ゴールデンカムイの謎 その21 傷モノ毛皮に籠る、和人猟師の罪

北海道
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

孤高のマタギ・二瓶鉄造は
機転で悪徳猟師を追い詰めた

ゴールデンカムイ3巻26話。

 

画像はamazonから

山中の仮小屋で夜を明かすアシㇼパと杉元は、「二瓶鉄造」なる孤高の猟師の話をしている。その折、アシㇼパは、自身の父親の体験を語る。

 猟師を殺して獲物を奪う悪党がいた。アシㇼパが父に連れられ狩りに赴いた折もそやつらに襲われた。だがアシㇼパの父はとっさに逃げのびた。解体中の熊の皮に、すばやく傷をつけた上で。

後日、アシㇼパの父は毛皮商の元を訪れる。商品の中に熊の毛皮があった。いつぞや自分が傷をつけた毛皮が…そこから足が付き、悪党は捕らえられた。だが悪党は一網打尽とはいかず、いまだ3人が野放しの状態。

彼らは次の獲物を求めていた。

 それが、孤高のマタギ・二瓶鉄造だった…

 結果、哀れな?3人の悪党は一人ずつ処分されることになるのだが…

熊を求め白オオカミ我が物にせんとする二瓶、それだけ、のために脱獄した入れ墨人皮猟師・二瓶の熱すぎる生きざま。滅びゆくエゾオオカミの運命…

それが、この巻の主題であろう。

「皮に傷をつける」は、実際のエピソード
和人猟師の卑劣な罪のありさま

 このエピソードは、実際の出来事が基になっている。二瓶なる猟師が実在の人物である、という意味ではない。
その前段、「傷のある毛皮」の一件が事実なのである。

 明治後期、旭川郊外は近文コタンの長の家系に生まれたアイヌ女性、砂沢クラさん。昭和57年より、北海道新聞夕刊に連載された彼女の一代記は、『ク スクッㇷ゚ オルシペ - 私の一代の話』として単行本にまとめられた。

「ゴールデンカムイ」の参考文献の一つである。

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 砂沢クラさんの父方の祖父であるモノクテエカシ(「エカシ」は祖父、長老の意味)。その長男、クラさんから見れば伯父に当たる人物は足が速かった。狩りに出て熊に追われるが、咄嗟に崖際の木に抱きついて昇り逃れた。だが勢い余った熊は崖下に転落し…そのエピソード故、長男はシトゥンパッㇰアイヌ(熊より足が速い人)と称された。

 そのシトゥンパッㇰアイヌが一人で日本海沿岸、現在の増毛(ましけ)町付近の山林に分け入って熊を狩り、さっそく皮を剥いでいた時のこと。彼方で銃がダァンと鳴り、彼の傍らをヒュン!と弾が飛ぶ。

シトゥンパッㇰアイヌは悟った。「狙われた!」

 実はその当時、増毛近郊の山林には不穏なうわさが流れていた。

 「アイヌを殺して毛皮を奪う和人がいる」

 シトゥンパッㇰアイヌはとっさに逃げた。
だが逃げる前に狩った熊の毛皮にあえて「傷」をつけた。

 そのまま下山した彼は、後日、留萌(るもい)の街の毛皮商をくまなく訪ねた。そしてついに「はちまる」なる毛皮商で、件の「傷モノの熊皮」を発見する。だが店の主人は毛皮の入手経路を濁すばかり。たまりかねた彼は警察に届け出、こうして和人の三人組が捕らえられた。

 クラさんは、逸話をこう結ぶ。

 私も結婚後は毎年、夫と山に入り、山の小屋で一人で留守番しましたが、熊を怖いと思ったことはありません。人間のほうが、ずっと恐ろしかったのです。

 

開拓によって「開け行く北の大地」
だが開発はアイヌへの痛みを伴っていた。

 狩り場を奪われ、わずかな毛皮のために命まで狙われる。

真に辛い逸話である。

 

※参考文献 『ク スクッㇷ゚ オルシペ-私の一代の話』砂沢クラ 福武文庫 1990年

文中の太字は、参考文献からの抜き書きです

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドアや北海道の歴史文化を中心に執筆。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)、執筆協力に『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。現在、雑誌『時空旅人』に記事を執筆中。

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