缶入りミネラルウォーターブランド「Liquid Death」のパンク過ぎるキャンペーン

Vol. 73
FIND IT. LOVE IT.
Sayuri Fujii
藤井さゆり

攻めたブランディングやユニークなソーシャルメディアマーケティングが話題の缶入り水ブランド、Liquid Death(リキッドデス)。その「Liquid Death」が行ったオジー・オズボーンとの最近のキャンペーンがこちら。

 

 

このキャンペーンは、10缶限定のアイスティーで、オジー・オズボーン自身が飲み終わった後、手で缶を潰して署名をしたもの。缶には実際にオジーのDNA、いわゆる唾液が付着しているので「将来的にクローンが可能になるかも」というメッセージが含まれており、価格はなんと1缶450ドル(約6万5千円)。(商品紹介には「DNAの完全性やクローン成功は保証されない」との文言が添えられています) 話題性のためのジョークとしてキャンペーンを行ったように思えますが、実際に製造された限定アイテムで、なんと全て即完売したようです。

 

「Liquid Death」は、こういったジョーク&ミームで話題性を持たせたソーシャルメディアマーケティングで成功しています。

 

 
 
 
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「Liquid Death」リキッドデス=液体の死という商品名と、ビールやエナジードリンクのようなパッケージデザインですが、中身はオーストリアのアルプス山脈の天然水(炭酸あり・なし)もしくはアイスティー。容器はアルミ缶でプラスチック削減という意味があり、ターゲットはミレニアル世代〜Z世代の「反骨的感性」を持った人々です。

 

「Liquid Death」のキャンペーン動画には、本物のジェット機をプレゼントするものや悪魔と契約するものなどがあり、多くの動画は「これって水のCM?」と混乱させるもので、YouTubeでカルト的な再生数を叩き出しています。オジー・オズボーンキャンペーン以外にも「Liquid Death」の面白いキャンペーン動画がありますのでご紹介します。

 

 

「DRINK ON THE JOB〜♪(仕事中に飲む〜)」というCMソングなど、完璧にビールのコマーシャルそっくりに作っています。

 

 

視聴回数5,500万回を超えるバイラルとなった「ジェット機プレゼントキャンペーン」。Liquid Deathを実店舗で購入し、レシート写真を専用サイトに送ると抽選でジェット機が当たるというもの。90年代に実際にペプシが行った嘘の「ジェット機プレゼント」キャンペーンを元ネタにし、Liquid Deathが本当にプレゼントするキャンペーンを行いました。

 

 

マーサ・スチュワートともキャンペーンをしています。切断された手の形をした高級キャンドルで、人間の手がLiquid Deathを握っており、溶かすことで缶が現れるユニークな仕掛けとなっています。「マーサ・スチュアートが実際の人間の手を切断して作ったもの」というコンセプトのキャンドル。マーサ・スチュアートの公式サイトで限定販売し、価格は$58(約8,000円相当)で、注文受付後すぐ完売したそうです。

 

 

実際に投稿されたLiquid Deathへのヘイトコメントをそのまま歌詞に起用し、カントリーシンガーが「Greatest Hits」ではなく「Greatest Hates」として歌い上げる動画。この曲は、限定バイナルレコードの販売やSpotify、Apple Musicでの配信も実施されたそうです。

 

 

モッシュやフェス、コンサートでトイレに行けずに漏らしてしまう危険性に着目し、韓国発の高吸収性おむつブランド「Depend」と共同開発されたPit Diaper(ピット・ダイパー)。「サブリナ・カーペンターのコンサートでトイレを我慢したファンが会場で漏らした」という事件を元ネタにしたキャンペーン。

 

Liquid Deathのキャンペーンは面白くてジョークでしょ?と思わせるものですが、リアルに行い完売しているところがパンクですよね。

 

また、パンクなのはソーシャルメディアマーケティングだけではなく、商品名もです。

 

 
 
 
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こちらはアイスティー。Green Guillotine(グリーンギロチン)とSlaughter Berry(虐殺ベリー)。

 

 
 
 
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フレーバーのついた炭酸水、Squeezed to Death(絞り殺し)、Cherry Obituary(チェリーの訃報)、Grave Fruit(墓場の果実)。

 

 
 
 
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同じくアイスティー。Grim Leaferは、Grim Reaper(死神)をもじったもの。Leaferは、Leaf(葉)からのLeafer(葉を持つもの)で、アイスティーの茶葉のこと。Rest in Peachは、弔いの言葉であるRest in Peace(安らかに眠れ)をもじったもので、ピーチフレーバーのアイスティー。Armless Palmer(アームレス・パーマー)はレモネードとアイスティーを混ぜたドリンクで、Arnold Palmer(アーノルド・パーマー)をもじったもの。アーノルド・パーマーは元々ゴルフの伝説的プレーヤーの名前から来ていますが、Armless Palmerになると「腕のないパーマーさん」という意味になります。

 

Liquid Deathの創業者であるマイク・チェッサリオ(Mike Cessario)さんは、以前はNetflixでクリエイティブディレクターを務めていました。2009年に行われたあるロックフェスティバルで、アーティストがエナジードリンク「モンスター」の缶から水を飲んでいるのを見てLiquid Deathのアイデアを思いついたそうです。

 

エナジードリンク「モンスター」。

 

@monsterenergy this at 3am @X Games #MonsterEnergy #XGames #UnleashedAtX #EnergyDrink #Energy ♬ Metal Attack – Toxic Holocaust

 

マイク・チェッサリオさんは、2017年にLiquid Deathの商標を申請、2018年12月に運営会社Supplying Demand Inc.を設立(本社はロサンゼルス)。2019年1月に公式ウェブサイトでLiquid Deathを販売開始します。同年にはFacebook広告動画が300万回再生以上、100,000以上の「いいね」を獲得し、市場の注目を集めます。エコなアルミ缶と唯一無二のパンクなブランディングで、瞬く間にWhole Foodsなど主要スーパーマーケットで取り扱われる存在に成長していきました。

 

2024年時点で、Liquid Deathの評価額は14億ドル(約2,200億円)のユニコーン級飲料ブランドとなっており、その背景には、戦略的な投資家やディストリビューターから得た資金調達が一因となっています。小売売上高は2022年から2023年にかけて100%以上増加し、1億1,000万ドルから2億6,300万ドルにまで成長しています。

 

いかがでしたでしょうか。Liquid DeathのスローガンはMurder Your Thirst(渇きを殺せ)ですが、Death to Plastic(プラスチックに死を)、Don’t be scared. It’s just water.(怖がるな、ただの水だ)もメッセージとして使われます。「サステナブル=地味」のイメージや水ブランドの常識をぶち壊すことで、他社商品との差別化をしていること、そして、買わない人にも記憶に残るプロモーションがソーシャルメディアとマッチしていることが成功している理由ですね。それにしても商品名などのブランディング、ソーシャルメディアマーケティングがセンスありまくりだなと思います。

 

 

(参考)

liquiddeath.com

Liquid Death’a Origin Story | Co-Founder & CEO Mike Cessario – 20VC with Harry Stebbings

Liquid Death’s Billion-Dollar Valuation Stresses The Power Of Brand – Forbes

プロフィール
FIND IT. LOVE IT.
藤井さゆり
東京生まれ、2008年ニューヨークに移住。 公益法人に勤務の傍ら、仲間内で企画したクラブイベントのフライヤーデザインをしたことから、デザインの面白さに目覚め転職。 転職後は、都内商業施設のウェブサイトの販促用ページ企画と取材、ライティングを経験。 ニューヨーク移住後は、ウェブマーケティングを企業にて経験、ウェブデザインをフリーランスで行う。 現在は、日本の着物をインスパイアしたオリジナルTシャツブランド「Foxy Lilly」のオーナー兼デザイナーを務める。
foxylilly.com
Instagram: @foxylilly

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