「もしも」から始まる新たな世界、ミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

舞台写真撮影・二階堂健

 

男性として知られるヒーローや歴史上の人物が「もし本当は女性だったとしたら」と設定してみると、面白いことが起きる。

男性しか継げなかった王位を継ぐために王子として育てられた主人公の王女サファイアの活躍を描く、宝塚歌劇の影響が強い、手塚治虫の少女向け漫画「リボンの騎士」(1953~56年連載)や、新選組の剣の遣い手、沖田総司の正体は実は女性で、土方歳三に胸を焦がし坂本龍馬に言い寄られるという奇想天外なつかこうへいの小説(88年発刊)・戯曲(89年初演)「幕末純情伝」など、この「もしも」から始まる発想はエンターテインメント各ジャンルで名作を生み出している。90年代には、91年に音楽座ミュージカルが福山庸治の漫画を原作にミュージカル化して初演し、絶賛を浴びた「マドモアゼル・モーツァルト」がある。なんとモーツァルトが実は女性だったという物語なのだ。初演からいきなり注目を集めたこの作品が、今年2026年、東京など全国各地で上演され、大きな話題を呼んだ。

漫画「マドモアゼル・モーツァルト」は1989~90年に福山が漫画誌で連載。その斬新なストーリーに目を付けた音楽座ミュージカルがミュージカル化に乗り出し、当時、多くのヒット曲を生み出した音楽ユニット「TMNETWORK」とは別にソロとしても活動を活発化させ、ドラマや映画などの音楽も担当するなど、さらなるステップアップに向けて自身の音楽を模索していた小室哲哉にミュージカル音楽の一部を託したことで、大きな反響を呼ぶ初演となった。その後も再演され、音楽座ミュージカルが94年に第28回紀伊國屋演劇賞・団体賞を受賞する評価の一助ともなった。

今回の再演では、小室による新曲も実現している。

18世紀末のオーストリア・ザルツブルク。宮廷楽士のレオポルト・モーツァルトには2人の娘がいたが、ある日次女エリーザが、即興で作った音楽を鍵盤楽器を弾いて演奏し、レオポルトはエリーザに天才的な才能を見出すが、当時の社会では女性の作曲家は認められないため、男性(息子)として育てることを決意する。

「神童」と呼ばれるまでに成長したエリーザあらためヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、ウィーンに移り住み、実家から独立。モーツァルトの女性と見まごうほどの柔肌の魅力に惹かれる奇妙な感情と才能への嫉妬に襲われる女好きの宮廷作曲家、サリエリらとの交流も始まる。

モーツァルトはさまざまな演奏会に呼ばれ、高い演奏力に加えて、それまでの常識を打ち破るような斬新な曲を次々と生み出す作曲力が話題となって、名声を高めていた。ウィーンで借りていた住まいの大家はそんなモーツァルトの名声に目を付け、娘のコンスタンツェと結婚させることに成功。モーツァルトとコンスタンツェは、すべての秘密が露呈しかねない運命の「初夜」を迎えることになるが…。

物語は、夫の重大な秘密を抱えてしまった動揺と迷路に入り込んでしまったコンスタンツェの苦悩や、心がちぎれるようなサリエリの煩悶など、モーツァルト以外の登場人物の感情にも配慮しながら丁寧に描いているのが印象的だ。世間に見えている部分は史実に大きく外れることはない。それが物語にもっともらしさを与えている。

音楽面をみていくと、モーツァルトの楽曲を魅力的に散りばめ、そこに小室の楽曲が絡んでいく様は期待感を高め。新曲の「NEW WAVE」は詞・曲共に、新しい時代に動き出そうとする空気感を見事に表現していて聴きごたえがある。

モーツァルトら登場人物の感情を抽象的に表現するコンテンポラリーな身体表現とバレエを採り入れた舞い、さらにはロック調の楽曲では現代的な感覚をベースにしたダンスが物語に映えるのも特徴的だ。前回公演からタッグを組むKAORIaliveのセンスが活きている。

音楽座ミュージカルは結成以来ずっと「日本発のオリジナルミュージカルの創作」を目指して活動してきた。その武器は「総合力」であるとよく言われるが、俳優の熱演やこうした振付、音楽などが混然一体となって作品の力を増幅させ、ワームホールプロジェクト(音楽座ミュージカル独自の制作メソッド。代表が中心となってクリエイティブスタッフ、俳優らが全員でイメージをぶつけ合う)と相川タローによる演出がそれらを一つにまとめていく。「マドモアゼル・モーツァルト」を観ていると、そのことがよく分かる。

今年秋には小室が新たに楽曲提供する音楽座ミュージカルの新作「カイブツはささやく」も上演される。このカンパニーに対する世間の注目はますます熱いものになっていくことは間違いない。

ミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」は、2026年5月24日の東京都町田市でのホームタウンプレビュー公演の後、7月に大阪、名古屋、広島の各市で開かれ、7月23~26日に東京・水道橋のIMMシアターで上演された。公演はすべて終了しています。

写真はミュージカル「マドモアゼル・モーツァルト」の一場面。中央がモーツァルト(舞台写真撮影・二階堂健)

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した31年間のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。2014年にエンタメ批評家・インタビュアー、ライター、編集者として独立し、ウェブ・雑誌・週刊誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・食・メディア広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーや、ミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築支援、公式ガイドブック編集、メディア向けリリース執筆、イベント司会・ナビゲート、作品審査(ミュージカル・ベストテン)・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、メディア戦略や広報戦略、文章表現のコンサルティングも。日本レコード大賞、上方漫才大賞ATPテレビ記者賞、FNSドキュメンタリー大賞の元審査員。活動拠点は東京・代官山。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に26回、「先月最も多く読まれた記事」に5回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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