公園にて

番長プロデューサーの世直しコラムVol.113
番長プロデューサーの世直しコラム 櫻木光

企画の内容が公園での話だったので、公園のロケ地を探していました。

東京近郊の結構大きい町の結構大きい児童公園でカメラのアングルを決めていたのですが、そういう時はスタッフの出番で、ロケハンに帯同したプロデューサーなんかはやることがありません。いや、本当はあるんですが、僕みたいなベテランの面倒臭いプロデューサーがそういう時に元気に仕事をし始めるとみんながやりづらいので、少し離れたところでぶらぶらしていたのです。

公園内を一周したり、ブランコに座ってみたり、公園を出たり入ったりしていたら公園の入り口付近に「禁止事項」という看板が目に入りました。 パッと見て異様な看板だったので詳しく読んでみました。ちゃんとデザインされたピクトグラムがあって、それに赤い斜線が引いてある。そういうイラストがいっぱいあって、その真ん中に赤い文字で大きく「禁止事項」と書いてある。

内容を書き出すと

○ 喫煙 ○ 火器使用 ○ 危険物持ち込み ○ 撮影 ○ 物品搬入 ○ ペット持ち込み ○ 宿泊 ○ 飲食

こんな感じ。ふむふむ、ペット持ち込み禁止なのか。糞を片付けない人とかいるからなあ。撮影もダメみたいだけど許可下りるんだろうか?とか、とか思いながら残りの半分を見てびっくりしました。残りの半分は

○ 自転車乗り入れ ○ ボール遊び ○ 大声 ○ スポーツ ○ 遊戯 ○ ラジオ体操

と書いてある。「遊戯?」 公園で子供達が遊戯ができなかったら何をするんだろう? ボール遊びはどこでやればいいんだろう?キャッチボールとかできないよなあ。 楽しく一生懸命遊ぶ子供って興奮して大声出すもんじゃないのか?

こんなこと決める奴はものすごい頭が悪いんだろうな。 と思って一番下を見ると「ルールを正しく守りましょう」と書いてある。 誰が決めたルールなのか?使う側と話し合ってできたルールだとは思えない。 ネットで調べると今や日本国中そうなっているみたい。

マナーの悪いやつら。なんかちょっとしたことにクレームつけるやつら。子供がうるさいとか。車にボールが当たったとか。遊具で子供が怪我したから責任取れ、とか。そういうバカが多いから、役所の管理責任者もうんざりしているのだろう。裁判沙汰とかもあるのだろう。

そういうリスクを避けたいがために禁止事項を増やしておいた方が無難だ、と思うのもわからなくはない。わからなくはないけど、「トラブルの原因はすべて無し」という対応が「俺は何もしたくない」と同義だと思う。考慮しているのは子供達の安全や健康ではなくて、文句言ってくるクレーマーに対してだけだからです。

この話だけじゃなくてもそういうことが多すぎる。そのおかげで子供の貴重な体験も、思い出も作らせないでいるんじゃなかろうか?と。

この禁止事項を見ていると、お父さんとキャッチボールをしたとか、自転車の練習をして自転車に乗れるようになったとか、そういう何気ない幸せな思い出は作れないということか。何をする場所か分からんな。禁止事項が多すぎて公園は遊ぶ場所ではなくなっていました。

と、子供もいないのに憤ったのは、なんというか、この社会の嫌な感じの一端を垣間見たからでしょう。この感じ何かに似てるなあと思って考えていたら、仕事の時にぶつかる薬事法とか局考査に似ているのです。コマーシャルを作る時にいつも引っかかる「あれ」。あれ言っちゃダメこれ言っちゃダメ。この表現もダメ。注意書きを入れろ。ついでに言うと放送基準もそうで、海外から来る面白くて美しいCMを日本の放送用に合わせて作り直したりするとよく引っかかる。日本の放送基準は画も音も、他の国と比べて格段に厳しい。規制の国。

こうやって「なんかあったらまずいので」という考え方で、あれやっちゃダメこれやっちゃダメと言われて育つ子供はつまんない大人になっちゃうだろうなあ。それが家庭だけの話なら各家庭の教育方針や事情ってもんがあるだろうから知らんけど、公園は遊び場なんだからこんな規制しちゃダメだろう?と思ったのです。それが楽しいかどうかちゃんと考えないと。

「なんかあったら」の原因はなんでも他人のせいにする他責体質にあるんだろう。どんくさい自分の子供が転んで怪我したら、何か他者のせいにする。「転ぶと痛いだろ?それがわかってよかったな」と子供に一言言えば済みそうなものだが人のせいにしないと気が済まない。そんな風潮が強いし嫌だなあ。

学校の授業を半分くらい道徳の時間にして、公園の禁止事項なんか無くせばいいんじゃないかと思う。公園の禁止事項を目の当たりにして、なんかそういう時期に来ているような気がしました。だってなんか変なんだもん。

Profile of 櫻木光 (CMプロデューサー)

プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。


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