最近のCMにトキメかないよねと友人が言った。

Vol.156
CMプロデューサー
番長プロデューサーの世直しコラム
櫻木 光

金融の会社に勤める同い年の友達とご飯を食べていたら
いきなり結構きついことを言われてショックなことがありました。

「もうずいぶん長い間、エッ!とびっくりするような面白いCM見かけてないよね。
俺たちが若い頃ってCM 観るの楽しみだったじゃん。
春になれば化粧品会社のキャンペーンが始まってさ。ウキウキするような
気分になったよね。ウイスキーのCMはドキドキするような緊張感があったり
映画のワンシーンのようなすごい景色のCM とかあったよね。
殺虫剤とかのCMはやたら面白かったしね。ギャグが。
やたら音楽のかっこいいやつとかさ、洋楽の新曲の紹介みたいなやつとか。
水着のモデルが色っぽいやつもあったしさ。あ、ああいうのは今やると袋叩きか。

つまんねえ世の中になったよなあ。
ああいうのはなんで作れなくなったの?やっぱりなにかとうるさいの?

景気が悪くなってずいぶん時間がたって、経済が全然良くならないのはわかる。
なんだか必要な物も一通り買っちゃったしね。
インターネットの方がテレビより見られてるのもわかる。
うちの娘たちはテレビ見ないもんね。スマホ見てるよね。番組も同じことか?
なんと言うかさ、通販みたいなCMと、うちの会社の会議の議事録みたいなCM ばっかりね。
つまりさ、色んな偉い奴が色んなこと言ってさ、それを担当の人が全部聞いてさ、
あんな紙一枚によく入るよってくらい入れ込んでさ、綺麗にまとめたら
議事録できちゃうだろ?CMがなんだかそんな感じなんだよね。

お前さ、俺は面白いCM作ってみんなの度肝を抜いてやる。とか、昔、言ってたよね。
どうなの?やれてんの?やれたの?代表作ってあるの?」

「今は、こういうのとかああいうのとかはやってるんだけどね」

「ああ、それちょっと好きだけどね。頑張ってんじゃん。でもさ、昔みたいな
トキメキはないよね。俺が年取っただけかなあ?あまりビックリはしないよね
色々あるとは思うよ。内情がどうなっててどんな苦労があるかもわかんないけどさ」

ぐうの音も出ない。好き放題言いやがってこいつ。おめえはなに作ってんだよ?と思いましたが
これが視聴者の意見かとおもうとゾッとします。色んな理由で言い訳はできますが、今の制作のプロセスの話を長々としても理解してくれるかどうかわからないし、じゃあ昔はなんでよかったのかよ?と言われたら返す言葉がパッとは見つかりませんでした。

視聴者の思いに理由は関係ないです。面白いか面白くないかでしか見ていない。
面白くなきゃいけないか?爆発的に面白いだけで買うか?とか
思うのだけれどそんなこと言っても仕方ないでしょう。言い出すときりがない。

ただ、「会議の議事録のようなCM 」と言われた時に少しドキッとしてしまいました。
クソっ、うまいこと言うなこいつ。と。

昔はなんでCMが面白かったのか?
僕は昔のCMが面白くて今のCMが面白くないとは一括りにはできないと思うのです。
心の中にある名作たちは感受性の強い頃、物を知らない頃に蓄積してきた思い出のような
物だと思うことにしています。
人の好き嫌いも含めて、確かに名作は多かったかも知れないけど、昔から面白いものそうじゃないものは両方あった。と。

ただ、映像としては、飛行機がビルに突っ込む映像と津波が街を飲み込む映像を
リアルに見るというショックな体験をしてしまった。これはでかいと思う。
あれから、どんなに凄いとされている映像を映画なんかで見てもあまり感じなくなった。
現実の方が凄い、そういう映像を見た人類の体験が人の気分を大きく変えたような気がする。

それはさておき、色々言い訳しても、CMは面白い、ポンと膝を打つような事や
いつまでも見ていたくなるような美しい表現を考えつくに越したことはない。

前に所属していた会社の、師匠で有名なディレクターが話してくれた事を思いだしました。

「テレビCM、それだけじゃないけど、広告というものは基本的に自画自賛の自慢話です。
人間は、他人の自画自賛や自慢話は聞きたくないものです。自分の自慢話を他人に興味を持って聞いてもらうためには、そこにサービスがないといけません。気の利いたことをやって他人が見たり聞きたくなるようなサービスです。それを企画・アイディアといいます。表現かもしれない。」

テレビに限って言えばそのサービスの観点は確かに足りないかもしれない。
ただ面白いCMを作ればいいということはない。CM好感度の高さも大事だけれど
CMで荷が動く感覚の方が大事だとされている。そのためにやってるんだから当たり前ですけど、
なんだかいちいちスコアが出る時代は、全視聴者へのサービスよりセグメントされた
ターゲットへのサービスを優先する傾向があるからだ。アイディアは買ってくれる人に向く。

作る側が、人の金で、作りたいCMを作って、ほくそ笑んで放送しても物がなんでも売れた時代じゃないのだ。一度でいいからやってみたいけど。

土台無理な話だけれど、ユーチューバーのようにアクセス回数によってもらえる制作費が変わってくるというような仕組みの世界にCM制作者がおかれたら、また違った作り方をするかもしれないなあと思いますね。議事録のような物を作るのはやめようというふうになるかもしれない。
そしたら物が売れるよりアクセス回数を増やす事になりふり構わず躍起になってしまうでしょう。その結果、物が売れたりして、それでもいいのかもしれないけど。

んー、書いててなんだか苦しいなあ。まあいいか。

学生の頃に読んだ、有名CM監督のドキュメンタリーの本に

「CMは人間を描く事で商品が輝く」

と書いてあって感銘を受けたことがある。
マーケティングのデータや色んなデータや調査の結果や商品開発の戦略や、KPI、KPIってアルファベットでしか喋らない人も含めて、色々あるけどこの言葉を心のどこかに秘めて仕事しなきゃいけないなーと思っています。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP