「真夏の昼のソロ動物園」

第96話
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

唐突ですが、動物園に行ってきました。一人で行きました。名付けて「ソロ動物園」。今年の4月に上野に越してきて早4か月。路上も公園もお店もどこも街ぐるみのパンダ推し状態(※写真①②③④)にもずいぶん慣れてきて、ふとまだ動物園に行っていないことに気が付いたのです。

※写真①

※写真②

※写真③
※写真④

お盆明けの土曜日の午前中。テレビでは盛んに「今日の東京は体温を上回る危険な暑さになります」と警告しています。だとすると、きっと人が少なくて見やすいだろうなと考えてしまう悪いクセが出てしまいました。

家を出て徒歩12分で正門に到着。想像以上に閑散としているのは間違いなく暑さのせいです。この時点でシャツは汗だく。僕は「夏でも外出のときは長袖を着る」ことを20歳のときに大人の証として決めてしまったことを今回ばかりはかなり後悔。もう一つ感じたのはお客さんの半分、もしかするとそれ以上は外国人(最近の言い方だとインバウンドなのでしょうが、どうもまだ馴染めないコトバに思えてしまうのは昭和生まれの悲しさでしょうか)でして、チケット売り場は国際色豊かで(※写真⑤)対応する係の人も語学が達者で凄いです。

※写真⑤

正門入口から入ってまず始めに出迎えてくれるのはゾウなのですが、この日はゾウもしんどいみたいで木の下の日陰から出てくる気配がなく、その先にある猿山へ向かいます。僕は子どもの頃から動物園での一番の目当ては猿山でした。何時間は大げさですが何十分見ていても飽きることなく楽しくて仕方ないのが猿山です。山の麓から中腹そして頂上までどの場面にもドラマがあってまるで人間社会の縮図です。ところがこの日は猿達も誰ひとりとして動こうとせず日陰でじっとしています(※写真⑥)。

※写真⑥

彼らの目はいずれも冷ややかで暑さにやられている僕たち人間を憐みながら観察しているようにも思えてきました。僕のそばにいた5歳くらいの男の子が「ねーお母さん、お猿さんのチンチンはどうして赤いの?」といかにも子どもらしいかわいい質問。それに対してなかなかの美人なお母さんが「この暑いのにおチンチンばかり触るから赤いのよ、リョウくんも意味もなくおチンチン触るのやめなさいよ!」と周囲が一瞬暑さを忘れる答えが聞こえてきました。言ったあとに周りに興味津々な成人男子が複数いたことに気付いたお母さんは「リョウくん、パンダに行こう」と立ち去りました。アルベール・カミュ的にいえばこれもきっと太陽のせいです。

次に目に入ったのは、水にお腹をつけて突っ伏したグレーの大きなかたまり(※写真⑦)。

※写真⑦

気持ちいいのでしょう。だらけきって人目も気にせず水浴びを続けています。柵の前の表示を見るとコビトカバ(※写真⑧)と書いてあります。

※写真⑧

僕の横には今日が初デートっぽい高校生か大学生の未成年カップル。何でこんな暑い日に動物園を選んだのか、なんてどうでもいいくらいお互いを意識しあっているのがかわいいお二人。人は還暦にもなるともう何でもかわいく思えます。ほんの少しだけ茶髪の男子が「コンプラの時代にコビトって大丈夫なのかな?」と想定外の社会的な話を彼女に仕掛けました。するとショートヘアの彼女が「ダメっしょ、コビトは。今は白雪姫だって、七人の小人ってダメなんだよ。白雪姫と七人の友だちなんだから」という答えに「エッ!」と声が出たのは彼ではなく僕で、二人は気持ち悪そうに僕から離れました。いやいやいや「白雪姫と七人の友だち」ってそれはもう女性版バチェラー。そういやずいぶん昔、70年代に「ラブアタック!」というおバカな番組があったよな。司会が上岡龍太郎と和田アキ子で僕はアシスタントのエバが好きで毎週楽しみだったよなぁ、とコビトカバの前で郷愁に浸りました。これもやはり暑さのせい。カバは水に浸ったままでした。

次に向かったのは上野動物園で最近ひそかなブームのハシビロコウです。柵の前にはこの日もハシビロコウ目当ての人たちがいます(※写真⑨)。

※写真⑨

「今日はよく動くね。ハシビロコウらしくない」「暑いからじゃない」というマニアックな会話が聞こえます。何となくですが、一瞬ハシビロコウと目が合った気がしました(※写真⑩)。すがるような目でした。

※写真⑩

目が合ったといえばミーアキャットとは間違いなく目が合いました(※写真⑪)。

※写真⑪

「ジロジロ見るんじゃねーよ」と言われた気がしました。そしてこの日、最も印象的だったのはパンダでもキリンでもゾウガメでもなく、コモンマーモセットという初めて出会った動物の彼(または彼女)。彼が僕を見つめるその顔(※写真⑫)はどこかで会った覚えがありますが朦朧として思い出せません。

※写真⑫

あ~誰だっけ?そんなときに僕の目を釘付けにするのぼりが見えました。まさに砂漠のオアシス(※写真⑬)。

※写真⑬

もう動物園はどうでもよくなりました。一杯700円(税込み)が安い!と思えるほどのおいしさでした。令和5年8月19日、東京都恩賜上野動物園。滞在時間2時間弱(内食堂が30分 苦笑)、料金は入場料600円と生ビール2杯で1,400円の合計2,000円(税込み)でした。

ところでこの日動物園に行った本当の理由は僕の高校時代に関係があるのですが、その話はまたの機会に。(※文中、敬称略)

 

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プロフィール
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
門田 陽
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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