携帯電話と劇場の悩ましい関係、鳴り響く着信音防止にあの手この手

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 昨年、映画館でのスマートフォンいじりが問題化したが、2000年代から「いじり」より深刻な「静かなシーンで大音響」を招く電源切り忘れ問題と戦って来た演劇界で、昨年秋以降、論議が再燃している。

 昨年ある若手実力派俳優の舞台公演で、公演中にスマホや携帯電話の呼び出し音が鳴る出来事が相次いだのだ。呼びかけを強化して混乱は収まった。観劇が初体験だった人が多かったことが原因だった。

 人が密集した暗い空間の中で観客の想像力を喚起して物語にどっぷり没入してもらうために演劇には仕掛けがあり、観客が守るべき制約も多い。静寂を保つことは最も大切なマナー。何より着信音はお目当ての俳優を一番悲しませる。自覚だけに任せるのではなく、大人が教えなくてはならないのだ。

 本編の前にわざと着信音が鳴り響く迫真の小芝居を演じ、観客をドキッとさせてから電源を切らせたり、カーテンコールで撮影可能時間があることを開演前に強調して「でも今は切りましょう」とスマホに注意を向けたり、制作側は様々に注意喚起をしてきた。電波抑制装置を設置して通信を遮断する方法も効果を上げているが、結局は人の心に訴えるしかないのがこの問題の難しいところ。

 若者のマナーだけが問題なのではない。芝居前おしゃべりに夢中になって自分が劇場に居ることを失念している淑女や紳士もいる。何よりも「ここでしか観られないものを私は観ている。自分はいま、特別な空間に居る」という思いになることこそがマナーに気付くために最も大事なことなのだ。だってあこがれのあの人が今目の前で演じているんだから。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター
阪 清和
共同通信社で記者だった30年のうち20年は文化部でエンタメ分野を幅広く担当。2014年にフリーランスのエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体などで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アートに関する批評・インタビュー・ニュース・コラムなどを幅広く執筆中です。パンフレット編集やイベント司会も。今春以降は全国の新聞で最新流行を追う記事を展開。活動拠点は渋谷。

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