職種その他2015.05.13

Margateの海に映るもの Turner Contemporary

London Art Trail Vol.35
London Art Trail 笠原みゆき
J.M.W. ターナー(1775-1851)

J.M.W. ターナー(1775-1851)

手のひらサイズの小さな自画像、さてこの少年は一体誰?答えは英国の風景画の巨匠として知られるJ.M.W. Turner(J.M.W. ターナー) (1775-1851)。 肖像画は14歳で既に王立芸術院に入学していたターナーが15歳の時に描いたもの。今回はそんなターナーが幼年期を過ごしそしてその後も頻繁に訪れた海辺のリゾート地 Margate(マーゲート)から。ロンドンから列車で一時間半ほど。

右の建物がTurner Contemporary

右の建物がTurner Contemporary (ターナーコンテンポラリー)

入り口からすぐのギャラリーに展示されていたCarlos Amoralesの音の彫刻。"We Will See How Everything Reverberates"(2012)。来場者はモビールに吊るされたシンバルを奏でてみることが出来る。左手には海が広がる。©Carlos Amorales

入り口からすぐのギャラリーに展示されていたCarlos Amoralesの音の彫刻。"We Will See How Everything Reverberates"(2012)。来場者はモビールに吊るされたシンバルを奏でてみることが出来る。左手には海が広がる。©Carlos Amorales

さて、マーゲートにはそのターナーにちなんで2011年に現代美術館 Turner Contemporary(ターナーコンテンポラリー)が建てられていて、訪れたときは“Self"と題したアーティストが自分自身を描いたセルフポートレートの企画展示が行われていました。(2015年5月10日まで) 上の肖像画はその展示の一部。

“Self"のギャラリーの一部屋。中央にはDamien Hirstの"Contemplating a Self Portrait as a Pharmacist"(1998)が見える。©Damien Hirst

“Self"のギャラリーの一部屋。中央にはDamien Hirst(ダミアン・ハースト)の"Contemplating a Self Portrait as a Pharmacist"(1998)が見える。©Damien Hirst

“Self-Portrait with Charlie" (2005) ©David Hockney

“Self-Portrait with Charlie" (2005) ©David Hockney

蝶ネクタイをしめた紳士に背後から見つめられながら制作をする画家。作品は David Hockney(デイヴィッド・ホックニー)の“Self-Portrait with Charlie" (2005) 。見つめているのは、キュレーターで友人のチャーリー。絵を早く仕上げろと催促しているのか、単にモデルをしているのかは不明ですが、画家のプレッシャーはしっかり伝わってきます。

“One Year Performance" (1980–1981) ©Tehching Hsieh

“One Year Performance" (1980–1981) ©Tehching Hsieh

丸坊主で作業着を着て時計の脇に立つ男性。見ているとアニメーションのように次第に髪の毛が伸びてきて!?作品は台湾人アーティスト、Tehching Hsiehの “One Year Performance" (1980–1981)。毎時間一回、一日に24回、自身のスタジオでタイムカードを押してはポートレート写真を取るという行為を1年間繰り返すというパフォーマンスで、8760枚の写真を6分間の映像にまとめています。あっという間の一年、光陰矢の如しとはまさにこのこと?

“Self Portrait"(2007) ©Louise Bourgeois

“Self Portrait"(2007) ©Louise Bourgeois

振り返ったのは人面を持った5本足の猫!作品は Louise Bourgeois(ルイーズ・ブルジョワ) (1911-2010)の“Self Portrait"(2007)。猫というか、人というか、不思議な生き物というか……この人面猫のモチーフはブルジョワの作品の中に何度も現れています。

“Why I Never Became A Dancer"(1995) ©Tracey Emin

“Why I Never Became A Dancer"(1995) ©Tracey Emin

マーゲートの岸壁に残る旧レジャーセンターLido。その歴史は1824年まで遡り、当初はClifton Bathsという海水を利用した大衆浴場としてオープン。19世紀末に屋内プールが設置されると20世紀初頭には映画館、劇場やコンサートホールが併設され、1938年にはCliftonville Lidoと改名し、バー、レストラン、屋外プールを備えた4階にわたる近代的なレジャー施設に生まれ変わります。戦後のピークはナイトクラブも備えた60年代でその後国内観光客離れが進むと同時に衰退し、施設が1978年、嵐で壊滅的な被害を受けると修繕もなく屋外プールは砂で埋め立てられてしまいます。 実は写真は マーゲート育ちのTracey Emin(トレーシー・エミン)の短編映画、“Why I Never Became A Dancer"(1995)の一部。マーゲートの風景を巡りながら、10代の自身を回想する自叙伝的な作品ですが、今回訪れてみて、エミンの撮った20年前の風景が今も変わらずそのまま残っていいてまるでデジャブに襲われたような不思議な感覚を覚えました。

荒波の立つマーゲート。右上に小さく見える銅像はAnn Carringtonの通称"The Shell Lady"(2008)。ターナーの晩年の恋人Sophia Boothをモデルにしていて、200年前に木製から石製に立て替えらた桟橋の上に立つ。現在のターナー•コンテンポラリーの立っている位置にターナーの通ったブースの家があった。

荒波の立つマーゲート。右上に小さく見える銅像はAnn Carringtonの通称"The Shell Lady"(2008)。ターナーの晩年の恋人Sophia Boothをモデルにしていて、200年前に木製から石製に立て替えらた桟橋の上に立つ。現在のターナー•コンテンポラリーの立っている位置にターナーの通ったブースの家があった。

美しい砂浜をもち、古くからロンドン子のリゾートタウンとして栄え、ターナーが愛し、幾度となく描いた空と海を持つマーゲート。近年はすっかり寂れてしまったものの、ターナー•コンテンポラリーのオープンに加え、今年の夏には世界最古の木製ローラーコースターの一つをもつ1880年に建てられたアミューズメントパーク、ドリームランドが再オープンすることになっていて、まちに活気が戻る日はそう遠くはなさそうです。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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