映像2024.06.26

映画ソムリエ/東 紗友美の“もう試写った!” 第36回『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』

vol.36
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美
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『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』

▶記者の仕事に興味のある人にもおすすめ

一味ちがう!?部活要素と社会派エンタメの両立で新領域度100 

夏よりもアツイ映画かもしれない。

「知りたい」という探究心は、彼女たちをどこまで連れていってくれるのか。

高校生たちが学園の闇に迫りながら、悩み葛藤して、人生の土壌を培っていく。

奮闘する主人公たちにとにかく勇気をもらう、“社会派”青春エンターテインメントが誕生した!

情熱ほとばしるアツい映画だった。

これはシンプルに、自分の元気を満タンにしてくれるような映画。夏の一押しとして紹介したい。

本作は、とある高校の新聞部を舞台に、大人たちの悪事を暴いていく高校生たちの姿を描いた“社会派”青春エンターテインメント。アイドルグループ「櫻坂46」の藤吉夏鈴が映画初主演を務めたことで話題を呼んだ。

(あらすじ)
文学少女の所結衣(藤吉夏鈴)は憧れの作家“緑町このは”が在籍するといわれている名門・私立櫻葉学園高等学校に入学。しかし、文芸コンクールを連覇するなどエリートの集まる文芸部への入部は叶わなかった。落ち込む結衣に文芸部の部長・西園寺茉莉(久間田琳加)が入部の条件を突きつける。ペンネームで活動しており文芸部もその正体を知らない“このは”を見つけ出せば、入部を許可するという条件を飲んだ結衣は、“このは”へインタビューをしたことがある学園非公認の新聞部に潜入し、その正体を突き止めようと新米記者として活動することになる。
新聞部の部長・杉原かさね(髙石あかり)に「トロッ子」(※)と呼ばれながらも行動を共にし、記者としての心得や取材の方法を叩き込まれる。
はじめは乗り気ではなかった新聞部の記者活動に次第にのめりこんでいく結衣。教師間のセクハラや、違法賭博、元教え子との密会などを次々と暴いていくうちに、新聞部は学園から煙たがられる存在になっていった。新聞部に対し圧力をかける沼原理事長(髙嶋政宏)から理不尽な仕打ちを受け、耐えかねたかさねは理事長に一発くらわせ退学に。新聞部に残された結衣は、一念発起。元文芸部の松山秋(綱啓永)らと協力して、理事長、そして学園の闇に切り込んでいくのだった。(プレスシートより)
※「トロッ子」とは新聞業界用語で「新人記者」のこと。現在ではほとんど使われていない。

熱のこもった映画だった。新聞部ってこんなにアツイんですね?と思わず唸った。

まるで新聞社のインターンに参加し、記者の仕事を擬似体験したかのように仕事に詳しくなっていけるのが純粋に楽しいし、何を思いスクープを狙うのかについての胸の内を以前よりも理解できた気がする。外側と内側の話にも触れることで楽しく学ぶことができた。

また、特ダネを掴むまでにどのような行動を取るのかはまるで、知られざる世界を目の当たりにしていくスパイ映画のような高揚感があるし、真相を暴いていく様子は観るものまで達成感を覚える巧みな演出になっていた。

一難去ってはまた一難と言わんばかりに、次々に問題がのしかかるが、まるでそれをダンジョンをクリアしていくかの如く、1つずつ自分たちで問題を解決していく姿勢は痛快の極みだった。

脚本も面白く、華麗に豪快に二転三転していく様子からは目が離せない。

最終的にこの物語がどこに執着するのか、私もなかなか読めなかったが、見事で爽やかな着地点だったことを言及したい。

部活中心の学園生活でありながらも、多角的な視点から学生たちの日常を捉えている姿勢にも好感を持てる。

彼らの苦労や希望、友情やシスターフッド、努力や挫折や裏切りなどが交錯し、全体的に映画的な見応えと力強さが感じられる。

誰しもが最初にぶつかる社会の縮図とも取れる”学校”という空間で、人生の扉を開いていく様子は見事だったし、傷を負いながらも小さな一歩を踏みしめるキャラクターに生身の存在感を感じられた。

 

そして、日本映画界の次世代を担う新星が集結しているのも言及したい。

藤吉夏鈴の心に秘めた情熱と葛藤と躍動を瑞々しく演じた次世代のヒロイン性、
髙石あかりのどんな表情もスクリーンに映えるコメディエンヌな佇まい、
久間田琳加の明るい印象を閉じ込めたしたたかな存在感、
綱啓永の真面目さが活きた文化系男子としての説得力、
中井友望の揺らぎの感情を見せつつも芯のあるブレない眼差し、
ゆうたろうの同級生にいてほしいと思わせる友人的安心感。

学園生活に多彩な輝きを見せてくれるメンバーがそれぞれの場所で光り、新鮮な魅力を振りまいている。

 

最後に私が最も刺さったのは冒頭にも紹介した、この映画の持つ社会性だ。

若者の屈託のない青春だけを写している映画ではない。実はこの映画が秀でているのは、この学園生活で起こる事件でありながらも、大人である私たちもいま目の前で経験しているかのような”社会の縮図”のようになっているのが面白い。

 

─これは高校生の話なのだろうか。青春映画から始めるSDGs…とまでは言えないかもしれないが、堅苦しくないし説教臭くないけれど若者の部活モノという枠にとどまらない、社会を良くしたい想いがこの映画には充満している。

瑞々しい学園ものの雰囲気は残しつつ、その辺りが本作を骨太な1本として昇華させており、それゆえ、世代を超えて楽しめるのではないだろうか。

劇場版の『ウォーターボーイズ』(2001)や『ちはやふる』(2016)、『チア☆ダン』(2017)など部活を題材に自分たちの世界を広げていく素晴らしい作品は数あれど、本作『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』は、その辺りがアップデートされている印象だ。

新聞部を題材にしたことにより、学校生活の枠にとどまらず、それぞれが信念に向き合いながら、社会と密接に関係してくのが見事であった。

個人の力の集結で学校という名の”社会”をどうにか変えようとしている姿勢、一人一人の力を諦めない姿勢になんとも強い馬力を感じる。スクリーンでほとばしる彼女たちの情熱に触れてほしい。

『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』8月9日公開

出演:藤吉夏鈴(櫻坂46)、髙石あかり、久間田琳加、中井友望、綱啓永、外原寧々、ゆうたろう、八木響生、筧美和子、石倉三郎、髙嶋政宏
監督:小林啓一
脚本:大野大輔
原案:宮川彰太郎
音楽・主題歌:クレナズム「リベリオン」
エグゼクティブプロデューサー:佐藤現
プロデューサー:久保和明 浅木大 松嶋翔
企画:直井卓俊
撮影・照明:野村昌平
録音:日高成幸
美術:竹渕絢子
編集:田村宗大
特別協力:東日印刷株式会社
制作プロダクション:レオーネ
製作幹事:東映ビデオ
配給・宣伝:東映ビデオ/SPOTTED PRODUCTIONS
(c)2024「新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!」製作委員会

公式HP:torokko-movie.jp
公式「X」:  / torokko_movie
公式「Instagram」:  / torokko_movie

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。

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