映像2022.08.24

映画ソムリエ/東 紗友美の”もう試写った!” 第14回『線は、僕を描く』

Vol.14
映画ソムリエ
Sayumi Higashi
東 紗友美

『線は、僕を描く』

▶殻を破れ!新しいことを始めるときの勇気をもらえる度:100

圧巻の水墨画をスクリーンで堪能!アートに触れたい人にオススメ!

 

芸術の秋公開!これこそ映画館で出会うアートと言っても過言ではありません。
期待作「線は、僕を描く」は水墨画に心惹かれていく少年の青春映画です。
主人公は”水墨画そのもの”ともいえる本作。
まさか、水墨画というものがこれほどまでにエンターテインメントだったなんて。

大学生の青山霜介(横浜流星)は、絵画展の設営アルバイトの現場で水墨画に出会います。
白と黒のみで表現された水墨画は、霜介に大きな衝撃をもたらしました。
そんな中、水墨画の巨匠・篠田(三浦友和)に「弟子になってみない?」と声をかけられます。
まずは水墨画教室の生徒として水墨画を学ぶことになりますが次第に才能を開花させていき、どんどん水墨画の世界に青年は魅了されていきますが……というお話です。

小泉徳宏監督を筆頭に、『ちはやふる』シリーズの製作チームが再集結しました。
誰も題材にしたことのなかった競技かるたという種目を世間に広めた映画『ちはやふる』チームが再集合なんて、これを聞いただけで期待値が膨らみましたが、感想はお見事!!!
青春指数高め・情熱的だけれど爽やかな映画でした!
水墨画を始めたくなります。
これをきっかけに習ってみようと思う方、大勢いるのではないでしょうか。

周囲に心を閉ざし、自分には何もないと思っていた人間が、何かに夢中になることで”生きる意味”を見出していく。
そんな普遍的なストーリーは、現状になんらかの不満を抱えている人にとっても、自分の人生が好転する可能性があることを教えてくれるからポジティブな気持ちになれます。

水墨画の監修は、水墨の新しい表現の可能性を探りつつ精力的に活動されている小林東雲氏が担当しました。
そして東雲先生のもと、役者陣は水墨画を猛特訓。
特に主演の横浜流星さんは1年かけて水墨画を習得したそう。横浜さんの筆さばきは、素人目にも変化していることがわかり、劇中におけるキャラクターの成長過程の描写としても、演技にリアリティを感じることができました。
監督も「ものすごい気合だった」と横浜さんの水墨画への向き合い方を絶賛。
多忙な横浜さんですが、少しでも時間が空くと「練習がしたいです」と連絡が入っていたそうです。ご注目を!

そして、鑑賞前後で水墨画を見るポイントが変化する映画とも言えます。
ぼかしで濃淡・明暗を作り、線で面を捉えていく。白でも黒でもない、グレーな世界。
この2色の間に存在する無限の色の奥行きに触れることで今まで気づけなかった色を意識するようになり、自分の感性も刺激されているような手応えを感じる映画でした。
映画は改めて、自分の視野を広げてくれる扉だと気付かせてくれます。
正直なことを申し上げますと、これまでこんなに”じっくり”と水墨画を眺めたことがなかったのですが、その魅力に改めて気づくことができて、日本人として嬉しい限りです。
「好き」と言えるものが芸術の分野でまたひとつ増えた喜び。

まっさらな白い紙、そこに描かれる一筆の墨の線。
下書きもできない。1度書いたら消すこともできない。
時に、慎重に、優美に、大胆に、自分だけの濃度で描き続けていく。
それはまるで私たちの人生のようではないでしょうか。

芸術の秋、
映画と水墨画を同時に愉しむことのできる本作はまず見逃せない作品と言っていいでしょう。


『線は、僕を描く』
10 月 21 日(金)全国ロードショー
原作:砥上裕將「線は、僕を描く」(講談社)
監督:小泉徳宏(『ちはやふる』 『カノジョは嘘を愛しすぎてる』)
脚本:片岡翔 小泉徳宏
企画・プロデューサー:北島直明
音楽:横山克
キャスト:横浜流星
清原果耶 細田佳央太 河合優実
矢島健一 夙川アトム 井上想良/富田靖子
江口洋介/三浦友和
配給:東宝
©砥上裕將/講談社 ©2022 映画「線は、僕を描く」製作委員会

プロフィール
映画ソムリエ
東 紗友美
映画ソムリエ。女性誌(『CLASSY.』、『sweet』、『旅色』他)他、連載多数。TV・ラジオ(文化放送)等での映画紹介や、不定期でTSUTAYAの棚展開も実施。 映画イベントに登壇する他、舞台挨拶のMCなどもつとめる。 映画ロケ地にまつわるトピックも得意分野で2021年GOTOトラベル主催の映画旅達人に選出される。 音声アプリVoicyで映画解説の配信中。

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