真面目にやればいいってもんじゃないんですよね

Vol.178
CMプロデューサー
Hikaru Sakuragi
櫻木 光

僕の部下に、もう相当ベテランで経験豊富な制作部スタッフがいます。

制作部仕事が好きで、プロデューサーになるという選択をせず

プロダクションマネージャーの下働きをもう20年以上やっている。

現場の経験も豊富で、知識もあり、やることは正確で真面目。

 

だけど、一緒に仕事していたり、遠巻きに見てたりするとなんだか仕事が

うまく行っていないように見える。

一生懸命やっているのによく怒られてるし、楽しくないんじゃないかなあと

心配になってくるんだけど、呼んで話すとそうでもないみたい。

 

実はプロデューサー最年長の僕とその人は歳も近いし、親近感もあって

頑張って、仕事でいい目にあったり評価されたり嬉しいことがあって欲しいと

本当に思うのだけど、大きなお世話かもしれないなあとも思う。

 

その人は、一言で言うと要領が悪い。

 

プロダクションマネージャーには実は要領の悪い人が多い。

自分もそうだったのです。

 

CMや動画業界でのプロダクションマネージャーとその後のプロデューサー

と言う職種は、なんか特別に、カメラを扱うとか演出をするとか、光を当てる

と言うような技術がありません。職人ではない。

だから、なんか偉大な師匠みたいな人もいないし、技術の伝承もないんです。

やっていることは連絡係、原価の計算、場の準備と後片付け。です。

やることが明確ではなく何でも屋的なところからスタートするので、

何をどうしていいかのセオリーもない。

強いて言うならば「主婦」

いないとめちゃくちゃ困るけど、なんとなく大したことはしていない的なみられ方。

お母さん。です。プロダクションマネージャーは。

 

免許があるわけでもないし試験があるわけでもないので

成り行きで時間が過ぎちゃってふと気づくと後戻りできなくなってる場合が

多いです。

だから要領の悪い人の場合は、もうすっかり専業主婦が板について

「もう、雑巾持ってかなきゃいけないっていったじゃない!」

と子供から責められるお母さんのような扱いをスタッフからされます。

 

そのベテランプロマネのどこが悪いんだか、からかったふりして指摘する余地はないか

少し気をつけて眺めていました。

 

まず、その人からくるメールは重要なことはちゃんと書いてあるんだけど

真面目過ぎて面白くない、読みたくない文章だと言うことがわかりました。

すごくちゃんとしているんですけどね。ぱっと見読みづらくて飛ばしちゃう感じ。

 

で、伝わってないことが多く、いろんな人が現場で「え?そうなの?」 ってなってるケースが多いんです。

「早くいってよー」「メールには書いてます」と言うやりとりが多い。無駄です。

 

なんかね、これ、日本の学校の教育が悪いんだと思いますが

ひたすら真面目にやることを追及させて、他人をちゃんと喜ばせながら

物事を進行させる。と言うことを教えていないから、みんなコミュニケーションに

苦痛を感じるようになっている。と言うことのいい例だと思うのです。

 

学校で習った通りやってるのに伝わらない。ちゃんといってるのに聞いてもらえない。

そういうことが積み重なって、調子のいい冗談ばっかりいってるふざけた奴が

人気が出て、こんなに真面目にやっている僕は怒られてる。

これじゃ嫌にもなりますよ。

 

職人や技術職なら人付き合いが良かろうが悪かろうが、

作るもので勝負できるでしょうけど、ぼくら制作部というのはどっちかというと

営業職なんですよね。すいすいと泳ぎ渡る技術が必要なんですけど、

それが苦手な人間が集まってきてどんどん入れ替わっていく。

 

先輩として後輩にこの仕事で教えられるとしたら

「他人を喜ばせ」ということに尽きると思います。

メール一個書くにしても、弁当一つ買ってくるにしても、どうやったら

目の前の人が喜んでくれるのか?をいつも気にかけて暮らしていたら

突破口は見えてくると思うんです。

 

真面目にやってるけどうまくいかないひとは本当にもったいない。

それはなんでもかんでも真面目にやればいいってもんじゃないからです。

要領の悪い人は自分のことで精一杯なんですね。変にカッコつけたりね。

他人のことを喜ばせようと工夫をすると要領の悪さから抜け出せる気がするんです。

プロフィール
CMプロデューサー
櫻木 光
プロデューサーと言ってもいろんなタイプがいると思いますが、矢面に立つのは当たり前と仕事をしていたら、ついたあだ名が「番長」でした。

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