グラフィック2019.10.23

「完成する表現に向かって、何が最適か」よりよい答えを求めて研磨し続けることは面白い

東京
株式会社シャフト 代表取締役
Seiichi Hashimoto
橋本 誠一

本当に質のいいものは色褪せない。株式会社シャフト代表の橋本誠一氏が見せてくれたこれまでの仕事を見れば、その答えの意味を実感することができます。株式会社シャフトは自動車メーカーを中心に、さまざまな広告企画制作を行う会社です。何年も前のデザインも、古さを感じさせることのないインパクトがある洗練されたデザインを生み出し続けています。一方で時代は常に進んでいることを意識しているという橋本氏。表現の挑戦を続けてきた橋本氏に、広告企画やクリエイティブのスタンスについて伺いました。

20年もの時間を駆け抜けた実力派の制作会社『シャフト』とは

橋本さんが会社を立ち上げたきっかけとその歩みについて教えてください。

僕はプロダクションのデザイナー出身です。2000年に独立し、シャフトという屋号で事業を立ち上げました。その後法人化し来年で20周年になります。
以前在籍していた会社も車関係が多かったこともあり、独立してからもメーカー系や自動車の仕事が中心でしたが、今では家電メーカーやアパレルなど、全般で仕事を受けています。 グラフィック、Web、ムービーなどさまざまな依頼がありますが、比率としては自分が元々グラフィック畑の人間なので、グラフィックの方が多いです。

自動車関連のお仕事が多いと伺いました。車のCMの制作で注目されている理由はなんでしょうか?

車の業界は商品ビジュアルに対する意識がとても高いのです。広告制作費が削減されている業界も多い中、このご時世でもプロダクトショットを重視し、莫大なお金と時間をかけています。私がこの業界でやってこれたのは、グラフィックやカタログ関連の商品のコミュニケーションにおいて、ビジュアル制作のクオリティーで評価を頂いている点だと思っています。

アートディレクションも担当されているのでしょうか。

そうですね。企画、アートディレクション、デザイン、フィニッシュまでを担当します。実際にロケハンにして、撮影場所を決め、モデルを決め、フォトグラファーを決め、ロケハンに行き、本撮影に立ち会います。撮影はだいたい2〜3週間程度でしょうか。80〜90年代の頃はロケハン1ヶ月、本番も1ヶ月なんて贅沢なやり方もしていましたが、今はロケハンとロケを一緒にやる事も多いですね。さらに合成技術も上がりましたので、そこまで時間をかけることは殆どなくなりました。

徹底した分析が、必要なストーリーと求められるデザインを導き出す

 

制作されたカタログにはページをめくるたびに次が見たくなる面白さがあります。このような人を惹き込むデザインを制作するためのこだわりを教えてください。

例えば、このカタログの表紙の背景は海外ですが、車を撮影したのは千葉県です。照明も仕込んで外で撮影しました。
いろんな方法があって、完成する表現に向かってどんな手法が最適なのかということを選定していきます。CGでやるのかどうかもその選択のひとつです。 カタログは読み物なのでストーリーがあります。よく、スポンサーから提示されたイメージに沿ってデザインすると思っている人がいますが、そうではありません。メーカーから頂くのは「こういう車が出ました」という商品情報と販売戦略のみです。それを元にターゲットを徹底して分析して、顧客像を描き、クリエイティブに落とし込んで行きます。
与えられた素材を使って形にするプロダクションは多いと思いますが、当社はオリジナルの企画制作が得意です。実際に話を伺って、ゼロから発想するスタイルでオリジナリティを重んじます。代理店さんからの案件で「うちの内部では出ないアイデアだ」といい意味で言っていただく事も多いですね。うちの強みはそこです。

想定ターゲットに対して購買意欲を持ってもらうプランを立てるということですね。

分析を受けて、例えば『この家族は二子玉川に住んでいて、奥さんは何歳くらいでご主人はIT企業に勤めて、年収はいくらくらい』というように仮定のライフスタイルを設定します。女性だったら、どんなファッションブランドを好むのか、どんな暮らしに憧れているのか、などと、人物像をイメージしてビジュアル開発していきます。スポーツカーひとつにしても、お金持ちの2台目のスポーツカーなのか、本気の若者のスポーツカーなのか、ターゲットが違うと出てくる表現も違います。

雑誌とカタログの写真はやはり違いますか?

違いますね。雑誌の写真は撮ったらほぼそのままの、ありのままの写真です。逆にカタログ写真は多くの加工を施します。

昔、カタログもフィルムで撮っていた時代はカラークリエイティブも初期の時代、当時はカラー合成のことをレスポンスと呼んでいたのですが、これはイスラエルの会社が開発した写真合成ワークシステムの名称で、通称としてそのまま使われていました。風景写真の電線を消すのに何百万円単位のコストです。それでもみんな電線が全部消えると感動したものです。現在ではMacとPhotoshopでいろいろいじれるようになりましたが、以前は合成しないと不可能であろうビジュアルを何日もかけて、天気待ちをして、一発で撮っていたんです。ですが今は何かとコストを抑える傾向が強く、すぐ合成写真やCGに頼ってしまう。それか、諦めてシャッターを切る。残念ながら現在は海外のクリエイティブの方がじっくり撮られたものが多いと感じます。

これから車の市場は変化していくと思うのですが、意識したことはありますか。

意識はしますが、車を本質的に捉えるなら「移動する能力を上げてくれるもの」です。それは誰もが憧れる感覚で、相棒的な面もあります。それとは別に、楽しみたいという欲求を満足させるものとしての車がありますが、今はその楽しみの部分がモバイルツールやITなどへと移っています。スポーツカーも減っています。用途として移動手段として求められる部分が大きいので、移動する部屋という感覚が強くなるでしょうね。自動運転が実用化されれば、ゲームをしながらちょっと大阪へ、なんて使い方も可能になります。そうなってくるとまさに「動く部屋」ですよね。今は過渡期ではないでしょうか。

ジャンルを問わずに向けられる興味がクリエイティブにつながっていく

 

オリジナルの自主作品も作られていますよね。

その壁面の作品は、カメラマンからコンペに出したいという話があり、撮影して、パリのPX3というコンペに出品しました。そこで銀賞をいただいています。この作品は半立体の壁面作品ですが、色がどんどん変わっています。最初は色々な色を使っていたのですが、ここに引っ越した時に白に塗りました。

仕事でこれだけ制作されてさらに趣味でも作品を作っていらっしゃいますが、クリエイティブとはご自身にとってどんなものですか。

僕にはそれしかないんです。作ることが大好きなんですよね。作ることは色々やっています。実は3Dプリンターもあります。これで立体物が作成できます。元々は趣味で車のパーツを作ろうかと思って入手したのですが、こんな便利なものを使わない手はないと商品開発に使い始めました。
自分で3Dアプリでデザイン、設計したものが直ぐに形に出来る、プロトタイプ制作が本当に早い。良い時代ですね。 他にブリーフケースなどもあります。これは特許を取って、現在伊東屋さんで販売しています。一見A4のブリーフケースなんですが、A3の紙も折らないで収納できます。先日、板橋区が主催した製品技術大賞で優秀賞を頂きました。

好きでなければ、楽しくなければできないことがある

やりたい気持ちが色んなものを制作していくんですね。

レーシングカーのカラーリングもやっていて、自身の車のラッピングもやったことがありました。色んな発想があって、それをたくさんアウトプットしたいんですが、全部やっていると時間が足りなくなりますよね。今後は色々な優秀な人達の力を巻き込んで、一緒にやるというやり方も考えています。若い学生さん、インターンと一緒に組むというのも面白いかもしれませんね。

クリエイティブ業界に長くいて、これからこの世界に入りたい人にひとことお願いします。

2つあって、ひとつは「ものすごく好きじゃないとできない」ということ。この「できる」というのは一般的平均点の事ではなく、上を目指すという意味です。平均点か、その下でも良いという発想をする人はこの業界には向いていません。極めていきたいと思った時に、そのモチベーションは好きかどうかがかなり影響すると思います。
第一線でデザインやビジュアルに関わっている人々は、たとえば街を歩いて、路面の質感や信号機が変わった、ガードレールの色が変わった、街路樹が綺麗になった、あのビルのデザインは未来的だ、そういうことを自然に見ているんです。訓練してがんばるというものでもない。頑張ってそうしようという人は、いずれしんどくなるんじゃないかと思います。 クリエイティブ職になりたいではなくて、どんな仕事でも、やりたいことで働くにはこの仕事だったと思えるなら結果的にそれは好きと言うことですよね。
もうひとつは「第三者的に見る」ということ。自分の価値観を信じすぎてはいけないと思っています。経験を積めば積むほど、先入観ができてしまう。自分が見たいものだけ見ていると気づけないことがたくさん出来てしまう。いつも初心に返ってリセットし、広く見ること、長期的に見ることが大切です。自分が居なくなってからの未来の想像もするべきです。それはクリエイティブ制作にも通じることだと思います。

取材日:2019年9月2日 ライター:久世 薫

株式会社シャフト

  • 代表者名:代表取締役 橋本 誠一
  • 設立年月:2000年11月
  • 資本金:3,000,000円
  • 事業内容:広告企画制作
  • 所在地:〒106-0045 東京都港区麻布十番2-21-6 アクシア麻布605
  • URL:http://www.azabu-shaft.co.jp/
  • お問い合わせ先:info@azabu-shaft.co.jp

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