映像2023.03.22

「僕の引越し物語・前篇」

第91話
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
Akira Kadota
門田 陽

引っ越しを計画中。というわけで今月はずいぶん多くの物件を見てまわりました。僕の条件はわりとシンプルだと思います。そんなに環境を変えたくはないので今の住まいの近くか沿線で広さは今より狭くならなければ多少古くても大丈夫。最近の治安を考えると1階は不可。できれば3階以上を希望。家賃は現状維持かやや高くなっても仕方ない、とこんな所です。

知り合いから家のそばの不動産屋さんを紹介してもらいました。担当になってくれたKさんは40代の脂がのったいい感じの方で対応が捌けています。条件を話すと一日だけ時間をくださいと言われ、翌日同行で候補物件を一気に見にいきました。

最初の数件は可もなく不可もなし。築浅で広さも家賃も今と同様ですがこれと言って特徴もなくなんかピンときません。「もう少しクセがあってもいいです」と伝えると、待ってましたとばかりに「築が古くてよければ広くて面白いのがいくつかありますよ、行ってみましょう」とまず見たのが大きな鏡が備え付けの部屋。床のデザインも独特(※写真①)です。

※写真①

ダンサーとかが住むのかな。続いて広さは充分すぎるけど収納がない部屋(※写真②)。

※写真②
※写真③

さらに四方をビルに囲まれ一日中陽が当たらない部屋(※写真③)などを見た後の4件目!

第一印象は「おっ、いい物件かも!」でした。今住んでいる部屋よりも広いですし収納も充実、駅にも近くコンビニやスーパーもそばにあります。築年数は古め(築40年)ですが最近リフォームされていて特にお風呂がきれいなのも好印象(※写真④)。

※写真④

ここまで一緒に内見をしてきて親しくなりつつあるKさんともニコッと目が合います。これで決まりかなと思ったときにふと、トイレはどこかな?と思いKさんに聞きました。二人で見渡しますが見当たりません。Kさんが図面を見ながら「え~、ウソだろ!」と玄関に向かいます。そして玄関から外に出てすぐに「あ~~ありました~」と素っ頓狂な声がしました。トイレは玄関の外(※写真⑤)。

※写真⑤

「ふつうじゃないですよね?」とKさんに尋ねると「はい。ふつうじゃないです。前にお店でもやっていたのかな。そんな風には思えないし、書いてないもんなぁ」と怪訝な様子。僕もその手の変な間取りの本を読むのは大好物(最近はベストセラーにもなっていますよね)ですが、実際に自分が住むとなると笑ってはいられません。結局そこも含めてそのあと3日間で10件ほど見ましたが決まらず一旦仕切り直し。

そもそもなぜ引っ越すことになったのか。僕は根っからの不精ですし今住んでいる所は駅も近く(有楽町線新富町駅徒歩1分)ご近所のお店とも仲良くさせてもらっていますし不満はないです。終の棲家でも構わないと思っていたのですがそんな中。先月末(2023年2月28日)で勤めていた会社(電通)を退社(もちろん円満に)して独立することにしました。そこでその旨を大家さんに相談したところ、事務所を兼ねての使用は困るとのこと。いやいやいや、今だって仕事の大半はリモートですし、何も生活に変わりはないし迷惑はかけないと説明したのですが聞いた以上は難しいと言われ揉めるのがイヤになって、それならいっそ引っ越そうということになったのです。

さてその後、物件探しの結末について。夜中に偶然ネットで良さげなのを見つけたことをKさんに伝えたところ「それはうちでは扱っていないので遠慮なくそちらに連絡してください」と言われたので渋々新しい不動産屋さんに行きました。そこで登場したのが全ての会話の頭に「本当っすか」を付ける嘘みたいにチャラくて若い上下黒ずくめのロン毛のH君。彼が僕の担当だそうです。2000年生まれの入社1年目。「お客さんがネットで見られた物件はまだ内見ができなくて、これとかどーですか?」と見せられたのが今の部屋から遠く離れた台東区のまるでノーマークな場所。家賃も高いうえに築60年の物件。あり得ないと思ったのですが、「リフォーム仕立てできれいですし、駅も近いし見に行きましょうよ」と彼の口車で社用車に乗せられます。車内では彼も会話に困ったのでしょう。「血液型、何型ですか?」と聞かれ「O型です」と答えると「本当っすか、見えないですよ」とまるで不毛なひととき。

しかし結果H君の案内で行ったその築60年の物件が気に入りその場でここと決めました。僕と同じ年齢の建物に妙な縁を感じてしまい、大きな欠点(4階の部屋まで階段)があるのですが、あばたもえくぼということで即決。その旨をH君に伝えると「本当っすか、僕も住みたいと思いましたもん」と憎めない返答。このあと彼との付き合いも面白いことになりそうです。

ところで、引越しとかけて旅行とときます。
その心はどちらも計画を立てているときが一番楽しい、という話はまたの機会に。

プロフィール
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター
門田 陽
クリエーティブ・ディレクター/コピーライター 1963年福岡市生まれ。 福岡大学人文学部卒業後、(株)西鉄エージェンシー、(株)仲畑広告制作所、(株)電通九州、(株)電通を経て2023年4月より独立。 TCC新人賞、TCC審査委委員長賞、FCC最高賞、ACC金賞、広告電通賞他多数受賞。2015年より福岡大学広報戦略アドバイザーも務める。 趣味は、落語鑑賞と相撲観戦。チャームポイントは、くっきりとしたほうれい線。

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