こっちから見る景色とあっちから見る景色

Vol.196
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

突然ドラマの話で恐縮ですが

2014年から2019年まで、アメリカのケーブルテレビ局Showtimeで

放送されていたThe Affairというドラマがあります。

邦題「アフェア 情事の行方」

 

日本でもいまはどこかのサブスクで見る事ができますが、このドラマが

なんというか、ラブサスペンスという種類ですが、ものすごい設定で

びっくりさせられて、面白いのです。

 

何がすごいかっていうと、Aという主人公とBという女性の運命的な出会いと

不倫の話なんですが、シーズン1はドラマの構成が二部構成になっていて

一話の中で前半Aの場合、後半Bの場合、というふうに、同じ時間や同じ過ごした場所

の設定を男の視点から見たドラマと女の視点で展開するドラマというように

わざわざ同じ作りでも作り分けてあるんです。

 

 

そして、それが、ただ視点が変わっただけではなくて、男の心情と女の心情で

同じ物語なのに表現の仕方が微妙に変えてあるんです。

例えば、セリフのやりとりも、起きた事も、同じシチュエーションの話なのに

男の視点では比較的、男に都合のいいような記憶や会話になっていて

女の視点では、女に都合がいいような展開になっている。

 

同じ場所の設定なのに、壁紙の柄や、ランプシェードのデザイン、女性の

ワンピースの柄とかがちょっとずつ違えてあります。窓外の天気やヒカリが違う時もある。

つまり、各役柄の人間の心情と記憶を表現しているけど、人間の記憶は曖昧で

いつも自分に都合よく書き換えられているという表現です。

 

男も女も基本的にやってる事が後ろめたいので、ある種の緊張感をかもしだす

表現にもなっている。

人間の曖昧さ、鈍感さ、欲の前での制御の効かなさ、記憶のずれが次の問題を引き起こし

誰かが怒り、誰かが悩む。嫉妬や恨みつらみ、嘘。虚栄心、恐れ。人間の本性。

メチャクチャピリピリしたドラマになっています。

でも不思議とドロドロした感じはありません。ものすごい撮影のセンスで

カラッとした綺麗な場所や景色の画の中で話が進むからでしょう。

 

こんなの初めて見たぜ。と興奮してみんなにその感動を伝えようとしましたが

誰も知らなかったし、うまく伝わりませんでした。

 

シーズン2になるとAの奥さんとBの旦那さんが絡んできて、同じように

視点の違う人が増えて複雑なドラマになっていきます。そしてどんどん増えていく。

 

なんじゃこのドラマ。ともう吸い込まれるように見てしまいましたが

なんか、この感じは昔感じた事があるなあ。映画だったよね。なんだったっけ?

と気になって調べたら、「羅生門」がそういう話でした。黒澤明の羅生門。

 

黒澤明監督の映画『羅生門』では、作中で発生する殺人事件につき、被害者、被害者の妻、加害者の盗賊が三者三様の証言をして事件の捜

査が行き詰まってしまう。真実は杣(そま)売りが知っており3人とも嘘をついていた。

この映画を元に心理学や社会学、法曹界では羅生門効果と呼ぶようになったとされている。

“羅生門効果(らしょうもんこうか、英: Rashomon effect)とは、ひとつの出来事において、人々がそれぞれに見解を主張すると矛盾してしま

う現象のことであり、心理学、犯罪学、社会学などの社会科学で使われることがある。映画『羅生門』に由来する。”

“羅生門効果において説明される「被害者、被害者の妻、加害者の盗賊が三者三様の証言をして事件の捜査が行き詰まってしまう」という箇

所は、芥川龍之介の原作の『羅生門』からではなく『藪の中』に由来する。”

とWikipediaには書いてあります。

 

羅生門では1つのストーリーの中に、みんな嘘つきで、しかもみんな嘘だと思っていないから

第三者が困っちゃうという話ですが、このアフェアというドラマはいちいち映像に作り

比較の対象として見せていく手法が斬新すぎておどろきました。

 

撮影するスタッフの視点で見るとメチャクチャめんどくさいからです。

演者も大変。自分の記憶のパートはかっこいい僕で、相手のパートでは情けない僕を

演じ分けたりするからです。脚本チームと監督が一番大変。

 

これはドラマだけど、日常生活でもこういうことはよくある。

羅生門効果。

夫婦喧嘩なんかもうまさにその典型で、こっちの都合とあっちの都合の違いで

記憶すら曲がっちゃって、いったじゃない!知らねえよ!の戦いでしょ?

 

俺の記憶は正しい。と言い張ったところで、本当に果たしてそうなのか?

こっちから見た景色とあっちから見た景色は違う。

自分が正しいと信じた行為でも、それの都合の悪い奴からするとただの悪でしかない。

 

法律はそのためにあるんだろうけど、そこに行き着くときは人間の関係性すら破滅

しているわけで。そうなる前のまだ希望を探す段階で、景色の違いを認識するということは

大事なんだよなーとしか思えない。論破しても恨みしか残らないのだ。

 

このドラマ見たくなってきたでしょ?ぜひおすすめですよ。

ドンパチやらなくてもアメリカのエンタメは面白い。という代表です。

 

あ、そうそう、ドラマの番宣したいわけではありませんでした。

何を言いたかったかっていうと、AIがついに劇的な進化を遂げて

なんだかなんでもできちゃうようになってきたと言ってますよね。

なんでも出来るんだったらやらせとけばいいのに。

学校で使用禁止とかにして、なんだか黒船がやってきた。みたいな気分でいますよね。

馬鹿じゃないの?使えばいいじゃん存分に。と僕は思うんですけどね。

 

使う人によって内容も少しづつ違うだろうし。みんなで使うと不都合も出てくるでしょう。

使ってみて、その次の段階に早く行きましょうよと思うんです。

なんだか、楽をしてはいけない。みたいな昭和の気分でテクノロジーを止めるなと言いたい。

楽していいじゃないか。そのための技術革新だろがい。

楽してやる事が減っても、それなりの結果を出すためには

ちゃんと他のところが苦しくなるんだから。

 

でもね、チャットなんとかがまだできないことをやろうとするのが人間ですよね。

アフェアはAIには作れないですよ。まだ。

人間の曖昧さ、いい加減さがテーマだから。コンピューターが「は?」と思うような話。

そういう目で見ると痛快かもしれないなあと思ったのです。

これから起こる事も、人間から見る景色とAIが見る景色も違うと思いますしね。

 

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プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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