ハイブマインド? @The Koppel Project

Vol.63
London Art Trail 笠原みゆき

コッペル・プロジェクト・ハイブ。もう一つのギャラリーはベーカーストリートにある。

地下鉄セントポール駅から大通りを西に五分ほど歩くと、重々しいブルータリスト建築が現れます。今回はロンドン中央に70棟のアーティストスタジオと二つのギャラリーを運営するコッペル・プロジェクトより。 その二つのギャラリーのうちの一つ、スタジオに伴設するホルボーンのギャラリー、コッペル・プロジェクト・ハイブを紹介します。

"SWOC-Matrix / Acid – Reflux, 2017" ©Andrew Mealor

いきなり目に入るのはレスリングをする巨大なネズミじゃなくてエイリアン!?建物と同じくコンクリートで作られた奇妙な生き物のような作品はAndrew MealorのSWOC-Matrix / Acid – Reflux, 2017。

"Context collapse surveys. 2017" © Yuri Pattison

ヘリから見たような事故現場の映像や建物の風景。画面の下には“ハリケーンイルマ、フロリダに上陸見込み"などといったライブニュースのテロップが流れています。さて、どの都市かな?と見ていると自由の女神が現れ、ピラミッドが現れ、カメラがやがて引いていき、その都市が建築モデルであることが明らかに。そしてそのミニチュアモデルを製作するアーティストが巨大な創始者のように現れて……。作品はYuri Pattisonの Context collapse surveys. 2017。

"Vein Section (or a cave painting), 2015" © Nicolas Deshayes

熟した苺のような鮮やかな赤!血液の中を覗いたようなエナメル・ペインティングはNicolas DeshayesのVein Section (or a cave painting), 2015。 血液といえば私たちの身体は毎日1兆個もの細胞を血液によって入れ替えているそう。血液が細胞に酸素や栄養を送り届けることで、この生まれ変わりのサイクルが保たれます。身体の細胞の数は60兆個。この60兆の個体の管理の全責任を自身が担っていると考えると生活習慣や食生活を見直す良いきっかけになるかも?

"Ignore, Fail. Read. Succeed. lll, 2017" ©Hannah Lees

タイトルの「無視すれば失敗。読めば成功」は英国の電気製品の取扱説明書の表紙によく書かれているフレーズ。コンセントが差し込まれたパネルヒーターの上には草花や木、ワックス、マッチ棒などを使ってカラフルな抽象画が描かれています。もしスイッチを押せばワックスは溶け、草木は燃えて灰になります。環境破壊がどうこう言われても誰も気にしてないし面倒だから無視すればいい?火の起こし方も忘れ、思考を働かせなくてもボタン一つで電気が流れ、暖がとれる生活にすっかり慣れきってしまった私達への警告でしょうか。作品はHannah LeesのIgnore, Fail. Read. Succeed. lll, 2017。

コッペル・プロジェクト・ハイブ。地下ギャラリーの展示風景。

下の階へいきます。

"Astral Maps, 2017" ©Eloïse Bonneviot

海苔みたいに垂れ下がっている漆黒の作品、気になりますね。よく見ると、グーグルマップになっていて、ブリストル、バース、バーミンガム、オックスフォードなどの英国の都市の名が見え、複数のピンも立っています。更にワイヤーや、鍵、ロープ、積雪期の登山に使うピッケルなども貼り付けられていて?地球が再び氷河期に入った後に見つかった英国のグーグルマップ?作品はEloïse Bonneviotの"Astral Maps, 2017"。

メタルフレームの構造物の中央のモニター。映っているのは山や植物などののどかな自然の風景、そして一匹のハエ?もしかしてその幼虫が人に寄生するという、ウマバエ?そういえばモニターに無数のコードで繋がれているモクモクとした立体はウマバエの幼虫に似ているかも……。(ちなみに幼虫の映像はかなり気持ち悪いので検索するときは気をつけて下さいね。) ネットのデータ検索などで、人間の補助をするソフトウェア・エージェントはボット(bot)と呼ばれますが、ウマバエの幼虫も英語では同じ名前。サイバーセキュリティー会社、Imperva Incapsulaの2016年度レポートによると、ネットユーザーの51%は実は人ではなくボットであることが判明。しかもその半数以上はなんとハッキングや個人情報の収集、誤情報操作など悪質な行為を行っているもの。もう幼虫ではなく立派な成虫!作品はAnne de boerの“So here I am now, 2017"。

今回のグループ展のテーマはHive Mind。 Hive Mindとは一つには複数の人が1つの意識を共有している状態である集団意識(思考)といった意味と、もう一つはSFの集合精神(ハイブマインド): 個人の思考が失われ、指導者からのテレパシーなどよって集団の成員が同一の思考を行うことといった意味があります。この概念はどちらも社会性昆虫である蟻や蜂の超個体の知性を持ったバージョンという考え方からきているようです。グローバル化によって個性や自我が失われていく中、氾濫する情報に溺れ、ほとんど自ら思考することなく集団生活を営む私達。自らが生み出したA.I.に意識や思考が操られる時代はもう既にやって来ているのかもしれません。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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