活かせるか演劇ならではの創造性、「キングダム」「SPY×FAMILY」と相次ぐ舞台化

東京
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
これだから演劇鑑賞はやめられない
阪 清和

 2022年もあともう少し。毎年この時期になると、翌年の演目のラインナップが気になってくるが、来年2023年は明確な特徴がある。それは「超話題作漫画の舞台化ラッシュ」の年であるということだ。いやもちろん、アニメ作品の舞台化など、2.5次元ミュージカル全盛の今、珍しいことでもなんでもない。しかし来年の場合、人気が世界規模の超ド級の話題作の舞台が多いということが注目点なのである。

 まず来年2月には、春秋戦国時代の中国で、統一国家の大将軍を目指す少年と後に始皇帝となる若き王がタッグを組み、天下統一を目指す大ヒット漫画「キングダム」の舞台化作品が東京・丸の内の帝国劇場で上演されるのをはじめ、3月にはスパイと殺し屋と人の心を読み取れる超能力者の少女が「家族」を装いながら、自らの使命を果たそうと奮闘する姿を描いた大人気漫画「SPY×FAMILY」のミュージカルが同じく帝国劇場で上演される。

 両作品を製作する東宝は、今年のジブリアニメ原作の「千と千尋の神隠し」やヒット漫画原作の「四月は君の嘘」の成功の勢いをかって、「キングダム」「SPY×FAMILY」だけでなく、社会現象を起こしたあの「のだめカンタービレ」のミュージカルを2023年秋に上演することを決めている。

 東宝ではないが今年早くも再演が実現した「フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~」への高い評価も注目を集めた。劇団四季の「バケモノの子」もレベルが高い。絵本やオリジナルアニメなど純粋には漫画と言えないものも含めれば舞台化された数は驚くほど多い。

 

 かつては、こうした作品は「舞台のファンに加えて原作漫画やアニメ、実写映画のファンも動員できる」といったマーケティング上のメリットを狙った考え方が主流だったが、これだけのインターネット社会では情報が広がりやすい反面、原作のファンからの失望感や、キャスティングへの不満、一般大衆が騒ぐことによる演劇ファンの離反などリスク面も多く抱えるため、決してメリットだけではない。

 それでも次々と漫画・アニメ原作の舞台が誕生するのは、2.5次元ミュージカルや、舞台への進出が相次いでいる若手俳優らの活躍で、若者たちが劇場で観る楽しさを知り始めたことがある。

 加えて、演劇製作側も、照明など従来の舞台技術だけではなく、プロジェクションマッピングや高度な映像技術、マペットやパペットなどを駆使した多彩な表現、スケールの大きなセットなど、漫画・アニメの世界を再現あるいは拡張する技術を持つようになったことも大きい。

 こうした工夫によって舞台で感動は「立体化」し、観客の胸を高鳴らせる。しかもキャラクターを演じているあこがれの俳優は生身で目の前にいるのだ。

 

 既に準備が進んでいる舞台「キングダム」では、主役「信」に三浦宏規と高野洸が、信の親友、漂と後に始皇帝となる若き王の2役に小関裕太・牧島輝が抜擢された。

 三浦は舞台「千と千尋の神隠し」でハク役を熱演し、ダンスユニット出身の高野は「ヒプノシスマイク」で主演するなど大活躍中。小関は今年初演にして早くも名作との評判が高い舞台「四月は君の嘘」で主演、牧島は大人気の「刀剣乱舞」をまだ現役として支える、いずれも若手のホープで、それぞれに10~20代を中心としたファンが付いているため、舞台「キングダム」は帝劇ファン、中国戦国時代ファン、漫画ファンと共に入り乱れて幅広い世代から注目を集めそうだ。三浦は既に「千と千尋の神隠し」で帝劇を経験済みだが、高野は帝劇初出演で初主役という快挙。女優では橋本環奈が達成済みだが、男優では堂本光一ら8人のみという希少ぶりだ。

 一方、ミュージカル「SPY×FAMILY」は、スパイである夫、ロイドに、映画界からすい星のごとく現れたミャンマー生まれの森崎ウィンと、漫画を映画化した作品が原作の舞台「アルキメデスの大戦」の主演で冴えを見せたばかりの鈴木拡樹がWキャストで起用された。妻で殺し屋のヨルには日向坂46の佐々木美玲とミュージカルの人気女優、唯月ふうかがキャスティングされた。

 注目のアーニャには、誰が選ばれるのか。今年4月にオーディションが開かれているが、その後の情報は皆無。漫画やアニメではアーニャの愛くるしさが炸裂し、社会現象寸前にまで沸騰している。

 

 「キングダム」はビジネス的記事での引用も多く、男の生きざまのバイブルとしても人気が上昇中で、最初はアニ萌感が強かった「SPY×FAMILY」もコメディー要素や意外と真面目な社会情勢の分析などがうけ、あっと驚く家族愛の物語としても完成度が高いため、単に若者向けの作品というだけには終わらない魅力を持っている。「のだめカンタービレ」も含め、3つの作品は2023年にどんな姿で私たちの前に現れるのか。演劇ならではの創造性をどう活かせるのか、がぜん楽しみになって来た。

 

 舞台「キングダム」は2023年2月5~27日に東京・丸の内の帝国劇場で、3月12~19日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、4月2~27日に福岡市の博多座で、5月6~11日に札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruで上演される。

 ミュージカル「SPY×FAMILY」は2023年3月8~29日に東京・丸の内の帝国劇場で、4月11~16日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホールで、5月3~21日に福岡市の博多座で上演される。

プロフィール
エンタメ批評家・インタビュアー・ライター・MC
阪 清和
共同通信社で記者として従事した30年のうち約18年は文化部でエンタメ各分野を幅広く担当。円満退社後の2014年にエンタメ批評家として独立し、ウェブ・雑誌・パンフレット・ガイドブック・広告媒体・新聞・テレビ・ラジオなどで映画・演劇・ドラマ・音楽・漫画・アート・旅・広報戦略に関する批評・インタビュー・ニュース・コラム・解説などを執筆中です。雑誌・新聞などの出版物でのコメンタリーやミュージカルなどエンタメ全般に関するテレビなどでのコメント出演、パンフ編集、大手メディアの番組データベース構築、メディア向けリリース執筆、イベント司会、作品審査・優秀作品選出も手掛け、一般企業のプレスリリース執筆や顧客インタビュー、広報アドバイスや文章コンサルティングも。音声YouTubeは準備中。活動拠点は渋谷・道玄坂。Facebookページはフォロワー1万人。noteでは「先週最も多く読まれた記事」に16回選出。ほぼ毎日数回更新のブログはこちら(http://blog.livedoor.jp/andyhouse777/)。noteの専用ページ「阪 清和 note」は(https://note.com/sevenhearts)

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