大河ドラマ 「平清盛」

番長プロデューサーの世直しコラムVol.72
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

今年のNHKの大河ドラマ「平清盛」を一回も欠かさず観ました。 大河ドラマを一回も欠かさず観たのは、記憶を辿ると、ずいぶん前の小学生の頃、「黄金の日日」以来だと思います。

個人的に仲良くさせていただいている俳優さんが平家の重要な役で出演しているから、という理由で第一回目から食い入るように観ていたのですが、回を重ねるごとにどんどん面白くなって、その俳優さんが脚本上死んで出てこなくなってからも、毎週楽しみにするようになりました。日曜日の夜は何かとイベントも多いので、必ずHDDレコーダーに録画して、家に帰ったらすぐ観る、みたいな感じで。

「平清盛」はものすごく面白かったのです。

「黄金の日日」を観ていた小学生の頃と違って、映像のプロという視点でシビアに観てしまうので、いろんな事が気になる。セットの規模や、製作期間や、予算や、出演者の人数や、衣装やメイクまで、本当に気になります。

十数年前に制作として担当した仕事に、“歌手のマドンナが「牛若丸」に扮する”というCMがありました。 マドンナ本人とディレクターに企画の説明をするために、牛若丸のころの時代背景の資料、スタイリストやヘアメイクへの説明用の衣装や化粧の資料、セットやCGを作るための当時の建築物の資料など、本が一冊できるくらいの冊子を作ることになりました。 極力簡単な日本語で説明文を書き、色鮮やかな写真を添える(当時の資料はモノクロ写真がほとんどだったのです)それを翻訳家に頼んで英語版を作る。全部マドンナ指名のアメリカのスタッフとスタジオで撮影するのが条件だったからです。

当時はインターネットも無く、神田の本屋さんを一軒一軒まわって、平安時代、鎌倉時代の風俗の本を探して歩き、写真を探し、牛若丸、源頼朝、武蔵坊弁慶などを題材にした映画やドラマを片っ端から集めました。老舗の呉服屋さんを回って、資料の着物を貸していただき、マドンナと同じ身長の人に着せて写真を撮ったり・・・相当苦労した覚えがあります。あんな事もうやりたくありません。 当然、そのときNHKにも問い合わせをして、大河ドラマのスタッフにも意見をお伺いしたりもしました。だから、大河ドラマ級の時代考証の大変さがなんとなくわかります。 まあ、そんな思い出もあって、平安時代の末期には思い入れもあったのでしょう。観ていてストーリーに引き込まれて行きました。はまったのです。

視聴率が低い低いと1年中言われ続けたこのドラマですが、HDDレコーダーの普及した今では、昔と比較してとやかく言うのはナンセンスですね。全番組を同時に録画できるようなシステムすらあるのだから、見たい番組が重なった時間でさえ裏も表も無く複数観る事も可能だからです。“番組自体を観たか観なかったか”と“視聴率”は違う物になってしまいました。

そもそも視聴率調査というのは、オンタイムで観ないと計れないシステムになっているそうです。技術的には録画しているものをカウントするのは可能らしいですが、CM中の視聴率が重要なため、CMをスキップできる録画分はカウントしないらしいのです。

視聴率は、民間の放送局がスポンサーに対して広告料金を請求するための根拠な訳です。そもそもNHKにはコマーシャルはなく、関係ないと言えば関係ないのですが、大河ドラマの舞台になる地方の観光収入のため、その地方とNHKとの持ちつもたれつの関係上、「観たか観なかったかわからない視聴率」が気になるのでしょう。どこかの県知事のように表現についてまで余計な事をわざわざ言う奴も出てくるのですね。

そんなこんなで、視聴率というのは観ている視聴者にはなんの関係もありません。視聴率が高いからといってその番組が優れているかどうかなんて誰にも分からないし、自分が面白いと思えばそれでいいじゃないか。と思うのです。

マドンナのための資料を探しているときに、この「平清盛」があったら何も苦労はなかったなあ。と思うのです。同じ平安、鎌倉時代を扱った映画やドラマでも、90年代のものはなんとなく衣装やセットの細部に嘘も多く、あいまいでちぐはぐだった印象がありましたが、今年の「平清盛」の衣装と美術は徹底されていましたね。史実を忠実に研究した上で今のクリエイティブを入れる。という感じ。 衣装の中に着ていてあまり見えない下着の様な衣装にも細かい細工が施されていて美しかったし、みすぼらしい衣装は徹底してみすぼらしかったし。そういうところのリアリティというか解釈は本当に時間をかけて丁寧に作られた本物のドラマだと感じました。

「視聴率が悪い」と言われて「面白くない」と誤解されたこのドラマは、時間が立ってから、歴史の史料としての価値が増して行く、それこそ歴史的な大河ドラマだったのかもしれません。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)
~株式会社リフト 第一制作部 チーフプロデューサー~

  • 1968年 佐賀県生まれ、44歳。
  • 1991年 ニッテンアルティ入社(旧 日本天然色映画株式会社)
  • 2000年にプロデューサーに昇格。
  • 2009年 社名がリフトに変更。

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが(日本にはCMプロデューサーと名乗る人が2000人もいるそうです)、自分のケツを自分で拭こうとしているプロデューサーは何人いるでしょうか?矢面に立つのは当たり前だとつっぱって仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。根性論を書いているかと思ったら、意外に現実論者でもあります。

<主なプロデュース作品>

  • AGF ブレンディボトルコーヒー(原田知世さんと子供)
  • 日清食品 焼きそばU.F.O
  • マルコメ 料亭の味
  • リーブ21 企業CM
  • コーセーサロンスタイル 『髪からはじまる物語」行定勲監督Webムービー
  • クレイジーケンバンドPV
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