九谷焼で表現する「園林」の儚さと透明感

金沢
ライター
いんぎらぁと 手仕事のまちから
しお

昨年末に金沢21世紀美術館でスタートした「アペルト13 高橋治希 園林」展を見てきた。

「アペルト」は金沢21世紀美術館が注目する作家を個展で紹介するシリーズで、今回は金沢出身の高橋治希さんをフィーチャーしている。

高橋さんは油画を専攻し、瀬戸内国際芸術祭や北アルプス国際芸術祭などでインスタレーション作品を出品している。

普段は古民家などを舞台に「風景」や「自然」を作品に含めて融合させることが多く、今回ホワイトキューブでさらに窓もない長方形の空間で展示することは、高橋さんにとって新しい取り組みだという。

展示室の入口を抜けると薄暗い空間に、「園林」というインスタレーション作品が広がっていた。

「園林」とは中国の庭園のことで、金沢市の姉妹都市・蘇州市の「蘇州古典園林」が代表的。…と、知った風に書いてみたが、実は高橋さんにお話を伺って初めて「園林」とは何かを知った。

高橋さん曰く「園林」は塀などで閉じられた屋外の空間に家族の生き方や人生、こういう風に生きたいという意識になぞらえて構築された庭だそうで、「小宇宙が園林の中にある」という。

無知なわたしがイメージする庭はもっとオープンで植物や季節の移り変わりを楽しむという認識だったので、閉鎖的で哲学的なメッセージを持つ庭というのがとても興味深かった。

高橋さんの作品は九谷焼でできた植物や昆虫や鳥、両生類と細い枝を組み合わせて、波打ち際から天までの園林を作り上げている。

波打ち際を表現した部分の高さは足をすくわれる感覚の12センチで、目を上げると山々が、そしてさらに最大3メートル60センチの天を見上げる高さへ、自らの体や視点を移動しながら作品を感じられる。

枝に輝く花や蕾をゆっくり眺めると、透明感と繊細さが美しかった。

高橋さんは花をデリケートに作るために「徳化窯(とっかよう)」の技術を学び、洋絵の具を用いたり釉薬で色付けしたりして透光性を高めているという。

高橋さんは「花の中にも世界があって、芽ができて花が咲き、しぼんで消えていく。形はあるがいつかは消えていく儚さを、透明感で表現している。九谷焼でインスタレーションを制作するのも、壊れやすい儚さと大事にすると100年持つ強さが理由にある」と話してくださった。

高橋さんの作品の中に入り込んで、天を見上げるとなんとも言えない不思議な安心感がある。無機物でできたこの自然に、深い温かみを感じた。

プロフィール
ライター
しお
ブランニュー古都。 ふるくてあたらしいが混在する金沢に生まれ育ち、最近ますますこの街が好きです。 タウン情報サイトの記者やインターネット情報のまとめ記事などを執筆しながら見つけたもの、感じたことをレポートします。 てんとうむししゃ代表。

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