)、Heineken、Diageoなどで豊富な経験を持つCindy Lin氏がディレクターとして参画。グローバル企業で培われた知見が、OATSIDEのブランド展開に確かな“骨組み”を与えています。  

さらに、同社は創業初期から東南アジア全域を意識した体制を構築。国ごとに責任者を配置し、それぞれのマーケットに合わせたマーケティング施策を展開することで、地域に根差した信頼と共感を獲得しています。  

TWG:世界が認める“紅茶の都”から生まれたラグジュアリー 

高級紅茶ブランドTWGですが、この企業が通常の紅茶ブランドと一線を画すのは、背後に戦略的な経営と“語れる価値”があるからです。2023年にはシンガポール人のRachel Sim Yu Juan氏がノンエグゼクティブ・ディレクターに就任。地元出身の経営者がブランド運営に関わることで、「シンガポール発であること」の信頼性をより高めています。  

また、創業者のひとりであり、CEOでもあるTaha Bouqdib氏は、長年シンガポールに拠点を構えてブランドのグローバル展開をリードしてきました。彼の存在が、単なる輸出型ビジネスではない「文化を輸出するブランド」としてのTWGの立ち位置を確かなものにしているのです。  

日本ブランドとの比較:スペシャリスト起用の差 

紹介した4つのブランドには共通点があり、どれもモノを作るだけでなく、それをどう伝えるか、その役割を担う“人”の力に重きを置いています。シンガポール発のブランドは、社内外の多様な人材を巻き込みながら、戦略的にブランドの言葉やビジュアルをかたちづくっています。そうした姿勢こそが、国や文化を越えて共感を生む原動力になっているのではないでしょうか。  

また、日本ブランドと比較して考えたとき、シンガポール発ブランドは、創業初期から「誰を巻き込むか」を戦略的に考え、ブランドの存在そのものを人材で体現しています。一方で、日本では技術力が先行しがちで、“ブランディングに強い人”の早期導入がまだ一般的ではありません。日本の誇る熟練した職人、こだわりのある素材や精巧な技術など、表面的に見えない部分が良さであることはすでに世の中に知られています。日本発ブランドがもっと世界で認知を獲得するためには、シンガポールのブランド設計や人材活用の方法が参考になるかもしれません。  

わたしたち視点から見る次の一手 

私たちフェローズが重視しているのは、企業側が「何ができる人を探しているか」だけではなく、「これからどんな価値を社会に届けようとしているのか」という視点です。そして、そのビジョンに共鳴し、かたちにするスキルと感性を持ったクリエイターこそが、本当の意味での”スペシャリスト”だと考えています。  

シンガポールという都市は、文化的にも経済的にも極めて混成的で柔軟な土壌を持っており、特に若手クリエイターたちの活躍の場が豊富です。企業側もまた、欧米や日本とは異なり、“早い段階で外部人材を巻き込む柔軟さ”と“ブランドに他者の視点を受け入れる懐の深さ”を持っていると感じます。  

私たちが支援してきたプロジェクトの中には、「日本ではできなかった意思決定のスピードと、視点の多様性によってブランド戦略が一段引き上げられた」と語る企業もあります。シンガポールで得た成功体験が、日本国内や他国での展開時にも活きるケースが増えてきているのです。  

今後、“人材派遣”という枠を超えて、「創造性の流通」を支えるインフラでありたいと考えています。プロジェクト単位で動くクリエイターたちと、ビジョンを持った企業との間にある距離を少しでも縮めることで、新しい価値がもっと自由に生まれる。その現場を、シンガポールからつくっていきます。  

フェローズシンガポールの活動について  

私たちFELLOWS CREATIVE STAFF SINGAPORE(フェローズシンガポール)は、シンガポールおよび東南アジア各国に拠点を置くクリエイティブ人材やプロフェッショナル人材との広範なネットワークを活かし、企業の皆さまの多様な課題に応える伴走型の支援を行っています。 ブランド戦略に関わるアートディレクター、デザイナー、マーケター、映像・編集・ライティングのスペシャリストはもちろん、現地ならではの文脈を理解したローカル人材との共創体制の構築も可能です。 もしこの記事を通して「外部のクリエイターや現地人材の力を取り入れたい」と思われた方がいれば、ぜひお気軽にご相談ください。 課題の明確化から人材の選定・伴走支援まで、一気通貫で対応いたします。 詳細はプロフィールよりご覧いただけます。皆さまからのご連絡をお待ちしています。  

参考・出典一覧(References) 

Bloomberg:「シンガポールが高級品の価格で世界一」 シンガポールの高級バッグや時計、ジュエリーが世界一高価で販売されているという分析。 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-07-14/SZDA22DWLU6800  

CHARLES & KEITH とアーティスト・Robert Zhaoのコラボ 香港Fashion Walk店舗で「Museum of Everything Else」を展開し、シンガポール人アーティストと協業した事例。 https://www.charleskeith.com/us/press/meet-robert-zhao.html  

CHARLES & KEITH Group Foundation とベネチア・ビエンナーレ支援 Foundationによるシンガポール館(Robert Zhao出展)への支援から、芸術との深い関わりが見て取れます。 https://www.charleskeithgroup.com/news/ckg-foundation-supports-singapore-pavilion-at-venice-biennale/

Beyond The Vines:シンガポールのDesign House展開 New Bahruで約3,800 ft²のDesign Houseをオープンし、遊び心と体験を重視した店舗空間を構築。 https://esquiresg.com/beyond-the-vines-design-house-new-bahru-singapore/

Beyond The Vines のブランド哲学 ブランドサイトには「Bold yet simple(大胆かつシンプル)」という理念が明記されています。 https://www.beyondthevines.com/?srsltid=AfmBOooq63QCmuMyOsb_Lv3jp1HumUbnE5duhdOUTic_j7qD4tqclwkq

OATSIDE:Cindy Lin(林莘怡)がマーケティングディレクターに就任 2021年からOATSIDEでマーケティングディレクターを務め、BAT(日本)、Heineken、Diageo出身。 https://theorg.com/org/oatside/org-chart/cindy-lin

OATSIDEの東南アジア展開・マーケティング戦略 アジア圏内でマーケットごとの責任者を設け、コンテンツマーケティングやPR施策を強化。 https://sg.linkedin.com/company/oatside 

※掲載の社名、商品名、サービス名ほか各種名称は、各社の商標または登録商標です。 

 

プロフィール
Fellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd. 代表
大石 隼矢
1990年 静岡県焼津市生まれ。2012年 京都外国語大学 卒。2010年カナダ・ウエスタンオンタリオ大学へ交換留学。2012年株式会社フェローズ入社。2020年4月にフェローズ初の海外拠点であるFellows Creative Staff Singapore Pte. Ltd.の責任者に就任。シンガポール国内のクリエイティブ人材や専門職人材に特化した人材マネジメントサービスを提供している。
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