職種その他2020.05.13

春はキャンセルできません!

vol.95
London Art Trail
Miyuki Kasahara
笠原 みゆき

さて、今回は前回の予告通り英国のアーチィスト達がロックダウン下でどんな行動を起こしているのかみていきたいと思います。

「Two Audio Walk」のための音の収録を行うChris Watson © Chris Watson

まずはChris Watsonの作品。新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐため、5月1日現在英国では、運動や必需品の購入、治療目的のため、あるいは在宅勤務できない仕事への通勤以外の外出は認められていません。運動ですが、健康な人は散歩やジョギング、サイクリングといった運動などの中で、1日一回、一種目のみの外出が許可されています。しかし、新型コロナウィルス感染の軽症患者や感染の疑いのある症状のある人、喘息などの持病を持つ人や70歳以上のお年寄りは新鮮な空気を吸ったり、自然と触れ合うための散歩にさえ出かけられません。「Two Audio Walk」と題されたアルバムは、そんな自宅待機または自宅療養を余儀なくされた人々のために無料で配信されたサウンドアート。(3月25日リリース)まず最初のCaledonian Forestを試聴してみると、聞こえてくるのは?(視聴はこちらからどうぞ)作家が音を拾ったカレドニアン・フォレストはスコットランドの数千年前から存在する古代の針葉樹の森で、貴重なイヌワシや大ライチョウの生息地。この作品はこのコラムの第10回で紹介したAlec finlayが現在アーチストインレジデンスを行なっているPaths for Allとの企画で作られた作品。Paths for Allはスコットランドの健康ウォーキングを促進する慈善団体で600以上のウォーキング団体のネットワークを持っています。

Artists’Activity Pack Part1の表紙

自宅勤務になったものの、子供の学校も休校。感染の危険から高齢の祖父母にも預けられないし、と仕事と子供の面倒で大わらわの親たち。そこでそんなお父さんお母さんのために立ち上がったのはアーチィストたちで、無料でダウンロードできる子供達が美術を自主学習するための教材(アクティビティパック)「Art is where the home is」を共同デザイン製作。部屋の中を走り回るやんちゃな子供でも図画工作の時間になると急に静かになって何時間も机の前に座っていることができたりしますよね。参加作家は、Jeremy Deller、Ryan Gander、Antony Gormley、Idris Khan Michael Landy、Annie Morris、Harold Offeh、susan pui san lok、Bob and Roberta Smith、Mark Titchner、Mark Wallinger、Gillian Wearing(パート1)と著名な英国の美術家がずらり。インストラクションにそれぞれの作家の個性が出ていて面白く、子供だけでなく大人でも楽しめるので早速試してみてはいかがでしょう。ダウンロードはこちらから。(5月1日現在パート2まで出ていてパート3も製作中の様子)

© Matthew burrows

そもそも元々収入の少ない美術家稼業。英国政府のコロナウイルス自営業収入支援スキームやアーツ・カウンシル・イングランド(ACE)のコロナウイルスアーチィスト、クリエイター、フリーランサー助成金などが打ち出されたものの、すべてのアーチィストがこれらの支援対象になる訳ではありませんし、金額も限られています。そこで、イングランド南東部サセックスに住む画家のMatthew Burrowsは「美術家支援公約」(Artists Support Pledge) と題してアーチィスト自らお互いを支援する運動を立ち上げ、他のアーチィストに参加を呼びかけました。参加の仕方は簡単。参加アーチィストはできるだけ安価の200ポンド(約2万7000円)以下の自分の作品を#artistsupportpledgeのハッシュタグをつけてインスタグラムに投稿、売り上げが千ポンド(約13万5000円)に到達したら他のアーチィストの作品を買わなければいけないという公約を守るというもの。公約を誓った投稿は既に10万件を超え、総売り上げは現在なんと二千万ポンド(約27億円!)に到達したとか。

「Do Remember They Can’t Cancel the Spring」2020 © David Hockney

昨年の秋、50年以上住んだ大都市ロサンジェルスから英国と海を隔てた対岸のフランス、ノルマンディーの田舎に移り住んだ英国ポップアートの先駆者デイヴィッド・ホックニー。2018年の秋にノルマンディーを訪れた際、そこには故郷のヨークシャーを彷彿させる自然、花々そしてりんご、さくらんぼ、洋ナシや梅の木がありました。そして「ここで春が描けたらいいな。」と移り住むことを決めたのだとか。しかし春が来たと思ったら、コロナウィルスもやってきて、フランスがロックダウン。自宅待機中の82歳の画家はそこでipadで描いた一枚の絵を公表しました。作品のタイトルは「Do Remember They Can’t Cancel the Spring」(よく思い出して、奴らに春をキャンセルすることはできないってこと)

 

プロフィール
London Art Trail
笠原 みゆき
2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。 Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。 ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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