「肉」「にく」は本来の日本語ではなかった?

神奈川+
フリーライター
youichi tsunoda
角田陽一

「肉」の読み
「にく」は音読み?それとも訓読み?

肉 

 筋肉、ぜい肉、豚肉、鶏肉、高級和牛肉。
口に入れば楽しみとなり、栄養となり、
余分に体に取り込まれれば大いなる悩みとなる肉

 肉 にく ニク

 

 さて上記の文字は、そして言葉は元来の日本語ではない
そう言われれば意外に思われるだろうか

 肉、確かに「肉」の文字は漢字。
中国から伝来した文字だから「本来の日本語」とは言えないだろう。

 では読みはどうだろう

にく

これは訓読み、
本来の日本語を当てはめたものではないだろうか。

「肉」の読みは、北京語ではロウ
福建、台湾語ではバッ
対して日本語読みはニク。

ニクは本来の日本語ではないのだろうか
ふつうは思うだろう。

 

だが、これが大いなる誤り
ニク、は音読み
つまり中国語由来の言葉である。

 では肉の訓読みは?
答えは「シシ」である。

 

古代日本語で肉はシシ
琉球語に残るシシ

 大和言葉で肉はシシ
古語で肉体は「肉叢」(ししむら
ぜい肉は「余肉」(あまじし
肉付きは「肉置き」(ししおき

 日本本土から離れた沖縄の言葉には、
古代日本語の名残が多少残っている。

 古語で妻、奥さんは刀自(とじ)。
琉球語でもトジ

 古語で「美しい」は「きよら」。
琉球語ではチュラ

 古語で「いらっしゃい」は「参り候らえ」。
沖縄語でメンソーレ

 そして、肉は「シシ」。
豚肉は「わーぬしし」(豚の肉)。
牛肉は「うすぬしし」(牛の肉)。
市場の肉売り場は「ししまち」

 「もののけ姫」は
食肉の獣を人間が征服する物語

 一方で日本本土
「しし」が大陸起源の「にく」に駆逐された後でも、
動物の名前に名残をとどめた。

 日本の山野を駆け巡る野獣。
仏教伝来で殺生が禁じられる以前、
動物たちは貴重な「しし」を提供してくれる存在だった。

本州方面でメジャーな狩猟獣といえば猪に鹿。
だから「いのしし」。
一方で鹿は、古語では「かのしし

 仏教伝来以前、古代人の純粋な食欲が込められた名称と言えよう。

 かの名作宮崎アニメ「もののけ姫

 

なぜ鹿の姿に身をやつした鹿の神が「シシ神」なのか。
その訳をご理解いただけただろう。

 

もののけ姫は、鉄製品を求める人間と自然との闘い。
対する自然の側はシシ神にイノシシ

2重の意味で、人間が自然を征服する物語であったのだ。

 

 

 

プロフィール
フリーライター
角田陽一
1974年、北海道生まれ。2004年よりフリーライター。アウトドア、グルメ、北海道の歴史文化を中心に執筆中。著書に『図解アイヌ』(新紀元社 2018年)。執筆協力に『1時間でわかるアイヌの文化と歴史』(宝島社 2019年)、『アイヌの真実』(ベストセラーズ 2020年)など。  

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