スペース2020.03.18

努力と経験、そして仲間と「共に創り楽しむ」スタイル、 だからこそ生まれる唯一無二の空間

大阪
株式会社スタジオアーツ 代表取締役社長
Yuji Asahina
朝比奈 雄二

企業のショールームから博物館などの空間デザインの設計・企画、デザイン業務などを展開している株式会社スタジオアーツ。代表取締役社長の朝比奈雄二(あさひな ゆうじ)さんは、「共に創り楽しむ」をモットーに、クライアントとお互い正直に言い合える信頼関係を築いています。仕事の質にこだわり、提案の事前準備にまで一切の妥協を許さない真摯(しんし)な姿勢で取り組んでいる朝比奈さんに、仕事をするうえで大切にされていることや今後の展望に加えて、クリエイターへの熱い思いも伺いました。

突然幕が開けた起業への道

これまでのキャリアについて教えてください。

もともとグラフィックデザインに興味があって、高校もグラフィックデザイン科を卒業し、空間デザインの施工を主力にしている会社に就職しました。そこで空間の壁面におけるグラフィックデザインを担当するうちに、平面的なデザインにも興味が出てきたので、転職を決めたのです。ところが、転職先の入社日を待つだけの状態になったときに、先方の業績不振、悪化などにより急きょ内定取りやめの連絡がきて…。

それは青天の霹靂(へきれき)でしたね

相当落ち込んだのですが、その2日後に前職から「仕事を手伝ってほしい」と連絡をいただいたので、気持ちを切り替えて個人で活動することを決めました。フリーになって最初の仕事が神戸市にある「阪神・淡路大震災復興支援館(フェニックスプラザ)」の設立に関わる、約1年に及ぶ大掛かりな仕事でした。それと並行して、クライアントから紹介でいただいた仕事もどんどんこなしました。

当初から法人化も視野に入れて活動されていたのですか?

いずれはと考えてはいたものの、まだまだ先の話と思っていました。ところが、よくしていただいていたクライアントが倒産に陥って、そこで働いていた空間プランナーの方2人が私の元に、その後大きな仕事が入ったりしたので、法人化したのです。その数年後に今度は前職の会社も閉めることを知り、そこの施工スタッフ7人も加わっていただくことになり、施工部門としてアトリエを設置しました。スタッフが一気に増えたタイミングで、僕自身の仕事のスタイルも変えました。

視線は常にクライアントの向こう側

具体的にはどのような変化があったのですか?

それまでは、とにかく仕事の数をこなすことに一生懸命になっていたのですが、「このままいくと体力的に厳しくなって長くは続けられない」と感じ、数よりも一つ一つの質を上げることに重きを置くようにしたのです。例えば、展示会の場合、細かい解説のパネルなどはスタッフに任せて、僕はデザインだけに集中するといった仕事の振り分けをして、じっくり取り組みました。その結果、件数がこなせない分、一時的に売上は下がったのですが、常にクオリティ―の高いものを求めて、自分で自分のハードルを上げ続けたことで、実績として良いものを残すことができました。基本的にのんびりした性格ですので、毎回自ら追い込んで奮い立たせています(笑)。

現在の事業内容を教えてください。

主に空間デザインの設計や企画、それに関するデザイン業務と施工業務になり、一般企業のショールームから公共施設の博物館までを手掛けています。ほとんどの場合、プロポーザル(企業コンペ)があるので、施工事業社と組んで参戦します。その際は、同時に複数の施工事業社からお声がかかり、泣く泣くお断りすることもあります。

実績を積まれているから、いろいろとお声がかかるんですね。仕事上心掛けていることはありますか?

僕たちは、一緒に楽しく創り上げてくれる人たちに喜んでもらう結果が残せるよう取り組んでいます。そのための企画力、発想力も弊社の強みでして、良い意味でクライアントの期待を裏切るセンスの良いものを提供できるよう心掛けています。弊社の提案内容は、クライアントに向けてではなく、その先にいるお客さまを想定しています。空間デザインであれば、来場者にどう響くのか、どう喜んでもらえるか、理解を深めてもらうにはどうすればいいのかなどを考えています。クライアントから言われた通りのものを仕上げるのは楽なのですが、クライアントの案がそこから外れていれば、良いものを創るため忌憚(きたん)なく意見します。現在、担当している博物館も、学芸員や研究所、市役所の方など、施工事業社の担当者が集まって打ち合わせをするのですが、対等に意見を述べ、よく議論が白熱します。

何事もとことんやらなきゃ気が済まない!

それぞれ専門的な知識や知見が必要になってきますよね

そうなんです。提案するにあたり、本来であればクライアントへのヒアリングや、机上の知識だけで済ませることが多いと思うのですが、僕の場合は知見を深めるために、お客さまの声を直接聞きに出向くことがあります。例えば、シューズメーカーの仕事では、ユーザーに向けた新商品発表イベントに同行させていただき、来場者のダイレクトな反応を見聞きして、提案内容の参考にしました。最近手掛けた「のと里山里海ミュージアム」の場合は、下調べに一週間ほど現地を歩き回り、調べ物をしたり、地元の方と会話をしたりして、生きた情報収集に務めました。

そこまで事前準備をされるんですね。

うわべだけの資料では納得できないので、いろいろな知識を集めて、そこから必要なものだけをアウトプットして先方に提出しています。記載内容の根拠となる知見もしっかりと自分の中に蓄積しておき、クライアントから質問されても、即答できるようにしています。また、先方に提出する案は1点でも、複数案を必ず頭に入れておくようにして、どのような意見に対しても説明できるよう心がけています。当然、予算も労力もかかりますので、相当しんどいときもあります。でも、目先の利益を追いかけるのではなく、その商品が売れたり、来場者の反応が良かったりと結果が出れば、弊社の利益や次の仕事にもつながります。一時期、社長業に専念し、現場を離れたことで、改めて仕事に対する取り組み方を考えられたことが大きかったですね。一緒に仕事をした大手施工事業社の方も、僕たちのデザインに対する向き合い方を見て、「もっと早くに知り合いたかった」と言ってくださり、ますます仕事で良いお付き合いをさせていただいています。

目指すは日本一のクリエイティブ集団

今後の展望について教えてください。

ビジョンとしては、3年後、5年後とあって、5年後には関西といわず、西日本、そして日本で1番といわれるくらいのクリエイティブ集団を目指しています。それにはさまざまなハードルがありますので、まずはスタッフのモチベーションを上げることに力を入れています。また、博物館の多くはバブル期に建てられているのが多く、老朽化のための建て直しやリニューアルの時期を迎えつつあります。時代が変われば、価値観や人々のニーズも変化していくのですが、いまだに博物館はこうあるべきだという考えが残っていて、それを我々は打ち破ろうとしています。弊社のように、企画、デザイン、現場のスキルもあるデザイン会社って少ないので、競合他社とも力を出し合って皆が笑顔になれるような空間を創り上げていきたいと考えています。

今後より高みを目指すなかで、どのような人材を求めていますか?

志と熱意があり、この仕事が本当に好きで一生をかけてやりたいという人ですね。あとは、デザインを創り上げていくうえでクライアントとのコミュニケーション能力も重要なので、相手が1,2を話したら7,8まで理解できる人です。先方も、頭の中にぼんやりとあるものを具現化するために仕事を依頼するわけですから、1から10まで全部言わないと分からない人はデザイナーには向いていないと思います。弊社はデザイン・企画などすべてにおいて、ありきたりのものは求めていません。デザインは無限なので、面白いものはより面白くと、それをずっと追求している感じです。

クリエイタ―に向けて一言お願いします

一言では難しいですね(笑)。 まず前置きで、この表現であっているか否かはさておき、 クリエイティブディレクターとは(0を1にする人) アートディレクターとは(1を10にする人) デザイナーとは(10を20にする人) と仮に定義するとわかりやすいかと。

デザイナーとしてのスキルを磨くにはセンスも必要ですが、一番大切なのはコミュニケーション能力です。そこで周りより(一つ二つ抜きん出るくらい)頑張ると、アートディレクターやクリエイティブディレクターへの道が待っています。

でも大体はデザイナーを途中で挫折してしまうんです。下積みは厳しいですから・・・。きっちり努力して諦めるのならいいのですが、どうしても楽な方に流れてしまいがち。近道もしたくなります。基本を全てマスターしたうえで、要領良くショートカットするのはいいのですが、そういったことが疎かなままで、近道だけをするのは良くないです。知らなきゃいけないことを知ろうとせずにゴールに行こうとしても、何かしらつまずきが出てきます。まずは経験と努力が必要です。でも嫌々取り組んでも経験にはつながりません。まずは相手が望んでいることを深く知った上で熱意を持って提案ができるように。時にはプライドを捨てる勇気を持って欲しいと思います。 クリエイティブを楽しみ、今を楽しむことで、自然と力も付いてくると思います。これからのクリエイティブワークを思う存分楽しんでください。

取材日:2020年1月30日 ライター:川原 珠美

株式会社スタジオアーツ

  • 代表者名:代表取締役社長 朝比奈 雄二
  • 設立年月:1996年創業、2010年 法人設立
  • 資本金:2000万円
  • 事業内容:空間デザインの設計と企画、デザイン業務 内装仕上工事業の調査、企画、設計、監理、施工業 建築工事業、大工工事業の調査、企画、設計、監理、施工業 宣伝広告に関する企画および制作 文化・スポーツやその他の催事の企画・制作および運営と実施 商品の開発およびセールスプロモーションに関する企画と実施
  • 所在地:〒542-0081 大阪市中央区南船場2-2-28順慶ビルヂング 4F
  •  〒542-0066 株式会社スタジオアーツ大阪営業所:アトリエスタジオアーツ 大阪府大阪市中央区瓦屋町2丁目3-7
  • URL:http://www.estudio-artes.com/
  • お問い合わせ先(本社):06-6264-2887

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