職種その他2013.09.11

ウィキッド・マジック! Hackney WickED Art Festival 2013

London Art Trail Vol.15
London Art Trail 笠原みゆき

アーチストの占める割合の世界で最も高い地域はどこ?答えはHackney Wick。東ロンドンのタワーハムレット区とハックニー区の境にまたがるこの地域には624のスタジオが建ち並び、*その7分の1はアート関係だそう。 *(英国A-N The artists information companyの調査による) そのハックニー・ウィックで2008年から行なわれているアートフェスティバル、 Hackney WickED Art Festival(入場料無料)に行ってきました。

元々はThe Lord Napierというパブリック・ハウスだった建物

元々はThe Lord Napierというパブリック・ハウスだった建物

ハックニー・ウィック駅を出るとまず目に入るのがこのパステル画のような建物The Lord Napier。数年前までは不法入居していたアーチスト達のスタジオ兼イヴェント会場だったこの元パブも今ではもう記念碑のよう。

Schwartz Gallery

Schwartz Gallery

どの通りでもイヴェントが行なわれていて大変な人ごみ。その中をくくり抜け訪れたのはSchwartz Galleryです。 作家のオープンスタジオに行くとつい仕上がった作品よりその辺にゴロゴロしている材料や未完成の作品などに目がいってしまうことがあります。フェスティバル期間中オープン・スタジオも多いなか、ギャラリーの企画はそんな人の心理をついたような"最終作品とアーチストのスタジオにある素材との境界とは?"をテーマにした展示。

Forman's Smokehouse Gallery

Forman's Smokehouse Gallery

次は橋を渡り運河の向こう側へ。宇宙ステーションのようなこの空間は1905年創業の老舗スモークサーモン専門店H.Forman & Sonの現代美術ギャラリー、Forman's Smokehouse Gallery。オリンピックスタジアムが間近に眺められるこの建物の下の階にはレストランも。展示はハックニー・ウィックを拠点とするElevator Galleryの企画グループ展“The Tomorrow People”。中央左、Fantich&Youngの色とりどりの競技メダルのリボンで装飾され、 競技用の槍の刺さった跳馬を用いた作品“Mascot”はふとお盆の際キュウリや茄子で作る精霊馬が巨大化した姿を思い起こさせました。

©Fear of Fluffing

©Fear of Fluffing

また駅周辺に戻りQueens Yardという広場へ行ってみると、かわいいようなかわいくないような被りものをした3人組のアーチスト・バンド“Fear of Fluffing”が演奏中。よく見ると彼らの小さなステージには車輪がついていて可動式。別の場所でも観たという友人の目撃証言からもあちこち移動しながら演奏している様子。

"Rain" ©Hitomi Kammai

"Rain" ©Hitomi Kammai

広場の隣のGlass Factoryでは日本人のアーチスト、Hitomi Kammaiによる “Rain”というライブ・ペインティングが行なわれていました。白い発泡スチロールのキャンバスには電子センサーが取り付けられていて液体がキャンバス上に落ちると音を作り出す仕組み。始めは小さな筆から落ちる透明なしずくも次第にどす黒くなっていき最後にはKammaiが放射線防護服のようなものを来て墨色のモップで画面を覆うパフォーマンス。

最後は同じくGlass Factoryで行なわれた“Sculpture”(ミュージシャンDan HayhurstとアニメーターReuben Sutherland)のライブ。 Hayhurstはアナログなカセットテープとハイテクなサイバネティック・エレクトリックを用いたDJ(カセットテープはその都度のびちゃいます)、Sutherlandは音楽に合わせ万華鏡のように円周上に配置されたポップアートから装飾パターン、コッミク漫画、機械やデジタルアニメーションに至るイメージを手作業で組み合わせ次々と投影していきます。その作業はまるで19世紀の英国で大流行したMagic Lantern(幻灯機)の上映を彷彿させました。



©Sculpture *下記のビデオはフェスティバル当日のものではありません。

アーチィスト達が始めた小さなフェスティバルだった2008年はその動員数が500人だったのに対し、2011年には40,000人に膨れ上がったといいます。真隣にオリンピックスタジアムを望み、オリンピック期間中はメディアセンターが置かれたため、警備費がかかりすぎるということもあり、昨年のフェスティバルは中止に追い込まれました。オリンピックの開発による大手ディベロッパーの参入で巨大な資本が流れ込み劇的な変化を遂げたのも事実ですが、その一方で急激な地価の高騰、スペース不足によって多くのアーチィスト達がこの地を離れたのもまた事実です。

ちなみに、Hackney WickEDの"Wicked"の語源は"Witch"(魔法使い)からきています。Witchを形容詞化したもので、通常の意味では不道徳な、意地悪な、とてもひどいといったように、良い意味はないのですが、反対に俗語や口語では、めちゃくちゃすごい、最高に素晴らしいといったポジティブな意味を持ちます。

アーチィスト達がかけた魔法はいつまで続くのか。資金不足のため来年からはオリンピック・レガシー予算で国が始めた有料のOpen East Festivalに取り込まれることになるようですが、今後の動向を見守っていきたいと思います。

Profile of 笠原みゆき(アーチスト)

笠原みゆき

©Jenny Matthews

2007年からフリーランスのアーチストとしてショーディッチ・トラスト、ハックニー・カウンシル、ワンズワース・カウンシルなどロンドンの自治体からの委託を受け地元住民参加型のアートを制作しつつ、個人のプロジェクトをヨーロッパ各地で展開中。
Royal College of Art 卒。東ロンドン・ハックニー区在住。

ウェブサイト:www.miyukikasahara.com

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