プロダクト2020.01.22

過去は振り返らない。諦めない精神でガラスの新たな未来をつくる

福岡
浜新硝子株式会社 代表取締役社長
Shingo Kano
過能 史光

「たまたまガラス屋に生まれて、たまたま後を継ぐことに。しかし、やるからには過去は振り返らない」と浜新硝子株式会社の3代目、過能史光さんは話します。九州を中心に全国へとガラス製造・販売を手掛ける老舗会社はその業績に甘んじず、新たなチャレンジとしてオリジナルブランド「STYLE GLASS」を作り上げました。その生みの親でもある過能さんに、立ち上げた思いや開発秘話、そして会社の展望などを伺いました。

継ぐ気がなかった家業の道。やるからには人より一歩先へチャレンジ

ご自身のキャリアや家業を継がれた経緯を教えてください。

浜新硝子は創業者でもある祖父が八百屋からガラス屋に転じたのが始まりです。その後、高度成長期に入る前に有名な大川家具のガラス加工・販売会社として浜新硝子を設立し、私で3代目になります。この業界に入って 31 年が経ちましたが、その前はシステムエンジニアをしていました。プログラマーやSEがもてはやされた時代で、業界が一番忙しかった頃です。当時は実家に帰る気がなく、家業を継ぐつもりもなかったのですが、半ば無理やりに呼び戻されて、今に至ります。

入社後、仕事に対する気持ちは変化しましたか?

笑い話ですが、跡を継ぎたくなかったので、入社したらもっと仕事が嫌になりました(笑)。何が嫌かって、一番は発展性が見えなかったことです。製造業は決まったことの繰り返しで、こんなに沢山の製品を作ってどこで消費するのか疑問でした。その直後にバブルが崩壊。すると先代がリストラを言い出したので「ちょっと待った!」と。いずれ自分が継ぐ会社なら将来は自分で見つけたいと考え、当時の浜新硝子が置かれている位置やマーケット情勢などの市場調査をするために、全国視察をしました。そこには浜新硝子を取り扱う代理店を増やす狙いもあり、実際に市場も潤沢で半年ほどで代理店を 20 店舗作ることに成功しました。浜新のポリシーに「諦めない精神」があります。周りと同じことをやっても同じかそれ以下にしかならない。だから、一歩先の新たなチャレンジをしようと思い、その考えに基づいた結果です。

時代に合わせた新しいガラスが未来をつくる

現在の事業内容を教えてください。

基本的にガラスの加工業という本質は変わっていません。それを軸にいろいろな商品開発をやっています。現在はマーケットアウトの時代。言い換えればカスタムオーダーの時代です。お客さまの求める要素が変わってきて好みも多様化しているため、個々のためにものを作る時代になりつつあります。浜新硝子としてもそこに取り組みたい。これからの一番大きな要素にもなっていくでしょう。

新たにデザインガラスを作られましたが、取り組んだ変遷ときっかけを教えてください。

私が代表に就任した約16年前、浜新硝子として新しい要素が必要だと感じたのがきっかけです。次世代につながるものを作りたい一心で海外のガラスを調べました。そして視察に行ったイタリアで、芸術的なガラスにカルチャーショックを受け「これをやるしかない! やる!」と決めたのが原点です。もちろん不安はありました。不景気な時代にやっていけるのかというのもありますが、自分自身への不安が大きかったです。代表になりたくてなっていない私に「社員は付いてくるか? 会社に自分は必要か?」と。ですが表面上は自信満々でいなくてはいけない。だからこそ、自信をつけるためにまだ世に無いものを手掛ける必要があり、それがデザインガラスでした。何かを作らなくてはいけない、でもどうしたらいいのか、そんな自分の中の不安感や自信のなさが仕向けていった結果が今に至っています。

諦めなかったことが成功への鍵でしょうか?

そうだと思います。諦めたらそこで失敗ですが、諦めなければそれは成功の可能性です。お客さまに対しても同じことが言えます。諦めないことは仕事に真剣に向き合うこと。デザインガラスもその結果だったと解釈しています。

オリジナルブランド「STYLE GLASS」について教えてください。

浜新硝子の技術には「ガラスの料理人」というコンセプトがあります。料理の世界に二つ星や三つ星という基準があるので、ガラスにその基準を置き換えてみました。例えば「どんなガラスにしたいか?」という問いに明確な答えを出せる方はほとんどいません。プロダクト側から提示されたものから選ぶくらいです。それを覆すために作ったのが「STYLE GLASS」です。基本素材のガラスに和紙や金属やインクなど異素材を加えて加工することで、お客さまがイメージするガラスを作り上げることができ、唯一無二の空間作りへとつながります。そこをターゲットとしているのが今のスタイルでありブランディグです。

「やりたい!」が成長の種。人生経験を生かした人材育成へ

会社の将来ビジョンや「STYLE GLASS」についての展望を教えてください。

「STYLE GLASS」は、ガラスのことを知らない方へ分かりやすく伝えるもの。お客さまに感性を持ってもらい、刺激を与えるための仕掛けであって、これからが重要と考えています。次の展開を「STYLE GLASS+(プラス)」として提供の在り方を変えていくのが浜新硝子の未来のやり方です。ただのガラス屋ではなく、お客さまの求めるスタイルを提案から提供までできるブランドを目指しています。

一緒に働くスタッフに対して、会社としてどのようなことを求めていますか?

自分のやりたいと思うことを徹底的にやらせます。私は社員に対して教育という言葉を使いません。育てるのは当たり前だからです。我々が目的とする到達点は育成です。その育成をするうえで重要なのは、自分がやりたいという思いがない限り、人は育たないということ。これは私の社会人人生から学んだ、育成における一番重要な種です。32才で代表になって興味がない経営をすることになり、やる気が出て初めて実になった経験から興味を持って何事にも取り組むべきということです。だから、社員のやりたいことはできるだけかなえてあげたい。これは、先代から継承した浜新硝子の精神で一番大切なことだと思っています。

取材日:2019年12月17日 ライター:井 みどり

浜新硝子株式会社

  • 代表者名:代表取締役社長 過能 史光
  • 設立年月:1972年10月
  • 事業内容:板ガラス製品の設計、加工、販売
  • 所在地:本社・福岡工場 〒832-0089 福岡県柳川市田脇213-1
        九州営業部・佐賀工場(JIS認定工場) 〒842-0063 佐賀県神埼市千代田町迎島 1290-1
        東京営業所:〒130-0011 東京都墨田区石原 1-1-8 ノナカビル 5階
  • URL:http://hamashin.glass/
  • お問い合わせ先:0944-72-6877

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