プロダクションマネージャーの仕事2023

Vol.195
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

ここに何度かCM制作におけるプロダクションマネージャーの役割

ついて書いた事がありますが、最近の撮影の現場に行くと、僕が

やっていた頃のプロダクションマネージャーとは仕事の領域がずいぶん変わって

きた様に見えるのです。

 

この仕事の内容を知らない人に説明すると、

CMのプロダクションマネージャーとは

制作部とも呼ばれて、一つのコマーシャルを作る時に、参加してくれる

スタッフやスタジオなどのスケジュールを調整して、いつ何をやるかを決める。

 

そして、必要な人、物、事がどれくらいあって、どんなやり方でやって、かかる時間は?

それがいくらかかるのか?を一つ一つ相談し積み上げて計算し、その仕事の原価を

予想し算出する。

 

そのスケジュールにそって、物事を進行して、企画の現場、撮影の現場、仕上げの作業の

現場を仕切り、自分が予想して算出した予算からはみ出ないようにプロデューサーに報告して

やり方を決めてスタッフをコントロールする。雨だの雪だの不測の事態にも対処して、判断

決定も行う。

 

プロデューサーとプロダクションマネージャーの違いは、プロデューサーは売値を決める人。

プロダクションマネージャーは仕入れ値を決める人。表裏一体。

 

と、大まかに言うとそういう仕事です。商売の基本でもある。

 

撮影や編集などのみんなのご飯の用意もしなければいけないし、クライアントから

預かる大切な商品の管理も任される。技術職、例えば演出、撮影や照明、美術などの

特別な職業の人たちを束ねて、いつどこにどう向かうか指示をする人。

 

僕のやっていた頃は、監督と言われる演出家の人と、密に連絡を取って、撮影前の準備から

仕上げまで、撮影現場での仕切りまでやるのが仕事でした。

 

最近の撮影の現場には、助監督という人が入ってくれて、演出家の要望を聞いて撮影現場の

仕切りをお任せするようなスタイルになってきました。つまり、撮影の現場で実際に撮影が

進行している時に、監督のああしたいこうしたいを、演者やカメラマンに伝えてやりとりする

係はプロダクションマネージャーが担う事が減っています。

 

先日、現場で、商品の撮影をする時になって、撮影商品は現場の横の机に綺麗に並べて

あるんだけど、その商品の出し入れや交換、セッティングも撮影部が

扱っている事がありました。あれ?制作部は?って、

「おーい、商品は制作部が責任持って扱えよ」と言ったら、

あー、すみませーん。やりまーす。

とスタジオの端っこでパソコンのモニター見ている制作部が返事しました。

なんか、ちょっと現場から遠くなってるんじゃないかと思って心配になります。

 

色々、仕事の内容も細分化して、プロダクションマネージャーの負担が減るのはいいことです。

働き方改革の時代でもあり、パソコンやインターネットの進化でいろんな事がすぐ出来る

ようになったのも羨ましい限りでもあります。コロナのおかげでリモート会議も劇的に

進化しました。

ただ、そのおかげでちょっと気持ちの入れ方が以前とは違ってきているように感じます。

 

百戦錬磨のおっさんたちに、学校出たての若造が大声で指示をする。というのに

気が引ける。というのもよくわかります。僕もそうでした。

だからといって仕事に関わらないで誰かがやってくれるほど甘い仕事ではありません。

 

昔から変わってはいないのは、プロダクションマネージャーが一番大変なのは

撮影の現場です。演出家、撮影部、照明部、美術部とスタメンとして試合に出ているわけです。

基本的にはディフェンダーの位置なんだけど、商品の時などはゴール前まで出て

クライアントの意向を汲んでシュートしなきゃいけない時もある。

 

助監督に色々任せてやっているけど、助監督も任されたら困る領域もある。

その辺りの出と引きを、自分でコントロールしながらやらなければいけないのです。

 

現場の仕切りを助監督に任せたとしても、大元のプロダクションマネージャーが

しっかりしていないと撮影の時間がオシていきます。

時間はお金に直結しています。時間でギャラを払っているからです。仕入れ値が上がる。

だからといってヒステリックに巻けばいいというわけでもありません。

変な作品が出来ちゃうからです。バランスがある。

 

僕がプロダクションマネージャーをやっていた時に心掛けていたことは

撮影の現場のリズムを作る。という事でした。

 

CMに限っていうと、監督もカメラマンも現場で最初のカットを撮る時

セットの中でライティングが済んで、衣装を着てメイクしたタレントが入り

つまり、撮影の具体的なことが全て揃った状態でモニターを見る時、

あれ?思ってたのと違うなあ。という事がよくあります。

そういう時に、元気に「はい行きましょう!本番」とかいうとぶち壊しに

なります。最初からうまくはまることもあります。

 

そういう監督の気持ちやカメラマンの気持ちを汲んで、納得してやってもらっているか

考えながら口を出したり出さなかったりする。

撮影の立ち上がりの部分。そこには時間をかけるつもりで立ち会う。

 

そして、徐々にテンポを上げて行くんだけど、撮影の途中に空白の時間ができている

事が実は多い。

監督が納得して、本番行きたいんだけど、なんだかみんな黙っている。

カメラマンも準備okなんだけど、監督が悩んでいるんじゃないかと黙っている。

そうやってお見合いしている状況が、プロデューサーから「何待ち?」って声がかかるまで

はっきりしない事があるのだ。

僕はその状況が虫唾が走るくらい嫌いだった。

なんだよ時間を無駄にしちゃったっじゃねえか。と。

 

そこを解消するにはプロダクションマネージャーが細かく状況を把握する必要がある。

監督が腹を括ったか?撮影部が何かを調整しているのか?照明部はどうだ?

メイクさんがカメラ前に入りたがっていないか?場の中心にいて、みんなと会話しながら

少し急かしながら、各所の状況を把握する。

 

そして行けるんじゃないかと思ったら、少し早めに「はい行きましょう!」と

明るく能天気に大声で声をかける。それを撮影中にずっとやる。という覚悟が必要だった。

気を抜かず、的を得たことをいいタイミングで口にする。

 

誰かがやってくれた場合、例えば助監督がいいタイミングで本番を促した時は必ず受ける。

大声で返事する。人の良い指示が空を切らないようにする。

ぽんぽん行きましょうぽんぽん。とみんなを早いテンポに巻き込むんだ。

 

何かトラブルが起きたり変更があったり、そういう時は何が起きているのか

みんなに共有する。クライアントにも代理店にも監督にもスタッフにも

ちゃんとわかるように説明する。

なぜ撮影が止まっているのかわからない空白をぜんぶつぶす。

 

問題がありそうだったり危険そうだったりしたら迷わずストップする。

 

くだらないことは言わなくていいけど、大事なことは大声でみんなに知らせる。

それをやるだけで撮影の時間は大幅に縮小されるのだ。

 

ちゃんと仕切るってそういうことだ。

助監督に任せているのはあくまでも演出家と演者、カメラの周りのことであって、

クライアントやCD(クリエイティブ・ディレクター)の要望や、問題の解決や各ベンダーへの支払いの額のことではない。

そこを忘れてスタジオの端っこで、「別件が急ぎで」とか言ってメール打ってる場合ではない。

試合中に別の試合の心配はしないよね。と。

 

心なく、「本番」と「カット」をおうむ返ししてやってるふりをしてはいけない。

スタッフにはそのプロダクションマネージャーがちゃんとやれてるかどうかはすぐにバレる。

スタッフは、ちゃんとやれてないやつのギャラ交渉には応じてくれないのも事実である。

そんなできない奴と仲良くしても将来いいことないと判断されるからだ。

そして仕入れ値は下がらない。

 

時間をお金に換算するのが仕事なら、そこに時間がかからないように仕向けるのは当たり前。

プロダクションマネージャーの仕事である。

そのやり方が、気の利いたやり取りの中で生まれてほしいと願うばかりである。

面白がってやれた方がいい。

 

最近参加した撮影で、プロダクションマネージャーが「ではホンバン行っきまーす」

「つぎーいってもーよろしいでしょうかっ」とクラブのDJ風に言い続ける奴がいた。

そいつが声を出すたびに笑いが起き、何か言うことを期待してしまい、結果、ポンポン

現場が進んだ。撮影が終わってその子と話をしたら、ものすごいシャイな子だった。

自分のシャイさをそうやって克服しているのだ。大したもんだと思った。

 

そうやって仕切りが気持ち良く出来るようになった頃、「お前、この仕事やらないか?」と

お客さんから声がかかるようになってくる物だ。そしたら晴れてプロデューサーに昇格である。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

日本中のクリエイターを応援するメディアクリエイターズステーションをフォロー!

TOP